みなさんポケモン GO はまだ続けてますか?私は時々「まだやってんの?」と言われながらも、地道に続けています。今日の時点でトレーナーレベル 26、日本で収集可能な 142 のポケモンのうち集めた数は 138。けっこうがんばってるでしょ(笑。
西田 宗千佳 / ポケモン GO は終わらない 本当の進化はこれから始まる
そんなポケモン GO をテーマにした西田宗千佳氏の新著が発売されたので、私も早速読了しました。マスコミを巻き込んだ、国内サービス開始時の熱狂は過ぎ去り、ブームはもう落ち着いたように思われます。が、街中では今でもそれなりの割合でポケモン GO の画面が表示されたスマホを持っている人を見かけ、お台場にはまだまだレアポケモンを求める人々が集まっています。ポケモン GO が誕生した経緯とブームの正体、そしてポケモン GO が与えた世の中への影響を一度総括するという意味では、いいタイミングなのではないでしょうか。
位置情報ゲームも、キャラ収集ゲームも、ネット対戦系の携帯/スマホゲームもそれぞれは以前から存在したものでした。それがこれだけ世界的に、しかも垂直立ち上げ的に広まったのは、ひとえに『ポケモン』という IP の強さと『Ingress』をベースとした位置情報の網羅性にあります。中でも「身の回りに存在するポケモンを捕まえる」という行為は本来の『ポケモン』が持っていた要素そのもの。今まではゲーム機の中のフィクションの世界で表現していたものを位置情報や AR を使って拡張現実の中に作り上げたことがポケモン GO の強さの秘密であり、他の IP で同じことをやってもここまでのヒットには繋がらなかったと言えます。本書ではさらに、携帯ゲーム機版のポケモンでも「思い出のポケモンは『公園で交換したポケモン』であり、『校庭で手に入れたポケモン』だった。人の記憶は、画面の中にだけあるのではない」と指摘しています。私はゲーム機版のポケモンをプレイしたことがないのでその視点がありませんでしたが、であればなおのことスマホの位置情報ゲームと相性が良かった、ということが言えるでしょう。
まあ、サブタイトルに「本当の進化はこれから始まる」とつけられたタイミングでようやく基本的な DAU(デイリーアクティブユーザー)施策が初めて導入されたり、まさに現在行われている東北復興イベントで超レアポケモンのラプラスがフィーバー状態で、これまでに苦労してゲットしたユーザーのモチベーションを殺ぐ結果を招いていたり、正直言って運営面は素人なんじゃないかと感じてしまう場面も少なくありません。が、言い換えればこれまでは運営の拙さが問題にならないほどのブームを起こせていたということであり、そのためのインフラ増強などに運営側の工数が割かれていた結果だということでもあります。
本書は Google の一部門に過ぎなかった Niantic(ポケモン GO の開発・運営元)がいかにしてポケモン GO を生み出し、世の中に大きな影響を与えたかという話にとどまらず、スマホアプリとしては他のゲーム等とは異なる特異な普及・使用・収益状況にあること、ドラマやアニメの聖地巡礼ブームとも絡めた「コンテンツ・ツーリズム」の話、さらにはこれから立ち上がってくる AR/VR との関係性、と多岐にわたる分析がなされています。ゲームライターではなく「電気かデータが流れるもの全般」を取材対象とする西田氏ならではの観点で、単なるポケモン GO の現状解説ではなく 2016 年時点での技術トレンドや社会動向を押さえるという点でも一読の価値があると言って良いでしょう。
個人的に興味深かったのはコンテンツ・ツーリズムの話。近年のアニメでは舞台となった土地の聖地化の成功例・失敗例には枚挙に暇がありません。その本質を突いているのが、まつもとあつし氏によるこのインタビュー記事ではないかと思います。
ASCII.jp:ガルパン杉山P「アニメにはまちおこしの力なんてない」 (1/6)|まつもとあつしの「メディア維新を行く」
コンテンツ自体の面白さと「聖地」になる地方の魅力、それに地元の人々の理解が全て揃わないと成功例とはなりにくく、再現性を求めることが難しいのが実際ではないでしょうか。ポケモン GO における初の公式コンテンツ・ツーリズムである東北イベントは先述のとおり必ずしもポジティブな要素ばかりではないのも事実ですが、少なくとも東北に人を呼び込むことには成功しているようです。また、今回のイベントとは直接関係ありませんが、震災で失われた東北のランドマークを「記憶のポケストップ」として拡張現実空間上に再現されていて、私も先日の東北聖地巡礼のついでにそのいくつかを実際に目にしました。本書を読む前に、たまたま別のコンテンツ・ツーリズムに乗っかった際に遭遇したというのも何かの縁でしょうが、震災から復興するにあたり「以前とは別の風景」が作られていく一方で、失われたものを追体験できる、というのは貴重であり、同時にとても重い体験でした。これは何もポケモン GO に限らず、他のアプリやソリューションにも今後波及していく可能性があり、そういう意味では「実質的にポケモン GO が世の中に与えた影響のひとつ」となることでしょう。
ポケモン GO 自体、現時点で実装されているコンテンツはゲームボーイ版の初代ポケモンの内容に過ぎず、これから新ポケモンや新機能の追加、あるいは運営の改善などを経てまだまだ進化する余地を残していると言えます。しかし、それよりも重要なことは、ポケモン GO が一般的なスマホゲームのヒット作とは(量的にも質的にも)異なる形で浸透し、一気にキャズムを超えたことで、今までは一般化してこなかった技術やその使われ方が世の中に定着する可能性を示したということだと思います。「ポケモン GO で交通事故」みたいなネガティブな事件も含めて(それはスマホ自体の使い方の問題であって「どのアプリだったか」は本質ではないと思うけど)、数年後に振り返ったときに「ポケモン GO がひとつの転換点だった」と言われるようになっているのではないでしょうか。
ある技術や概念が世の中に浸透していく瞬間に立ち会えるというのは稀有な経験です。私もここまで規模は大きくなくてもいいから、そういうことを起こせる当事者の一人になれるよう頑張らなくては、という思いを強くしました。
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