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マウントアダプターの爪痕

新しいオールドレンズ関連の電子書籍を読了しました。

澤村徹 / マウントアダプターの爪痕:オールドレンズ沼よりマウントアダプター大湿原 [Kindle]

マウントアダプターの爪痕: オールドレンズ沼よりマウントアダプター大湿原

毎度おなじみオールドレンズの第一人者である澤村徹氏の新著です。例年ならば今頃『カメラホリック レトロ』の新刊が出る頃ですが、今年は特に予告も出ていません。もしかすると続刊の予定はなく本書がその代替ということなのかもしれません。

デジタル一眼レフからフルサイズミラーレスへの過渡期にかけてある種のブームとなったオールドレンズ趣味。当初はマイクロフォーサーズか APS-C E マウントくらいしか選択肢がなかったボディも今やキヤノン・ニコンからもフルサイズミラーレスカメラが登場して選び放題になりました。一方でオールドレンズは新規に増えていくことはなく、マウントアダプターも考え得る限りの組み合わせについてほぼ出尽くした印象。平行して国内の中古市場にあったレンズが大陸(特に中国)に流れてレンズの入手性も以前に比べ悪くなっています。そういう「一時代の終わり」を象徴するかのようにタイトルに「爪痕」とあるのが印象的。澤村氏自身も近年はデジタル赤外線写真や AI アートなどオールドレンズ以外の題材にピボットを試みているように見え、ここらで一度オールドレンズに関するムーブメントを総括しておきたかったのではないでしょうか。

本書はマウントアダプターやオールドレンズを紹介するものではなく、これまでのオールドレンズ関連の仕事(半ば趣味に見える)を通じて澤村氏が遭遇した事件や感じたことについて綴ったエッセイとなっています。なお従来のオールドレンズ本とは違って Kindle プラットフォームを利用した澤村氏の自費出版であり、現時点では電子版のみ販売されています。

マウントアダプターの爪痕

内容は三章で編成されています。第 1 部「マウントアダプターの爪痕」は印象的だった and/or 苦労させられたマウントアダプターの話。第 2 部「墓まで持っていくのはやめた」は今だからこそ、かつ自費出版だからこそ話せるメーカーや出版社に関する苦労話。第 3 部「マウント改造は蜜の味」はオールドレンズ趣味の中でも最もディープなマウント改造の楽しみと失敗談、が記されています。メーカー保証外で自己責任が基本という世界だからこそ苦労は絶えないわけですが、渦中にいたら冗談じゃないけど今振り返れば笑い話にもなります。メーカーや出版社に関する裏話はある程度ぼかされていますが、澤村氏のムックの版元が翔泳社→玄光社→ホビージャパン社と変遷したのはそういうことだったのかー、と妙に納得する部分もあり(笑)。
メーカーとのやりとりに関しても、一般の大手企業との仕事だって墓場まで持っていくような話は普通にあるんだから、中国のベンチャーや町工場のような中小企業が相手になるマウントアダプターの世界の苦労は想像に難くありません。途中から、澤村さんと一緒に焼酎を傾けながら「苦労したんすね~…」と同情している気分になってきます。

そんなわけで、これまでのオールドレンズムーブメントの中で澤村さんがしてきた苦労話が 100% 主観で書かれており、従来のオールドレンズ本とは全く異なる手触りがします。でも歴史をずっと追ってきた私には深く刺さりました。

マウントアダプターの爪痕

私はオールドレンズ本の始祖とも言える第一作『オールドレンズ パラダイス』以前から毎コミの PCfan で『吾輩は寫眞機である』を愛読していた、澤村さんの最古参読者の一人と自認しています。もともと友人の影響で EOS にヤシコンツァイスレンズをつけて撮るのに憧れてこの沼に足を踏み入れた際に澤村さんの著作に出会った形。その後は黎明期のソニー NEX で選択肢の少なかったネイティブ E マウントレンズの代わりにオールドレンズを使うようになり、それがそのまま続いている形です。とはいえ近年はネイティブ E マウントレンズの種類も十分に増え、また新製品もどんどん出てくるからオールドレンズよりも現行レンズを触るのに忙しくなってしまっていました。

私自身が浸かったオールドレンズ沼はまだ全然浅い方だったと思っていますが、それでも持っているマウントアダプターの数は一般家庭よりちょっとだけ多いかな。いろいろ試してきた中で一番楽しかったのはやっぱり CONTAX G レンズ関連ですね。フランジバックが短いから一眼レフにはつかないし、仮についたとしても構造上 MF も AF もできない不遇のツァイスレンズだったのがミラーレスカメラとフォーカスリングつきアダプターのおかげで MF で撮れるようになり、α7 の登場によってレンズ本来の画角で撮れるようになったかと思えば AF マウントアダプターまで登場…まさにシンデレラストーリーのようでした。オールドレンズと呼ぶのが畏れ多いほどよく写るし、カメラにつけたときの佇まいも良かった。今でも時々思い出したように使っています。

今後オールドレンズに脚光が当たる機会も少なくなるのかもしれません。私も最近は中古屋を覗きに行くこともめっきり減りましたが、それでも使ってみたいオールドレンズはまだいくつかあるんですよね。仮にブームが終焉したとしても、個人の趣味としてひっそり楽しんでいこうかと。

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