本田 雅一 / これからスマートフォンが起こすこと。 ―携帯電話がなくなる!パソコンは消える!
去年の『3D 世界規格を作れ!』がとても良い本だったので、引き続き期待していた本田雅一氏の新著。個人的には、高画質高音質方面よりも(こっちはこっちで趣味としては好きなんですが)むしろモバイルやコミュニケーションの世界にこそイノベーションを感じる志向性なので、発売を楽しみにしていました。
内容的には例によってとても本田さんらしい、業界を幅広くかつ深く取材した上で、フラットに現状と少し先の未来を整理したものと言って良いでしょう。フィーチャーフォンとスマートフォンの違い、ハードウェア/ソフトウェア面からみたスマートフォンの性質、タブレットの台頭、PC とスマートデバイスの今後の変遷、クラウドと 4G モバイル通信、Facebook をはじめとしたソーシャルメディアの存在感が増すこれからのインターネットについて、パッケージメディアからサブスクリプション型のコンテンツ配信モデルあるいは UltraViolet などを利用した新しいコンテンツ流通モデルへの変化、そしてそれらをふまえて各分野で誰が今後の勝者になるのか・・・といったように、スマートフォンやモバイルデバイスに関わるあらゆる事象を網羅的にまとめた一冊になっています。この分野は IT 産業の中でも現在もっとも進化のスピードが速い分野なので、2~3 年後には本書の内容はもう古い、つまり現実のものとなっている可能性が高いですが、そういう意味ではある種予言的でもあり、仕事/趣味的興味を問わずこのあたりの世界に携わっている人であれば、漏れなく読んでおくべき書だと思います。
個人的には、自分自身がこのあたりの事象の渦中にいることもあって、ほとんどが知っていることではあったのですが、個々の内容としてはよく知っていることであっても、こうやって全体の構造を改めて理解させてくれるという意味で、読む意義があったと感じました。内容の深さという点では少し食い足りない部分も多かったですが、ちょうど先日のスマホ業界 楽屋裏トークが結果としてそこを掘り下げる内容だったこともあり、併せて非常に勉強になりました。
フィーチャーフォンの多くがスマートフォンに取って代わられる・・・というか、スマートフォンがフィーチャーフォン化していく流れは、端末コストの面から言ってもネットワークとサービスの独立性(による自由競争の活発化)という面から言っても理にかなったものであり、止めようがないことだと思います。また同様に、PC の多機能/高性能をそこまで必要としない多くのユーザーにとって、スマートデバイスのほうがよりライフスタイルに適した製品であることも事実だと思います。本書のサブタイトルにもなっている「携帯電話がなくなる!パソコンは消える!」というのはいかにもキャッチーさを狙ったもので、さすがに極論であり反語ですが、それでもある面での真理を突いていると言えるのではないでしょうか。コミュニケーションに PC を使わずにすべてケータイで済ませてしまう世代がいるように、フィーチャーフォンも PC も買わずにスマートフォン(またはスマートデバイス)ですべてを完結させるユーザー層、あるいは世代というものは、間違いなく出現するでしょう。
また、本格的なクラウド時代が到来し、スマートデバイスの台頭によってハードウェアそのものの存在感は薄れていく、だから Apple のようにそこそこの原価で UX に関わる部分にはコストをかけ、少品種大量生産で稼げるビジネスモデルこそ正義だ、みたいなことは最近よく言われますし、それはある種の真理ではあると思います。でも、「おわりに」に書かれていたこの言葉には、私も確信を持っていたい。
わたしはこれからしばらくの間、消費者が”装置そのもの”に強い興味を抱かなくなる時代が来るだろうと考えている。スマートフォンを通じて得られる価値は絶大だ。しかし、その価値の多くは通信の”向こう側”にある。(中略)しかし、時が経てばハードウェア、ソフトウェア、サービスが一体化することで、消費者の興味が”製品”そのものに戻ってくるとも確信している。
これは当然、「ハードとソフト、サービスが一体化した先のこと」であり、現状のままハードウェアだけを豪華にすればいいという話ではありませんし、すべてを Apple がデザインした箱庭的世界観(で、多数の熱狂的ファンを抱える現在の状況)こそこの理想的な状態だという考えかたもあるでしょう。が、我々はまだ「ハードとソフト、サービスが完全に一体化した未来」を見ていない。そのときにどんな世界が待っているか、いや、どんな世界を創れるか。
その競争は、すでに始まっています。
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