先日福岡の実寸大 ν ガンダム建立をはじめガンダムシリーズの新展開に関する複数の発表がありましたが、その中の一つに関連するコミックを電子書籍で読んでみました。
機動戦士ガンダム THE ORIGIN MSD ククルス・ドアンの島
今回の発表で安彦良和監督下で映画化されることが明かされたタイトルと同名のコミックです。
「ククルス・ドアンの島」といえば最初のテレビシリーズ『機動戦士ガンダム』の第 15 話のサブタイトル。後の劇場版三部作では割愛されたエピソードですが、独特の雰囲気をもつシナリオと現代なら作画崩壊と言われそうな画で、ファンの間では語り草になっているエピソードです。名言はされていませんが、今回の映画化はおそらくこの 15 話をリメイクする話ではなく、このククルス・ドアンにまつわるスピンオフ作品が映画化されるものと思われます。そういえば本作はメカニカルデザインにカトキハジメ氏、キャラクターデザインにことぶきつかさ氏というまるでアニメ制作のような布陣だな…と思っていたのでした。
漫画の執筆はおおのじゅんじ氏。これまでもいくつかのガンダム関連作品を漫画化した方のようですね。絵柄をかなり安彦良和氏に寄せていて、一見ご本人かと思うほど。そういえば針井佑氏が漫画化した『クラッシャージョウ』もかなり安彦絵に寄せてて、今の漫画家さんは器用な方が多いですね…安彦先生のあの筆のタッチとかインクを滲ませる塗りとか、相当なテクニックだと思うんですが。
ガンダム作品ならばガンダムが登場しないと締まらない…ということで本作にもガンダムが登場します。アムロの乗った機体ではなく、同型の RX-78 の局地専用試験機という位置づけで、THE ORIGIN 版 RX-78-02 ガンダムとのデザイン上の共通点が多い。しかし本作はジオン兵士の視点で描かれるため、このガンダムのパイロット等は不明。「連邦の悪魔」そのままの強さは人間味を消すことでさらに恐ろしく見えますね。たぶん本編でホワイトベース隊と戦ったコンスコン隊もこんな気分だったのでしょう。
本作はタイトルに「機動戦士ガンダム THE ORIGIN MSD(Mobile Suit Discovery)」とある通り、安彦版ガンダム THE ORIGIN にまつわるモビルスーツ開発史を辿る物語でもあります。THE ORIGIN でも描かれたザクの開発途上の話やその発展型、そしてグフやドムが出てくるまでをククルス・ドアンの元部下たちのエピソードに絡めて描いたもの。ガノタ的には「こういうのでいいんだよ、こういうので」と言いたくなる硬派でマニアックな内容。
物語のほうの軸となるのはククルス・ドアンが現役将校だった時代の回想から、退役後に元部下たちが「ドアンは何故軍を脱走したのか」に思いを馳せていく話。テレビシリーズではククルス・ドアンはわずか一話に登場するだけで軍を抜けた理由も断片的にしか語られていませんでしたが、本作では THE ORIGIN のストーリーに絡めてしっかり描かれています。後付けではあるけど THE ORIGIN のエピソードに結びつけられると非常に重い。逆に言えば、たった一話にすぎなかった「ククルス・ドアンの島」はこれだけバックグラウンドを持たせられる深いエピソードだったんだな…と改めて思います。
それにつけてもこのキャラクターの表情、描き文字、背景の塗り、光の使い方…よくぞここまで安彦絵に寄せたものだと驚きます。THE ORIGIN は本当に画力がすごくて一コマごとに見入ってしまう迫力を感じましたが、それに近いモノがある。コマによっては「あ、ここは THE ORIGIN のあのコマを真似て描いてるな」と気づいてしまう箇所もありますが、物語や絵に引き込まれているうちに安彦先生の漫画を読んでいると錯覚してしまう瞬間もあり、クオリティの高さに驚かされるばかりです。
ひとつの小隊を軸とした群像劇という点では、スケール感も含め『08MS 小隊』に似ているかもしれません(あれよりはもっと硬派)。アムロもシャアも出てきませんが、彼らの活躍の陰ではこういう戦いも繰り広げていたんだなあ…というガンダム世界の奥行きの広さを感じさせてくれる作品でした。ちなみにタイトルにある「ククルス・ドアンの島」自体はほとんど登場しません(笑
来年公開予定の映画はこのコミックの映画化ということになるはず。このコミックは『THE ORIGIN』のスピンオフであり、この映画も安彦氏が監督を務めることからも間違いないはずです。THE ORIGIN では安彦氏はあくまで総監督(というよりコンテの監修に近い立ち位置?)で実際の監督は別の方でしたが、今回は安彦氏ご自身が直接指揮を執られるのでしょうか。これが映画化できるなら THE ORIGIN の一年戦争編のほうをアニメ化してほしいという思いはあるものの、とりあえず本作の続報を楽しみに待ちたいと思います。
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