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ヒットマン @グランドシネマサンシャイン

あまり話題にはなっていないようですが面白い映画でした。

ヒットマン

『トップガン・マーヴェリック』で若きエースパイロット“ハングマン”を演じていたグレン・パウエルの主演作。実在した囮捜査の達人ゲイリー・ジョンソンをモチーフとした映画です。

大学で心理学の講師を務めるゲイリーは、ダブルワークとして警察で通信傍受などの技術アルバイトの仕事もしていた。ある日、委託殺人の捜査で囮役になるはずだった警官が停職処分となり、成り行きでゲイリーが「殺し屋」になりすまして委託元の容疑者の話を聞くことに。その成果を認められたゲイリーはその後も偽ヒットマンを演じ、数々の委託殺人事件を未然に防いでいく。そんな仕事を続ける中、夫殺しを委託してきた美女マディソンとひょんなことから恋仲になり、彼女の前ではゲイリーとしてではなくニセ殺し屋・ロンとして振る舞ううちに自分のアイデンティティーがどちらなのか判らなくなっていき…というお話。

本作の最大の見所はグレン・パウエルの七変化。孤独で内気な学者肌の男を軸としつつ、攻撃的だったりサイコパスだったり妙に色気のある男だったり…依頼者の好みに応じてさまざまなタイプのニセ殺し屋をノリノリで演じているのが観ていて楽しい。殺し屋って一般的には創作の世界の存在ですが(本当にいても知らないだけかもだけど)、映画やアニメでこういう殺し屋見たことあるよねという典型的な殺し屋ばかりだからこそ笑える。そして、中でもロンの人格を繰り返し演じるうちにゲイリー本人としての生活の中でもロンの人格が見え隠れしていく変化が面白いわけです。
一人の人間が相手に合わせてさまざまな人格を使い分ける映画という点ではちょうど先日観たばかりの『スオミの話をしよう』と重なるところがあり、あの作品との対比を考えながら観るのも興味深かったところ。結局のところ人間って相手や集団に合わせて多かれ少なかれ自分の役割を演じている部分があるわけで、それを創作として極端な形で見せるとコメディーになるし、同時に哲学的にもなり得ます。自分の家族だって外では多少は違う顔を見せているだろうけど、もしこれくらい違う人格を演じていたとしたら…と想像したら少し背筋が寒くなりました。

全体を通して笑いの絶えない佳作だったと思いますが、個人的に違和感があったのはラストに至るくだりでゲイリーがある罪を犯す場面。結果はハッピーエンドだし全てを丸く収めるにはそのやり方しかないように思えるけど、そこで一つ罪を犯すことで彼らのその後の人生に大きな影を落とすことになるのでは…というのが気になってエンドロールがあまりスッキリしませんでした。そこは史実ではなくフィクションとのことですが、最後の持って行き方は別のやりようがあったのではないでしょうか。

でも基本的にはよくできたコメディーでした。最近はアメリカ映画でも映像のすごさばかりで中身の薄いハリウッド大作よりはこういう映画のほうが好きかな。
公開から二週間でもう上映を縮小している映画館が多いようなので、気になった方はお早めにどうぞ。

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