家電量販のノジマが VAIO 株式会社を買収し子会社化することを発表しました。
2014 年にソニーからカーブアウトし、日本産業パートナーズ(JIP)の支援を受ける PC メーカーとして独立して 10 年余。JIP は基本的に日本企業の不採算事業を引き受けて立て直し、再び価値を高めて売却することを生業とした投資ファンドなのでせいぜい 5 年くらいで手放すのではないかと予想していました。が、気がつけば 10 年が経過してこの先どうするつもりなんだろう…と思っていた矢先の買収発表。JIP としても 10 年を一つの区切りとして動いていたということでしょうか。
しかし売却先がノジマとはこれまた意外。確か現時点ではノジマは PC 売場で VAIO は取り扱っていなかったと記憶しています。むしろヨドバシやビックの方が客層との相性は良さそうに見えます(両社とも必要としてないだろうけど)。ノジマに限らず「郊外型」と言われる家電量販店(ヤマダ、コジマ、ケーズなど)はこだわりの商品よりも最大公約数的な品揃えで効率よく数を売る販売スタイルであり、比較的高単価な説明型商品である VAIO とは合わないはず。そういう視点では今回の買収劇は不可解に見えます。
一方で、ノジマのグループ企業を見ると通信系の代理店業大手である ITX(ドコモ、KDDI、ソフトバンクなどのキャリアショップの運営を手がける。元はオリンパスの子会社)を筆頭としてニフティ(富士通から買収)、CS の海外ドラマ専門チャンネルである AXN(ソニー・ピクチャーズから買収)、カタログ通販のセシール(フジサンケイグループから買収)などここ 10 年ほどで多数の事業買収を行っています。AXN やセシールはちょっとよく分かりませんが(笑)どちらかというと情報通信系の事業強化が目立つ。決算報告を見ると家電量販店としての「ノジマ」よりもキャリアショップ運営事業(=ITX)の方が売上高では上回っており、ノジマの本業はもはや家電量販ではなく携帯電話代理店だと言っても過言ではありません。また近年のノジマ(家電量販)は都市圏の駅ビルやショッピングセンターへのテナント出店に注力していて、おそらくそれも家電販売より携帯電話の契約獲得目的なのではないでしょうか。
その ITX はキャリアショップ運営だけでなく法人ビジネスでも大手の一つであり、情報通信系商材の一つとして自社調達の PC が欲しかったというのが今回の買収の背景だと思われます。ノジマの店頭で VAIO がガンガン売られるというのはあまり考えられないけど、独立以降法人市場に注力してきた VAIO が ITX と兄弟会社になるという視点ならばまあ理解はできます。
プレスリリースによると VAIO 社の独立性は尊重され、運営方針や顧客との関係は変更されないとなっていますが、これは一般的に言って「当面の間は」という意味でしょう。競合にあたるヨドバシやビックが今以上に VAIO の販売に力を入れることは考えにくいし、オンライン販売だってソニーストアから直販(VAIO ストア)に軸足を移そうとする気配がここ二、三年は強まっていました。ITX との連携で法人ビジネスを強化するのはいいけど、コンシューマー市場へのタッチポイントが減りそうなのは不安しかないなあ…。
まあ親会社が変わっても、ソニー時代以来の開発メンバーが今でも多く残っているのは心強いところ。先日の PC Watch でのインタビュー記事↓でも多くの方がご健在であることが分かって少し安心しました。
ただ「どんな製品を作るか」は経営方針次第で大きく変わってきてしまうのでその点はやはり不安、というのが正直なところ。
個人的には誕生した頃からずっと見守り続けてきたブランドだからとことんまで付き合うつもりでいます。この大きな変化も何とか乗り越えて頑張ってほしい。
コメント
[…] 今回の買収劇については、彼が語っているのでワタシは余分なことをいう気も無いのですが、純国産のPCメーカーの行く末はなかなか厳しそうだなあと思います。 […]