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オールドレンズはバベルの塔

オールドレンズの伝道者・澤村徹氏の新著が発売されました。私は Kindle 版をさっそく購入。

澤村徹 / オールドレンズはバベルの塔

Cameraholics Select オールドレンズはバベルの塔

氏は昨年 9 月にいつもの『オールドレンズ・ライフ』を刊行したばかりで、ほんの 4 ヶ月でまた新作というペースには驚きます。

タイトルは『オールドレンズはバベルの塔』、また大きく出ましたね(笑。

人類はかつて M42 スクリューという共通マウントであらゆるカメラとレンズを組み合わせることができた。そのマウントで天まで届こうかという超望遠レンズが作られた際、人々は神の怒りに触れ、共通レンズマウントという「バベルの塔」は破壊された。かくしてカメラメーカーは混乱し、個別に独自のマウントを開発して相争うようになった。しかしミラーレスカメラとマウントアダプターの登場により、再びどのようなカメラでもあらゆるレンズを扱える時代が到来した――――。

という話ではなく(ぉ)、終わることのないオールドレンズ道をバベルの塔建設になぞらえたタイトルです。

オールドレンズはバベルの塔

内容は澤村徹氏がオールドレンズに捧げてきた半生を振り返るエッセイが、各レンズで撮られた写真作品とともに収められたものになっています。
私は氏が月刊誌(しかもなぜか PC 誌)にオールドレンズの連載をし始めた頃からの読者なので、当時の話を久しぶりに読むことができて何とも感慨深い。その後上梓されたオールドレンズ本『オールドレンズ パラダイス』は「沼」という単語のアンチテーゼとして掲げられた言葉だったんですね。十年以上の刻を経て初めて知る真実。

オールドレンズはバベルの塔

そんなわけで、掲載されているオールドレンズは 2007 年当時のネタから最近のフルサイズミラーレス前提のものまで非常に幅広い。
2007 年時点ではオールドレンズを楽しみたいと思ったらフランジバックの関係でほぼ EOS 一択、フルサイズは初代 EOS 5D くらいしかなかったから二桁シリーズでの運用が一般的でした。私もツァイスレンズをデジタルで使いたいという思いから EOS 30D にヤシカコンタックスの Distagon 35/2.8 やコシナ製 Planar 50/1.4 あたりからオールドレンズの天国に足を踏み入れたのでした。それが今や各社フルサイズミラーレスでほぼ全てのレンズを好きなように楽しめるんだから、時代は変わりました。

オールドレンズはバベルの塔

各レンズに添えられているサブタイトルとフォントのレイアウトが面白い。
澤村さん、最近ラノベ的なタイトルつけるの好きだなあ(笑

オールドレンズはバベルの塔

メインのエッセイは、それぞれのレンズの入手や撮影にまつわる当時のエピソードについて書かれています。これがまた情緒的で良い。

今までのオールドレンズ本は解説書や製品紹介の側面が強く、どちらかというと客観的に各レンズについて評価するものが多かったように思います。またその多くが「オールドレンズとマウントアダプターをどうやって楽しむか」から導入していました。裾野を広げるためには大事なことだとは思う一方で、個人的には「御託はいいから主観で好きか嫌いか、思ったままを聞かせてよ」という気持ちがあったのも事実。その点本作はこれまでのムックや解説書とは異なる私情入りまくりなのが良い。そうそう、こういうのが読みたかったんですよ!

オールドレンズはバベルの塔

2007 年からこれまでのオールドレンズとデジタル一眼の歴史をなぞるように書かれていて、時代がどう変遷してきたかの記録としても貴重な一冊になっています。
EOS 5D に Mark II→III が出て、ミラーレスが登場し、α7 をはじめとするフルサイズミラーレスの台頭によってあらゆる 35mm 判レンズがオリジナル画角で使える時代が到来しました。その過程では多くのユーザーとマウントアダプターメーカーの試行錯誤がありました。もうこれ以上はないかと思ったら今度は E マウントやライカ M マウント向けに新しい MF レンズが発売されるようになり、オールドレンズは新たな時代に突入したと言えます。

オールドレンズはバベルの塔

各写真に添えられているキャプションがまたいい味を出しています。レンズのシャープさとか収差とかを追求するのもいいけど、趣味のカメラなんて結局は自己満足なんですよ。「○○は良好な性能のレンズだが価格が高すぎる」みたいな機材の評価ばかりだと疲れちゃいますからね。個人的にはもうそういう世界からは脱却したつもり。

エピローグに書かれていたこのくだりが、オールドレンズに限らずカメラ趣味全体を表現しているように思います。特に収集癖のある私のような人間にとっては(笑。

ただ、処分して数を減らそうだとか、新規購入を控えようという気は毛頭ない。買うこともオールドレンズの楽しみのひとつだから。あれこれ悩んで買うのが楽しいし、増えすぎて頭を抱えるのもまた一興だと思う。

カメラ趣味はこのようにモノを買うこと、それを愛でること自体も楽しいし、それを使って写真を撮る行為も楽しい。時折自分の用途や好みに合わなくて失敗することもあるけど、それもまた楽しむ過程のひとつ。ある意味、路地裏でうまそうな店を見つけて、どんな店だか分からないけど佇まいだけに惹かれて突入してみる食べ歩き趣味と通じるものがあるのかもしれません。

こういうのを読むと、最近オールドレンズ買ってない自分も何かやりたくなってきますね。やっぱり今ならアレを試してみるべきかな…。

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