4 月に読み始めたこの小説、ようやく読破しました。
福井 晴敏 / 終戦のローレライ (1)
福井 晴敏 / 終戦のローレライ (2)
福井 晴敏 / 終戦のローレライ (3)
福井 晴敏 / 終戦のローレライ (4)
今まで読んだ福井作品の中でも最も長い作品です。でも、その分読み応えはありました。自分自身がどうしても文章を子細かつ冗長に書いてしまうタチなので、こういう作風には理解があるというか(笑。
映画の予告であらすじというか大まかな設定は知っていたので、「ローレライ・システム」というある種トンデモな設定ってどうなの、とちょっと不安ではありましたが、実際に読んでみたらとんでもない、面白いじゃないですか。前半はあまりストーリーの進展がないのですすみも遅かったですが、後半は一気に読んでしまいました。
太平洋戦争終結の間際、超能力を身につけた少女とドイツから持ち込まれたローレライ・システム、潜水艦《伊 507》が「第三の原子爆弾」を止めるために戦う、というストーリーだけ見ると明らかに B 級ですが、物語にリアリティを持たせる精緻な描写(まあ、ローレライ・システムだけはどんなに設定をつけても無理がある話ではありますが)と人間の描き方でここまで壮大な物語に作り上げてしまうか、と驚嘆させられる小説でした。背信や艦の乗っ取り、残酷とも言える極限状態や死の描写、主人公と対役以外はほぼ全員が死んでしまうクライマックスなど、福井作品らしい展開が満載で、この作品を読んだら『亡国のイージス』も『月に繭 地には果実』も読まなくても良いかも(笑。
太平洋戦争が舞台なだけあって、物語の中から現代の日本を透視させるような書き方になっているせいか、もしかしたら終章は蛇足だったのではないかと思います。彼らのその後は、読者の想像の中で決着させておいても良かったような(まあ、登場人物に何かしらの「救い」を与えてあげるのが福井晴敏の優しさだと思うので、これはこれで良いんですが)。
誰も責任を取ることをしようとしない、日本という国の社会・組織論とか、やはり日本的な組織のあり方では、「カイゼン」はできても無から有を生み出すような真似はできないんだろうとか、でもそれも旧来のムラ社会に明治維新以降のシステムだけの資本主義と民主主義、押しつけられた非戦が混ざり合って培われてしまった精神性なのだろうとか、最近自分が日々痛感させられている日本社会の負の側面が嫌でものしかかってくるような気がしました。
でも、この作品を通じて、良くも悪くも私の中の戦争観がちょっとだけ変わったような気がします。あと、何かに命を懸けることの意味とか。読むのにけっこう体力が要る作品でしたが、読んで良かったかな。
ただ、日本で映画化されたこれの DVD を観るのは、ちょっと怖いですね(;´Д`)ヾ。
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