今年一番の話題作と言える映画を観てきました。
劇場は池袋グランドシネマサンシャインの IMAX レーザー/GT テクノロジーシアター。昨年末に『スカイウォーカーの夜明け』をここで観たときに、予告編として『TENET』IMAX 版の冒頭数分を見せられて以来気になっていました。クリストファー・ノーラン監督が手がける SF アクション物であり、かつ IMAX/GT のスクリーンを最大限に利用した映像が楽しめるのであれば期待せざるを得ません。
CIA エージェントである主人公(名もなき男)が来るべき第三次世界大戦、さらには世界の破滅を防ぐために「逆行する時間」の謎に挑む…という SF 作品。「ひとつの時間軸の中で、時間を順行する者/物と逆行する者/物が同時に存在する」という映像のギミックは今までのどんな映画でも見たことがなく、それだけで SF 好きとしてはハートを鷲掴みにされるものがあります。
こういうのは事前情報を入れすぎると面白くなくなってしまうもので、私は予告編以外はほぼ前提知識なしで観に行きましたが、ノーラン作品らしく難解ですねこれ。作品の鍵である「時間を逆行する」という概念自体からして難しい。時間を止めるとか過去に遡る(=過去のある時点に戻った上で順行する)といった話は SF やファンタジーではよく見かけますが、逆行するというのは今までになく、それを映像で表現されることでさらに頭がこんがらがってきます。が、ある登場人物の「考えるのではなく、感じるのだ」という台詞に従って(この台詞は主人公だけでなく視聴者にも投げかけられたメタ台詞だと思う)、これは『ジョジョの奇妙な冒険』に登場する時間操作系のスタンド能力みたいなものだ、とざっくり捉えてみた瞬間にこの概念が『言葉』でなく『心』で理解できた!
時間が逆行するということで、劇中ではある時点を境に場面が巻き戻るような形でストーリーが進行していくわけですが、この構造が非常に複雑ながらもタネ明かしのやり方がまた秀逸。前半では何の意味があるのかよく分からなかったシーンの一つ一つにちゃんと意味があったことが後半で少しずつ明らかになっていって、途中まで脳内に「?」がたくさん浮かんでいたのが「!」に変わっていくのが気持ち良い。それでもあまりに複雑だから初見では理解が追いつかない場面や見逃してしまった伏線も多数ありそうです。これ、二回・三回と観ることで発見が増えて理解が深まり、より面白く感じるやつじゃないでしょうか。
という感じで脚本の複雑さや映像のすごさに目が行きがちな本作ですが、俳優陣の演技もまた良かった。登場人物ごとに背景とする時系列が異なるため「誰が何を何処まで識っているか」のレベル感がシーンごとに異なる(劇中の台詞で言うと「無知を武器にする」)のを表情や仕草などのニュアンスでうまく演じ分けていました。それにしても主人公の相棒ニールと悪役のセイター、どこかで見た顔だと思ったけどニールはロバート・パティンソン(『ハリー・ポッター』シリーズでのセドリック役)だしセイターはケネス・ブラナーだということにエンドロールまで気がつきませんでした。ケネス・ブラナーは他の役やってるときと顔つきが全然違うし、ロバート・パティンソンに至っては『ハリー・ポッター』に出てたの 15 年前(当時 19 歳!)ですからね。
グランドシネマサンシャインの IMAX/GT シアターは休日ということもあってか満席でした。国内最大級の IMAX/GT シアターだけあって映画好きやノーランファンが多かった印象で、終映後には感染対策のため整列退場しながら多くのお客さんが興奮気味に「答え合わせ」をしているのが聞こえてきました。確かに、それだけ語りたくなる作品です。
また本作は IMAX に傾倒するノーラン作品ということで IMAX/GT フォーマットに最適化されています。全てのシーンではありませんが、1.43:1 という通常のスクリーンよりも縦方向に広い画角をいっぱいに使って撮影されたシーンが多く、この上ない臨場感。テレビなどの 16:9 の画角をして「人間の視野角に近い」とよく言われますが、本当の没入感を生むには視界からはみ出るほどの表示領域が必要なんだなあ…というのを実感しますね。この作品を通常のスクリーンで観るのはもったいない、これを観るなら少なくとも IMAX シアターに行くべきだと断言できます(TENET は IMAX/GT で 1.43:1、通常の IMAX で 1.9:1 で上映。一般的なシネスコスクリーンは 2.33:1)。
久しぶりに映画で新しい体験をさせてくれる作品でした。映画なんだけど、単なる映像作品ではなく自分自身がアトラクションを体験しているような気分。また味わってみたいし、リピートすることで発見や理解が深まりそうなので、上映期間中にもう一度くらい観に行きたいところです。
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