半年前に劇場で一度観た映画ですが、BD がリリースされていたのでレンタルで再鑑賞。
東野圭吾原作「新参者」シリーズの完結編にあたる映画です。
荒川沿いの古アパートで発見された腐乱死体と、近くの河原で発生したホームレスの焼死事件。迷宮入りしかけた二つの事件に、主人公の刑事・加賀恭一郎の 16 年前に死去した母の過去が絡み、その真相が明らかになっていく――というストーリー。複雑な事件で長ったるくなりそうなプロットを緩急つけてまとめてあり、謎解きよりも親子の情とそれが巻き起こした事件の顛末に集中して見せる作りになっています。
一度観てストーリーを知った状態で改めて最初から観返してみると、それぞれのシーンでの演出や演技の意図が見えてさらに深まります。中でも松嶋菜々子演じる重要参考人・浅居博美の芝居が、台詞のみならず表情や目つきからも凄味が感じられる。でもそれ以上に圧巻なのが、回想シーンに登場する中学生時代の博美(桜田ひより)とその父忠雄(小日向文世)。借金に追われて逃避行し、その途上で重大な事件に巻き込まれた結果引き裂かれてしまう親子の芝居は重く、圧倒的な存在感があります。この二人の芝居があったからこそ終盤のカタルシスがもたらされたと言っても過言ではない。また同時に中学生の娘を持つ父親としては、感情移入なしには観られませんでした。それくらい、この二人の愛と絆を感じさせる芝居が深い。
本作が他の刑事もの、あるいは同シリーズの別作品と明確に違うと感じたのは、捜査本部が加賀・松宮コンビの推理を肯定ベースで捜査が進んでいくところ。数少ない状況証拠から短絡的に犯人を決めつけて冤罪まがいの捜査が進む中、はぐれ者の主人公が真実にたどり着いていく…的な刑事ものにありがちな展開ではなく、やや荒唐無稽にも思える加賀・松宮の仮説に対して上司たちが「いい推理だ」と言いながらパンパン捜査が進んでいく様子には却って違和感もありましたが、変に茶々を入れずに本筋に集中させるために捜査上のゴタゴタをあえて省略した描写はシンプルで良い。例えば『シン・ゴジラ』における優秀な政治家や官僚の描写にも共通する「何を見せたいか、そのためには何を割り切るべきか」が明確な描き方だと感じます。
そんな感じで原作・脚本・演出・演技いずれも素晴らしい作品なわけですが、さらに抜いて語れないのが映像の美しさ。映画化された前作『麒麟の翼』は内容としては面白かったものの映像的には映画ではなくテレビでも十分では…と感じたものですが、本作は日本橋だけでなく宮城や滋賀、能登の風景を引きで収めた美しい映像が随所に散りばめられていて、やはりこれはスクリーンで観て正解だったな、と思いました。
近年観た邦画の中でも突出した傑作のひとつだと思います。人気シリーズの完結編に相応しい出来ではないでしょうか。
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