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コクリコ坂から @TOHO シネマズ 六本木ヒルズ

観てきました。

コクリコ坂から

コクリコ坂から

宮崎駿氏の息子である宮崎吾朗氏の監督第 2 作。しかし、前作『ゲド戦記』は内容的には私のジブリ内ワーストに位置づけられている作品で、事前の期待値としてあまり高くない状態で劇場に足を運びました。

私は映画を観るときに事前情報をあまり仕入れずに劇場に行くほうなのですが、それでも多少なりとも得ていた情報から「吾朗氏が生まれる前の日本が舞台の作品をどう描くのか?」「処女作では父親殺しの少年を描いた吾朗氏に、今度は幼くして父を亡くした少女を描かせる宮崎駿の意図は何だろうか?」とか、どちらかというと分析的なバイアスを持ってシートに座りました。それはもちろん、『ゲド戦記』のとても悪いイメージが頭にこびりついていたからに他ならないのですが、上映が始まって 15 分もした時点では、『ゲド戦記』のことも変な先入観も完全に忘れ、映画に見入っている自分がいました。


たくましさと芯の強さを持ち、団結力のある女たち。不器用ながらも一途な男たち。ジブリ映画ではもうお約束となった構図ですが、この作品でもそれは典型的に表現されています。女の園であり、生活感に溢れた「コクリコ荘」と、男たちがやや浮世離れした活動を営む学生会館「カルチェラタン」。物語は主にこの 2 つの舞台を中心に繰り広げられます。
私がまず圧倒されたのはこの「カルチェラタン」の描写で、小汚い学生会館でありながら、外の世界と切り離されたその内部はまるでアミューズメントパーク。『アリエッティ』における人間の家だったり、『千と千尋』における湯屋のように、これから何か事件や冒険が起きそうな未知の世界として表現されています。また、この「カルチェラタン」の内部に限らずですが、この映画では『アリエッティ』と同様に音響が非常に効果的に使われており、自分がこの学生たちの一員になったかのように錯覚する音響的ギミックが多く、しかしいやらしくない程度に仕込まれています。個人的には、講堂で学生たちが校歌(学生歌?)を斉唱するシーンの包囲感にやられてしまいました。また、音といえば武部聡志の音楽も非常に良く、いつもの久石譲とはまた違った雰囲気でありながらも、ジブリの絵とこの作品の世界観にマッチしていて、好ましく感じました。

作品の舞台となっている昭和三十年代というのは、おそらくまさに私の父が青春を過ごした時代で、私はその当時のことを知る由もありません。が、経済成長し始めた時代背景もあるのでしょうが「明日は今日よりもきっと明るい」と信じられる空気感、学生ながらにさまざまなことに真剣に取り組める真摯さ、そういったものに学生時代にあまり触れられずに過ごした私には、却って新鮮に映りました。ああ、自分もこの世界の一員になってみたい、と感じたほどに。

物語の軸は海と俊、少女と少年二人の爽やかな恋と出生の秘密。どこか『耳をすませば』にも似た甘酸っぱい手触りを持ちつつも、後半にはドラマチックな展開が待っています。上下関係や礼儀を重んじ、男女はけっこうきっぱりと分かれている、という学生観は今の時代には薄れてしまったものではありますが、おそらくどちらかというと古い私の恋愛観(笑)からすると、ストレートに迫ってくるものがありました。二人が電車を待つあのシーンには、正直、きゅんとした。

本作の全体を映画として見たときに、この作品はディテールの描写や活き活きとした人間の生活の描き方、あるいは男女の位置づけ、小さな世界でもワクワクを感じさせる世界観、そういったものの全てにおいて「とてもジブリらしい映画」と言えるのではないでしょうか。今の駿氏がこの映画を脚本だけでなく監督まで担当していたら、もしかしたら「昔は良かった」がもっと前面に出て、どこか説教くさい、小うるさいものになっていたような気がします。そういう意味では、吾朗氏が監督を担ったのは正解だったのかもしれません。『ゲド』のときとは吾朗氏自身も製作体制も変わっているので単純に『ゲド』と比較するわけにはいきませんが、個人的には『ゲド』のことは忘れて、新しい宮崎吾朗監督とスタジオジブリを評価しても良いように思いました。今なら、この映画を私のジブリ作品の中でのベスト 5 に入れられるような気がします。そう評価してもいいくらい、『コクリコ坂から』は素晴らしい作品でした。

『アリエッティ』『コクリコ坂から』と 2 作続けて完成度の高い作品が出てきたことで、スタジオジブリの後継者問題にはある程度出口が見えてきたと言っていいのではないでしょうか(これらの作品に宮崎駿、鈴木敏夫両氏が実際どの程度深く絡んでいるかにもよりますが)。ただ、これらの作品から言えるのは、今のジブリは『ナウシカ』や『ラピュタ』のジブリではなく、「アニメファンでなくても楽しめる、クオリティの高い作品を製作するスタジオ」という定義が相応しいようだ、ということです。確かに『アリエッティ』も『コクリコ坂から』も良い作品だし、ジブリという完成されたブランドを守っていくという意味ではそれも正しいような気はしますが、ジブリの若手スタッフ(吾朗氏が若手、と呼べるかはやや疑問ですが・・・)には、新しい時代のジブリにこそ期待したい。次あたりはラピュタを超えるような冒険もので、我々をワクワクさせてほしいところです。

コメント

  1. むっちー より:

    頭カラッポにして観たいですね。

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