松重豊さんが助演を務めている邦画を観てきました。
いわゆる「老後二千万円問題」をキーワードとした、お金がテーマの映画です。もとは同名の小説だったらしい。天海祐希主演、周りを草笛光子、松重豊、柴田理恵などの渋い面々が固めています。タイトルから想像される通り映画館の年齢層は高めで、私よりも上の世代が中心に見えました。
老後二千万円問題に関する報道を見かけた主人公・後藤篤子(天海祐希)が自分たち夫婦の将来の資金計画に漠然とした不安を抱き始めたのとほぼ同時に、義父の葬儀、義母との同居、娘の結婚、自身や夫(松重豊)の相次ぐ失業、特殊詐欺被害…といった金銭に絡む問題が次々と発生。夫婦がそれらの困難にどう立ち向かっていくかをコメディタッチで描いた、いかにも現代邦画らしい作りの映画です。
目先の現金がどんどん減っていく事態では「老後の資金」どころではないという点でタイトルとは少し乖離を感じましたが、現在よりも間違いなく支給される年金が減るだろう世代の私としても他人事ではなく。もしかするとこの後藤夫妻の姿は十年後の自分かもしれないなあ…と感じながら観ていました。お金がないことに対する不安は何よりも精神的に辛く、現代の日本を覆っている閉塞感の多くもその不安に起因するもの。さまざまな事件が次々に発生する状況はちょっと大袈裟ではあるものの、それを自分の身に降りかかる事態を想像しながら観るのはちょっと辛いものがありました。それぞれの事件にかかるお金がリアルに提示されていくので、コメディじゃなくてシリアスに描かれてたら最後まで観ていられなかったかもしれません。
映像や演出は終始マンガ的なタッチで、舞台経験の豊富な俳優陣の演技もあってクスッと笑えるシーンがふんだんに用意されています。チョイ役で登場する三谷幸喜はワンシーンで強烈な印象を残していくし、草笛光子(松竹歌劇団出身)演じる義母が天海祐希(宝塚出身)演じる篤子に対して「私、昔宝塚の男役に憧れて勉強したことがあったのよ。ま、あなたには無理ね」と言い放つシーンはメタ的な面白さがある。そういう笑いが散りばめられた映画なので、前半はリアルなお金の話にちょっと心痛みながら観ていましたが、少しずつコメディに引っ張られて後半は純粋に楽しんでいる自分がいました。
松重ファン目線では普段はヤクザか警察か、あるいは飄々とうまいものを食べ続ける印象が多い松重さんが、基本的にはダメ夫でありながら大事なシーンで物語を引き締めたり、涙を見せるシーンにはグッと来るものがありました。他の映画でもそうでしたが、松重さんが泣く映画には名作が多いように思います。
しかし本作の真の主役は草笛光子演じる義母・芳乃ではないでしょうか。奔放な浪費家というキャラの強さもありましたが、スクリーンの中での存在感が圧倒的で主役さえ食ってしまっている印象を受けました。この大女優が徹底してコメディをやりつつ、最後にはホロリとさせる。主人公はむしろ彼女のための狂言回しに過ぎないのではないかとさえ感じました。
スケールが大きくないので映画館で観る必然性をあまり感じない作品ではありますが、逆にこれを配信や BD で自宅で観るとリアリティを感じ過ぎてしまうかもしれません。日常からちょっと離れ、あまり深く考えずに将来の不安を笑い飛ばすのに良い映画だと思います。
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