最近は洋画よりも邦画のほうが個人的に面白いと感じる作品が多いのですが、これもキャストを見て「面白くないわけがない」と思い、観に行ってみました。
桜田門外の変の際に井伊直弼を守れなかった彦根藩の近習、中井貴一演じる志村金吾が、仇である水戸浪士一味を追い続ける話。ラストで対峙する水戸浪士の一人・佐橋十兵衛を阿部寛が、そして井伊直弼を中村吉右衛門が演じるとなれば、これは期待できます。まあ、中井貴一×阿部寛というと『ステキな金縛り』の検事×弁護士コンビなので、イメージビジュアルで二人の並びを見た瞬間には軽く吹いてしまいましたが(笑)、そこは日本を代表する俳優二人、映画が始まった瞬間にはシリアスな気分になっていました。
一言で言うと「いい映画でした」。明治維新を経て消滅してしまった藩にそこまで義理立てする心境はちょっと理解できないかもなあ、と序盤は思っていましたが、途中に数多く出てくる元士族たちの誇り高いふるまいを通じて、志村金吾のこだわりが最後にやっと解った気がしました。彼が守ったものは、藩や主君への忠義というよりも、むしろ武士としての誇りだったのだろうなあ。だからといって刀を置いた元士族たちが誇りを棄てたのかというとそうではなくて、その誇りの発露の向きが「家族や身の回りの人を守るための生き方」だったにすぎないのでしょう。
映画を観た後に調べてみたら、この作品は浅田次郎の短編、それもほんの 38 ページしかない小説が原作になっていたんですね。話そのものは短いにもかかわらず、内容がみっちりと詰まっていて、ストーリーの短さを感じませんでした。脚本や演出・編集の良さもあるんでしょうが、それ以上に俳優陣の芝居の重みが、この映画の濃厚さを作り上げているように思いました。主役の二人の演技ももちろん素晴らしかったですが、特に井伊直弼役の中村吉右衛門、そして金吾に十兵衛の居場所を伝えた元奉行・秋元和衛を演じた藤竜也の存在が、スクリーンに見事な緊張感をもたらしています。
劇場はいつもならば東宝系の設備の整ったハコを選ぶところですが、今回はあえて品川プリンスシネマを選びました。というのも、この映画のクライマックスの舞台となった「柘榴(ざくろ)坂」は、品川プリンスシネマのすぐ近くにあります。品川駅の高輪口を出て真正面、マクドナルドの脇を抜けてグランドプリンスホテル新高輪へと上っていく坂が「柘榴坂」。プリンスシネマ自体はちょっと古くさい映画館なので、最新の映像作品を積極的に観たい場所でもありませんが、この映画だけは観終わった後にそのまま柘榴坂を歩きながら、登場人物たちに想いを馳せてみたいなあ…と思って。
今はちょうど他にもお金をかけてプロモーションしている映画がいろいろと重なっている時期で、この作品は他のものの影に隠れがちですが、映画好きであれば観る価値がある作品だと思います。私は繰り返し観ても良いくらいだなあ。
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