金曜日に封切られたばかりの細田守監督最新作を観てきました。
私は細田守作品は『時かけ』以降全部観ていますが、素晴らしかったと言えるのは『時かけ』『サマーウォーズ』まででそれ以降は右肩下がりに感じています。『未来のミライ』が金返せレベルの駄作で、四年前の『竜とそばかすの姫』でちょっと持ち直したかなという印象。本作は観に行くかどうか迷ったのですが、従来とは世界観が大きく異なるようだし東宝一社配給から東宝+SPE(ソニーピクチャーズ)の共同配給になることで製作体制もちょっと変わるかも、という期待もありました。
中世のデンマーク。父親である国王を王弟クローディアスに謀殺された王女・スカーレットは父の敵を討つことに人生を賭けるが、返り討ちに遭って自分が殺されてしまう。その後堕ちた「死者の国」でなおも復讐を果たすために行動を起こす。その途上で現代日本からやって来た看護師・聖(ひじり)と出会い行動を共にする。死者の国のどこかにあるという「見果てぬ場所」を目指せば仇敵のもとにたどり着けるというが、その行く手にはクローディアスからの刺客が待ち構えており…という話。シェイクスピアの戯曲『ハムレット』を土台にしているといいます。私は『ハムレット』は中学時代に読もうと試みましたが途中で挫折しました…どこかで舞台くらい観ておけば良かった。
感想を一言で言うと「映像と芝居『は』良かった」。
細田作品らしい緻密な描写で表現された死者の国の広大な世界観は素晴らしかったし、回想シーンは手描きアニメ/死者の国は3DCGで描く対比も良かった。芝居の方も芦田愛菜の熱の込もった演技を軸に現代の名優たちが脇を固める布陣(メインキャラの一人に松重豊も起用されている)が聴き応えがありました。ただ、やっぱり脚本がなあ…。
これから観に行くという方はここで一旦ブラウザバックしてください。ネタバレ上等で個人的なゲンナリポイントを挙げると、
- 死者の国で死を迎えると「虚無」となる設定があるが、単に死んだら葉っぱのように霧消するだけで「虚無」の絶望感が薄い
- 細田監督の過去作では「空飛ぶクジラ」が謎の力で問題を解決するという演出が多用されたが、本作では主人公がピンチに陥るとクジラの代わりに竜が現れて問題解決。そんなご都合主義でいいの?
- 主人公が神がかった竜に救われるわりに他のキャラクターは盗賊に理不尽に殺されたりする。そのギャップがご都合主義感に拍車をかけている
- 過去作では脚本の都合で動かされるヒロインが多かったが、本作では聖がそのポジション。敵ですら救おうとしていた聖が、同情の余地がない敵とはいえ何故あの場面では殺したのか
- 中盤以降で場面転換が多く前後のつながりが分かりづらいため急展開感がある
- 全体的に台詞が多すぎ、しかもどれも熱量が高いからちょっと疲れる。映像作品なんだから全部喋らせなくても…
- ラストで王女に即位したスカーレットが最初は民衆の支持を得られず、演説の後にいきなり支持されるくだりが違和感。国民に慕われた先々王の娘ならもう少し期待があっても良いはずだし、逆に先王の圧政に民の全てが辟易していたならスカーレットの言葉ではなく行動によって態度を変えるのでは。なんだか『サマーウォーズ』のクライマックスで一人の声からネット民意がひっくり返ったシーンを再現しようとして滑っている印象
- 脈絡不明なダンスシーンが二カ所ある。これ他のことに尺を使えたのでは
他にもいろいろ気になる点はありましたが代表的にはこんな感じ。結局いつもの細田節かあ、と何度も嘆息しました。まあ映像と芝居だけでも鑑賞料の価値はあると感じましたが。これでも『未来のミライ』よりはマシではある。
ただ私には脚本はほとんど刺さらなかったのですが、一緒に鑑賞した妻は「良かった」と言っていたので全ての人に合わない作品ではないのだろうと思います。
私は監督が脚本を兼ねている限り、細田作品はもう観ないかなあ。



コメント
初日に見ました。私も時かけ・サマウォ(あとおおかみこども)までは好きです。作品は、時かけ以降は全部見ています。
「何故あの場面では殺したのか」については、直前に聖が「自分はやっぱり死んでいるのかも」と気づいているようなシーンがありました(脇腹の出血や、通り魔の回想)。
「自分が死んで死者の国にいるなら、敵も実は死んでいる(オチにつながる)。すでに死んでいる敵だから、殺してもいいか」と思って殺したのだと解釈しています。スカーレットが実はまだ生きていることにも気づいていたようですし(なぜか)。「スカーレットを生きて帰すために、自分を曲げた」のだと思っています。私は、どんなドラマでも自分を曲げる(一貫性を変更する)シーンが好物なので、そう思うのですが。
ほかは同意見です。火山が噴火して噴石・溶岩が出てきても、主人公たちは何事もなく登山しているのもご都合主義でしたね……。なんというか、見ている自分に、何も刺さらない作品でした。ずっと無表情で見ていました。私も、次はないかも。
コメントありがとうございます。やっぱりそうですよねえ。
私も主要人物の価値観が大きく変わるタイミングは物語上の見せ場だと思っているのですが、今ひとつ脈絡がない中で聖が行動を変えて、それに誰も何も触れないままに話が流れて行ってしまったのが違和感を助長したように思います。あそこはポジにしろネガにしろ何らかのカタルシスがあってほしかった…。
物語を阻害するツッコミどころがあっても誰も何も言えないのが今の細田作品の製作体制なのかもなあ、という気がしています。
返信ありがとうございます。Bさんの記事のとおり、あの2つのダンスシーンを短くしてできた尺で、不足分を補ってくれたらな……と思わずにいられません。
いま、ネットフリックスに細田監督作品(時をかける少女~竜とそばかすの姫)が入ってきて、「サマーウォーズ」を見返していますが、何度見てもちゃんと泣ける、ハラハラできる、感動できるんですよね……。
「おおかみこども」ですら、主人公が小児科に行くか動物病院に行くか迷うシーンで、映画館で爆笑が起こったものです。みんな、「あれをもう一度」と思って見に行っているんでしょうけど……。脚本家の重要性を映画ファンに知らしめてくれた功績は、認めたいと思います(笑)。