昨日劇場公開された F1 の映画を観てきました。
『トップガン・マーヴェリック』を作ったチームが製作を担当し主演はブラッド・ピット、共同プロデューサーにはルイス・ハミルトンも名を連ねるという豪華布陣による F1 の映画化です。F1 の名称と公式ロゴそのものをタイトルに関した F1 のプロモーションムービーと言って良い作品。F1 の興行面を司るリバティ・メディアが主に米国内での F1 人気をさらに強化しようとハリウッドに働きかけた成果かと思われます。
万年最下位の弱小 F1 チーム「APX GP」。今シーズンもこのまま無得点で終えるとチームが売却されてしまう危機を迎え、元 F1 ドライバーでもあるチーム代表のルーベンが招聘したのは彼のかつてのチームメイトであるソニー・ヘイズ。セナ・プロの時代に将来を嘱望されながらもレース中の事故で F1 の表舞台から姿を消した彼は、その後デイトナなどの他カテゴリーを転々としていた。ソニーが APX GP に合流してみるとチームはクルマも遅い、レース運営も拙い、チームメイトはポテンシャルはあるが生意気なルーキー…という絶望的な状況。そこからチームを浮上させるために彼が採った「奇策」とは…というストーリー。
ちなみにプロモーション上では本作を「陸のトップガン」と呼んでいてどういうこと?と思ったのですが、スピード感ある映像と老兵が若手を育て上げていく展開は確かにトップガン(マーヴェリック)っぽくはあります。
脚本はちょっと荒唐無稽すぎていかにもハリウッドらしい分かりやすいサクセスストーリーだなあという印象。ですが、それが果たして非現実的かというと、「片方のドライバーを犠牲(壁役)にしてもう一方のドライバーにポイントを獲らせる」戦略はここ 1~2 年の F1 ではごく当たり前に行われているし、もっと言うと「自動車メーカーの撤退によって弱小プライベーターになったはずのチームが設立初年度にチャンピオン獲得(2009 年)」とか「二人のドライバーが同点 1 位で最終戦を迎え、さらにそのレースのファイナルラップで勝敗が決する(2021 年)」なんていう創作じみたシーズンだって現実にあったわけだからこの映画の脚本が非現実的と断ずることはできません。まあ、ツッコミどころがあるとすればさすがに五十代半ばのドライバーが F1 に復帰することはあり得ないだろうし、現行レギュレーション下で乱気流の中でも速く走れるクルマが本当に作れるのなら見せてほしいとは思いますが。でも全体的に見れば荒唐無稽だけどまああるかもね、くらいのうまい案配に落とし込めていると感じました。
個人的に意外だったのは、こういう大衆向け映画だから F1 の人間ドラマ(Netflix の『Drive to Survive』のような)とレース映像を中心とした表面的な見せ方になるかと思ったら、風洞によるエアロ開発やシミュレーター、ドライバーの身体トレーニングなど要所要所で F1 の裏側にあたる部分もちゃんと押さえられていた点でしょうか。まあ、いかにもハリウッド映画らしいラブロマンスの部分はそれ要る?と思いましたが(笑。
圧巻はなんといってもレース映像。実際に 2023 年のシーズン中にいくつかのグランプリ週末を使って撮影が行われていて、APX GP 以外のチームは実在の F1 チームと関係者が登場します。APX GP のクルマは F2 マシンを改造して F1 風に仕立てたものですが、周りを走っているライバルは本物の F1 マシン。改造 F2 マシンは少なくとも映像の流れの中で見ている分には大きな違和感もなく、本物のレース映像と言われたら信じてしまいそうなリアリティーがありました。またオンボード映像も実際のオンボードカメラとは若干異なるポジションで、ほぼドライバー目線で見えていると思ったら次の瞬間にはカメラが 180° パンしてバイザー越しのドライバーの表情を捉える、とかとにかくダイナミック。この迫力ある映像を大画面で楽しめただけでも映画館に行った価値ありました。
また人の面ではフェルスタッペンやハミルトン、ルクレールあたりは何度も登場するし、チーム代表たちも本人役でご出演。特にザク・ブラウン(マクラーレン)、クリスチャン・ホーナー(レッドブル)、フレデリック・バスール(フェラーリ)、トト・ウォルフ(メルセデス)にはちゃんと劇中のセリフが用意されていて、それがいかにも本人らしい演出で出てくるからいつも見ているファン目線ではニヤニヤしてしまう(笑。
すごく感動するかというとそこまでではないけれど、実際のレースを一本観たくらいの爽快感と満足感は得られました。F1 が全面的に協力しただけのことはある。これはスクリーンの大きな劇場(特に IMAX)で観ると楽しいに違いありません。
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