この 7~9 月クールに放送されて話題となった TBS ドラマ『VIVANT』。評判が良くて気になりつつもこれまで U-NEXT でしか配信がなく観れずにいたのですが、先日から Netflix にて全世界配信が始まったので観始めたら面白くて、一気に観てしまいました。
日本の商社マン・乃木憂助(堺雅人)が海外の投資先への誤送金事件の責任を取らされる形で赴いたモンゴル西方の架空の国・バルカで事件に巻き込まれ、公安の野崎(阿部寛)と現地で働く日本人医師・薫(二階堂ふみ)に出会い、そこから三人の冒険が始まる…という物語。
とにかく話の展開が速くて、砂漠で逃避行していたと思ったら次の週には日本を舞台に産業スパイものに変わっていたり、一連の作品なのに毎回全然別のドラマを観ているような感覚に陥ります。それはシナリオだけでなく物語の構造に関してもそうで、当初は日本を襲うテロや重大事件を未然に防ぐ非合法組織…リコリス・リコイルみたいな話かと思ったら中盤には実質的に実写版閃光のハサウェイになっていたり(乃木と野崎の関係はハサウェイとケネスそのものですよね)、終盤は時代劇みたいな作りになっていたりします。一方で全体的にはスター・ウォーズへのオマージュを強く感じる。乃木/野崎/薫の三人はルーク/ハン・ソロ/レイアの三人に重なっているし、砂漠の映像なんてもろにタトゥイーンだし、親子対決要素もあるし。そういう、これまでの面白いフィクションや映像作品の要素をごちゃ混ぜにして濃縮して提供される連続ドラマ、という感覚でした。その上で仲間だと思っていた人物が裏切ったり、敵だった人が裏切ったり、先の読めないハラハラ感もある。
こう書くと内容が複雑すぎて理解が追いつかなさそうに見えるのですが、まるでジャンプマンガのように状況を登場人物の誰かが全部セリフで(ときに解説チャートつきで)説明してくれる新設設計。日曜ゴールデンタイムに放送する連続ドラマとして、視聴者は絶対に取りこぼさないぞ!という強い姿勢が感じられます(笑。
また、こういう作品につきもののピンチを脱出したり相手を出し抜いたりする手段として超有能なエージェントや凄腕ハッカーなどを登場させ、物語上面倒な段取りを「アイツが凄腕だから」で全部解決してしまうのが現代のフィクションらしいところ。近年のヒット作は視聴者を主軸のストーリーに集中させるために邪魔な要素を大胆に割り切るのが定番の手法となっていますが、本作もそういう「ヒット作のお作法」をよく研究して組み立てられたシナリオだと感じました。どうもテレビ放送だけでは赤字で、世界配信をふまえた黒字化を前提としているとのことですが、「日本のドラマは今まで侮られてきたけど、予算や放送、スポンサーとかのしがらみを取っ払ったらここまで面白いものが作れるんだぞ」という制作サイドからのメッセージを感じます。
個人的にちょっと気になったのは主演の二人。堺雅人はニュアンスのある芝居もいいのに半沢直樹以来濃い演技ばかり求められていてもったいないなあ…というのと、腕利きの刑事(公安だけど)を演じる阿部寛がどうも加賀恭一郎に見えて仕方ない点。まあ二人とも演技に隙がないし、日本を代表する俳優としての鉄板感もしっかりありますが。でもそれ以上に役所広司が出てくるシーンで画面がピリッと引き締まる感じはさらにすごい。
前半のスピード感とスリル、どんでん返しが続いていく展開に比べると後半はぬるい話になって失速した感も否めないのですが、全体としてはすごく面白かった。これはヒットするのも確かに解ります。完全に続編を意識した終わり方になっていたのですが、続きが観たいような、あのぬるい終盤から続くのならあまり観たくないような。続編があるのならば本作よりもさらに骨太な話でお願いしたいです。
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