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レンズ構成図で個性を知る オールドレンズ解体新書

いつもとはちょっと毛色の違うオールドレンズ本が発売されたので、読んでみました。

澤村徹、上野由日路 / Cameraholics Lab レンズ構成図で個性を知る オールドレンズ解体新書

Cameraholics Lab レンズ構成図で個性を知るオールドレンズ解体新書 (ホビージャパンMOOK 1156)

いつもの澤村徹氏と、主にオールドレンズでポートレートを撮る写真家・上野由日路氏によるオールドレンズ本です。澤村さん的には前著『カメラホリック レトロ』からわずか 4 ヶ月、近年本当に多作で驚きます。

「ちょっと毛色の違う」と書いたのは、タイトルにあるとおりオールドレンズをレンズ構成でカテゴリ分けしている点。私の知る限りこれまでオールドレンズ関連の書籍でこの切り口で書かれたものはありませんでした。「ダブルガウス」とか「ゾナータイプ」「レトロフォーカス」などオールドレンズを語る上で頻出するレンズ構成だけど、意外と解ってるようで解ってない。私はレンズの新製品が発表されるとレンズ構成図は必ず見るけどせいぜいレンズの群・枚数と特殊レンズの使用数(特に非球面レンズは収差補正に効く反面ボケに悪影響を与えることが多い)、あと一時期のソニー製レンズでよくあった「前玉が凹レンズ」という構成(レンズの内部反射を抑えてコントラスト向上に効くらしい)くらいしか解りません。まあ現行レンズは構成が複雑すぎて見ただけで解らないのは無理もありませんが、シンプルな構成のオールドレンズくらいならレンズ構成を見て特性や傾向をある程度推測できるようになりたい、とは以前から思っていました。そういう意味で本著には発売前から期待していました。

オールドレンズ解体新書

目次。トリプレットやダブルガウスといったクラシカルな構成から、やや特殊な構成まで含めオールドレンズ界でよく耳にする名前はだいたい網羅されています。スタンダードタイプはさすがにフォロワーが多く、多くのメーカーから様々なレンズがリリースされていますね。日本の光学メーカーがライカやツァイスに倣ったものも多いし、第二次大戦後に東側に接収されたツァイスの技術者がロシアで開発したゾナーコピーなんかもあって、このレンズの歴史だけで世界の近代産業史が語れそうな背景があるわけですが、それはまた別の話。

オールドレンズ解体新書

スタンダードタイプはトリプレット、テッサー、ゾナー、ダブルガウス(プラナー)の四種類。トリプレット以外は現代でも人気のあるレンズが多く、馴染みのある方も少なくないのではないでしょうか。私も Planar と Sonnar はそれぞれ何本かずつ持っているので、レンズ構成から描写の傾向はなんとなく想像つきます。

オールドレンズ解体新書

それぞれのレンズ構成について、冒頭でその歴史および長所と短所、描写の傾向について解説されています。
ちなみにこのあたりのレンズは構成がシンプルだから「Pocket Optics」のようなアプリでの再現も難しくありません。

スマホで光学シミュレーションができる「Pocket Optics」
毎週楽しみに読んでいるデジカメ Watch の連載『カメラバカにつける薬 in デジカメ Watch』に、今週はとても興味深い話が掲載されていました。 【カメラバカにつける薬 in デジカメ Watch】スマホで光学遊びをしよう! -...

どういう仕組みになっているのか、このアプリを併用しながら読むとなかなか楽しい。

オールドレンズ解体新書

ただ個別のレンズ紹介は各 1 枚の作品(作例)と大まかな描写傾向について説明されているだけ、というのがちょっと残念。ここだけいつものオールドレンズ本という印象です。
個人的には、同様のレンズ構成でも製品それぞれでどのように描写が異なり、それは何に起因しているのかをレンズ構成に基づいて説明してほしかった。

オールドレンズ解体新書

やや特殊なレンズ構成は「マニアックタイプ」として紹介されています。
が、レトロフォーカスやビオゴンタイプはオールドレンズの中でもメジャーな部類に入ると思うので、製品レベルで見ればそこまでマニアックというわけではない気も。

オールドレンズ解体新書

個人的に嬉しかったのがこの「レンズ開発者物語」。
現行レンズであれば各メーカーやカメラ誌が開発者インタビューを掲載していることも少なくないですが、歴史上のレンズ開発者について現在語られることは多くありません。パウル・ルドルフやルートヴィッヒ・ベルテレ、ピエール・アンジェニューという名はよく知っているけれど、彼らがどういう経緯で光学史に残るレンズを開発したのか…こういうのが読みたかった。むしろこれだけで一冊作ってほしいくらいです(笑

オールドレンズ解体新書

レンズの収差についての特集もあります。
オールドレンズに限らず光学レンズで「味」とされるものの多くは収差から発生していると言って良い。現代のレンズはこの収差を極限まで抑えて「正確な」描写の実現を目指していますが、一方で正確すぎて写真的な面白みに欠けるのも事実です。

本特集ではそれぞれの収差がレンズのどのような特性から発生し、どんな構成のレンズでそれが起きやすいかを解説しています。味のあるレンズを選ぶ一助になりそう。

オールドレンズ解体新書

私に刺さったのがこの「ようこそこちら側へ」という一節。少し前までの澤村さんは我々にとって「オールドレンズの先生」というイメージが強かったのが、一年前の『オールドレンズはバベルの塔』あたりからご本人も一人の求道者であり、むしろ仲間目線でオールドレンズ愛好者に語りかけてきているように感じています。最終章はそんな澤村さんによる、どういう観点でオールドレンズを楽しんでいるか…という深い沼の話。同様の構成のレンズでも作られた年代やコーティングの種類、マウントなどによってそれぞれ描写が全然違う。同じようなスペックのレンズを複数本集め始めてからが本当の始まりなのだ…という気さえしてきます(笑。いやはや、やっぱり奥が深い。

個人的にはレンズ構成を引き合いに出しつつ「解体新書」を名乗るからにはもう少しオールドレンズを科学してほしかった、という気はしています。しかし杉田玄白の解体新書も内容の完全さより発行することを優先したという批判もありつつ、その後の日本医学の発展に重要な役割を果たしたことは確か。本書がそういう意味でもオールドレンズ界の「解体新書」になることを願っています。そして、この先にもっと光学的に深掘りした続編を出してくれてもいいんですよ(笑

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