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無意識の意識

久々に、グッと心に響いたインタビュー記事。

“高精度自由雲台”を生み出した「梅本製作所」とは (デジカメ Watch)

三脚用雲台で最近注目を浴びている「梅本製作所」の役員兼設計者の方へのインタビューです。至極まっとうなことを話しているだけですが、それでも最近なかなかこういう技術者の真摯な本音の部分を濾しとった記事って、あるようでなかなかない。
個人的に特に共感したのは、以下の二つのくだりです。

それだけに企画、開発者がユーザーでもある点が梅本製作所の長所。「自分がラーメン屋だったとしたら、そのラーメンを食べることが重要」(梅本氏)と話すとおり、ユーザーが企画や開発につながっている円環サイクルがあるため、通常の会社では難しいユーザーからのフィードバックが容易だ。ユーザーの目線で常に改善を繰り返しているという。

こういうことって、つくり手であれば当然やっていることのように思いがちですが、いやいや世の中に「あんたら自分たちで作った製品をちゃんと自分たちで使ってますか?」と問い質したくなる製品のなんと多いことか。経済活動の起源まで遡れば、「自分が必要なもの/使いたいものを作る」のが「つくる」という行為のプリミティブな理由だったはずなのに、分業が進んだ昨今では「仕事だから作る」という意識を持ったつくり手が少なくないように思います。
まあみんな生活がかかってるわけでそれ自体を否定するつもりはないですが、でも同じお金を払って何かを買うなら、私はそういう「自分自身がユーザーになっている」つくり手が作ったものを使いたいと思っています。私が先日「モノフェローズ」に参加したのも、塚崎さんの考えに共感していたのに加えて、こういう「つくり手」の想いに直接触れられる機会が増えればと思ったからでもあります。


もう一つはこのくだり。

梅本が作る以上、世の中にないものを造らないと意味がないんです。皆さんが意識していないけれど、欲しいと思っているものを作る。でも、どんな製品が欲しいかと尋ねたところで出てくるわけではありません。(撮影者の)動きをよく観察して、自分でも使ってみてその中から出てくるんです

これも、誰でも言えそうでなかなか言えない言葉。私が最近常に意識している「無意識の意識」ということの、まさにそのものをストレートに表現してくれた言葉だと思います。

マーケティングなことを言うと「市場が求めるものを提供する」というのは常識ではありますが、それを単に字面通りに実践してもそれは「市場が求めているものを提供した」ことにはならないと思っています。人々が「こんなのがあったらいい」と想像しているもののさらにその先にある本質を見極め、それを形にしてこその「つくり手」であり、ユーザーの期待値を上回って初めて「顧客満足」と言えるのではないかと。
技術者の独りよがりではなくて、単なる市場データの積み上げや所謂「お客様の声」でもなくて、エンジニアとして製品や技術を熟知していることと、いちエンドユーザーとしての視点、その両方を自分の中できっちり消化して混合し、自分の血肉とすることでこそ「無意識の意識」を形にできるのだと思っています。
これを読んでちょうど 3 年前に書いたエントリーを思い出したのですが、「男の本能、魂のシャウト」(笑)がにじみ出る製品というのは、その境地からこそ生まれるのではないかと思います。

そう言葉にするのは比較的簡単ですが、これを形にするというのがまた難しい(笑。何となく市場が盛り上がりつつあるところで、「あなたたちが欲しかったのは本当はそれじゃなくて、これでしょう?」的な、本質を突いたものが出せれば、こんなに気持ちの良いことはないですが、技術、景気、市場の注目、社会的インフラ、人、などいろんな条件が重ならなくてはならないので、そんな会心の仕事ができるのは実際にはよくて数年に一度しかないもの。単なるベストセラーではなくユーザーに愛される成果を世に出してこその「やり甲斐」だとは思いますが、両立できればそれがベストではあるけど、二者択一ならば少なくとも自分の仕事においては後者を重視した仕事がしたいと常々思っている私です。

書いててなんだかとりとめがなくなってきたので(笑)さておき、梅本製作所。私は一脚は持ってますが、三脚はカムコーダ用のものしか持っておらず、DSLR 用のちゃんとした三脚が欲しいとは前から思っていました。Manfrotto 派なので買うなら雲台も含めて Manfrotto で揃えるかなと思っていましたが、この記事を読んで雲台だけは梅本製作所のものを買おうかな、と思っています。

コメント

  1. 新の字 より:

    マーケティング的に、売るために、
    どんなモノについても、「高付加価値」ばかり追求して、基本がなおざりにされいるのを、最近強く感じていいます。
    食や音楽も。貧弱なメロディにゴテゴテのウワモノ、食なら添加物に、イミテーション。

    そういった商品群のプロモーションの片棒を担ぐ仕事をしつつ、その過程で、そのカテゴリにおけるより良いものを知って、関わった商品を購入することはまずなくなる生活を送っている今日この頃。

    まぁ、パチンコ店経営者はパチンコやらないんじゃないかなと。

    割りきってますが、時々ふと考えることはあります、色々と。

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