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ヤマダ電機の暴走

立石 泰則 / ヤマダ電機の暴走

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人に勧めておきながら自分で読み切れていなかった書籍を、ようやく読了。

日経ビジネス・週刊ダイヤモンド・東洋経済などの経済誌でここ数年、よく特集が組まれるようになったこともあって、私もヤマダ電機の仕組みについてはある程度知っているつもりでした。この書物はそういった既知の情報が網羅されているのに加えて、創業者の山田昇氏(現会長)の生い立ちから創業期に至る話まで掘り下げられているので、知らなかった情報や観点が得られて非常に興味深い内容でした。

専門学校を卒業後ビクターに就職し、組織の限界を感じて独立、松下電器(現パナソニック)系列の販売店を経て総合家電量販店化。群馬県に生まれて現在では全国ネットワークを網羅するようになった「国内家電流通の王者」は、「安さこそ価値」という信念のもと規模の拡大と調達コストの圧縮を両輪に、ひたすら拡大路線を突き進んでいます。それは、「タイムマシン経営」という言葉が認知されるようになる遙か以前から、アメリカ最大の家電量販店 Best Buy の経営手法を日本で再現しようとしていたのかもしれません。


いっぽうで、いち顧客として見たときのヤマダ電機は、私の自宅から最も近くにある大手家電量販店の一つであり、価格も(量販店としては)最安値クラスであるにも関わらず、これだけ電気屋好きな私がなぜか積極的には行きたいと思えないお店です。それはおそらく低価格にこだわるあまり、「売れ筋のものを大量に調達して仕入れ価格を下げる代わりに、売れ筋でないものはバッサリ切る」というヤマダ電機の売り方に私の好みがあっていないからだと思います。
私はどちらかというと売れ筋 No.1 でとにかく安い商品よりも、最先端であったりハイエンドであったり何か人と違うものであったり、ニッチ商品(よく言えばこだわりの強い商品)を好む傾向があると自覚しています。それに対してヤマダ電機には「ヤマダ電機が売りたい商品」しかないから、行っても楽しくないのでしょう。こう感じるのは私や私の親しい仲間うちくらいのものかと思っていたら、本書の中にも「ヤマダ電機に行って目当ての商品がなかったらヨドバシに探しに行くけど、最初にヨドバシに行って売っていなかったらヤマダには行かない」という消費者の例が挙げられていて、そういう顧客は案外少なくないんだなあ、と改めて気づかされました。電気製品にこだわりがなく、壊れたら初めて電気店に行って、置いてある選択肢から選ぶ・・・という高齢者が多い地方(ヤマダ電機も地方発祥の電気店)と、リテラシが高く指名買い顧客の多い都市部(カメラ系量販店の出自)とで顧客(全てではないにしろ)の行動が大きく異なる、ということに気がついていないか、気がついていてもどう対応して良いか分からないのかもしれません。もしくは、そういう顧客であっても価格になびく、と考えているのか。

まあ、価格差が一定以上に大きくなれば、嗜好品以外はコモディティ的要素が強くなり、低価格に流れる顧客の割合が大きくなるのは経済の原理だと思うので、それは否定してもしょうがないですが。
でも、例えばユニクロが価格以外の価値を提案するようになって、多くの顧客がもつユニクロのイメージが変わってきたのに対して、ダイソーを「ブランド」と認知している顧客がどれだけいるか?を考えれば、「価格が最大の価値」という戦略は、諸刃の剣であると思います。

さておき、本書は家電業界関係者のみならず、家電業界(の流通寄りの部分)に興味がある人や、マーケティングや経営戦略に興味がある人も読んでおいて損はない一冊だと思います。いろいろな観点で読める本だとは思いますが、私はこの本を読んで「価値」とはどういうことか、改めて考えさせられたなあ。

コメント

  1. del より:

    ヤマダに行って値段を見て、ケーズで価格交渉する私。
    または商品の現物を見たいときに行って、買うときは
    webでとか。
    本当に欲しいものはヤマダにはないし、本当に安い
    ものもヤマダにはないというのが私の印象。
    言われてみると店頭在庫に偏りがあるんだなぁ。
    なるほど。

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