劇場公開時にちょっと気になりながら観れていなかった映画を VOD にて鑑賞。さすがに Prime Video には来ておらずペイパービューだけだったので、PS4+PS Video を利用しました。
知らない人はいないほど有名な、アガサ・クリスティ原作サスペンスの映画化。あまりにも有名すぎて何度も映像化されているし、NHK でもイギリスのドラマ『名探偵ポワロ』の一エピソードとして何度も放送されている話です。
主演は『ハリー・ポッター』シリーズでのロックハート先生役や、近年では『ダンケルク』にも出演していたケネス・ブラナー。渋い配役だと思ったら、主演だけでなく監督も務めているとか。直近ではディズニーの実写版『シンデレラ』の監督も務めていたというから、監督としても実力派だったんですね。
そのほかの役者陣もジョニー・デップ、ミシェル・ファイファー、ペネロペ・クルス、ジュディ・デンチ(『007』シリーズの「M」役)、デイジー・リドリー(『スター・ウォーズ』新三部作のレイ役)、ウィレム・デフォー(『スパイダーマン』のノーマン/グリーン・ゴブリン役)、ジョシュ・ギャッド(実写版『美女と野獣』のル・フウ役)と、顔を見ただけで役名ではなく本名の方が先に出てくるレベルの名優揃い。
『オリエント急行殺人事件』といえば私でもオチを知っているほどよく知られた話です。誰もが犯人やトリックを知っているようなミステリーを今さら映像化して何になる?という疑問が湧きそうなところですが、これはもはやサスペンスの古典であり「犯人が誰か」というよりは「この独特な話と個性的な登場人物を誰がどう演じるのか」を観るためのものであり、日本でいう落語や歌舞伎の古典のようなものと言ったほうが良いでしょう。なんたって本事件における被害者ラチェット(ジョニー・デップ)が、序盤で殺されてしまうにも関わらず他の出演者よりも圧倒的に印象に残っているほど存在感のある演技が観られるわけですから(笑)、物語よりも芝居を堪能するための映画なのです。
主役のエルキュール・ポアロ(ポワロ)探偵に関しては、日本人としては NHK で放送されていたドラマ版のデヴィッド・スーシェ(と熊倉一雄による吹き替え)の印象があまりにも強く、それがどうこの映画で上書きされるのかに興味がありました。スーシェ版ポワロは禿げ頭(+帽子)に黒いちょび髭のイメージでしたが、ブラナー版ポアロは豊かな銀髪にわざとらしいくらい立派すぎる口髭。この口髭には賢さよりも力強さを感じるわけですが、実際にスーシェ版ポワロにはなかったアクション的なシーンも所々に散りばめられ、ブラナー版ポアロは若々しい印象。カンバーバッチ版シャーロック・ホームズほど大胆な演出はありませんが、既存のポワロ像を脱皮させることに成功しています。
ただ、惜しいのは謎解きのシーンで、ポアロ自身が悩んだり伏線を一つ一つ解き明かしていく様子はあまり丁寧に描写されず、ポアロがその才能でいきなり事件の真相に辿り着いたかのように見えてしまったこと。もうみんなオチは知ってるんだからそこはいいでしょと言われているように感じましたが、やっぱりサスペンスを観てるんだからそこはちゃんと溜めていってほしかった。あと、他の俳優陣も要所要所でいい芝居をしているのに、全体の印象としてはケネス・ブラナーとジョニー・デップに持ってかれた感が強いのも微妙に惜しいですね…。
65mm フィルムで撮影されたという映像は本当に美しい。真っ白い雪の中を走るオリエント急行、薄暗い列車内に射し込む光、そしてときどきアクセント的に使われる鮮やかな青。謎解きシーンでこれまでの映像化作品にはなかった「最後の晩餐」を模した構図も示唆的だったし、作り込まれた映像と芝居の重厚さには圧倒されました。それだけに、謎解きがあっさりしているのが惜しい…。
同じケネス・ブラナー監督/主演で続編『ナイルに死す』も製作中とのことなので、こちらも公開されたら観てみようと思います。
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