先週公開された『閃ハサ』、期待を超えて素晴らしかったです。ガンダム最新作ということで期待はしていましたが、原作小説準拠ならスケールが小さいし戦闘シーンは少ないし何より内容が暗いし…で不安もあったんですよね。しかし原作ほぼそのままのシナリオながら映像と音楽と芝居の力であそこまで引き込まれるものに仕上がっているとは。実は日曜日にも二回目を観に行きました(BD を買ったにも関わらず)。
既に続編が待ちきれなくなっているわけですが、その逸る気持ちを落ち着かせるべく Netflix で配信されている同じ村瀬修功監督作品を鑑賞しました。
「9.11」の後テロ対策を名目に個人の行動が高度に監視・管理されるようになったアメリカは、表向きの平穏を維持していた。それとは対照的に後進国では内戦や虐殺が多発・激化し国際問題となっていった。米軍特殊部隊に所属するクラヴィス・シェパードは、それらの虐殺行為の背後に常に存在すると言われる謎のアメリカ人言語学者ジョン・ポールを追う。そこで明らかになったのは、人間には虐殺を司る器官(神経系)が存在し、とある言語文法によって良心を麻痺させ虐殺器官を活性化させることができるという事実。ジョン・ポールが世界中で虐殺を発生させる目的は何か。対する米軍もまた、良心や痛覚を薬理的に抑制することで効率的にそれらの虐殺に介入していくが、果たしてその行為はジョン・ポールがやっていることと何が違うのか――。
同名の小説をアニメ映画化したもので、ストーリーは本格的な SF サスペンス。ノーランあたりが監督してハリウッド映画化されてもおかしくないようなスケールの大きなテーマです。殺したり死んだりするシーンの描写がかなり直接的で、人によってはダメかもしれません。実写じゃなくてアニメでまだ良かったと言えるでしょう。
誰が敵で味方なのか判らない不安や、クラヴィスとジョン・ポールのどちらが正義なのか…という問いかけ。抑揚があるというよりは、全編を通して一定の緊張感が保たれています。特に導入部は状況が説明されないこともあって面白いのかどうかよく分からない…という感じでしたが、中盤からグイグイ引き込まれていきました。
そして本作は『閃ハサ』とは全然違う話なんだけど、個々の部分では共通点がめちゃくちゃ多い。物語の構成要素そしてはテロや虐殺行為、ファムファタール、敵との相互理解と三角関係。映像的には残酷な描写、全体的に暗い映像と戦闘シーン、効果的に挟み込まれる主観映像。両方を観た後なら『閃ハサ』は実質ガンダム版虐殺器官なのでは?という気さえしてきます。
特に戦闘シーンを中心として外連味よりも淡々とした状況描写を軸に描かれているのが緊張感を高めている要因ですかね。人が死ぬ場面でも淡々と死んでいくだけで、そこに感情はない。それでも比較すると閃ハサのほうが外連味をそれなりに意識して描写されているのがガンダム作品としての方法論なのでしょう。閃ハサ単体で観ていたときには要所要所で「ここはもうちょっと勿体ぶってほしかった」と思うところがありましたが、あくまでシナリオが主役で戦闘シーンは状況の変化を表現した結果に過ぎないというアプローチは『閃ハサ』の原作をふまえて考えれば正しいと思えます。
作風的には万人受けする作品とは言えないけど、私は面白かったです。村瀬監督は『0083』や『UC』といった代表的ガンダム作品にクレジットされる一方で、こういう作品も手掛けていたのですね。ならば『閃ハサ』で村瀬監督が抜擢された理由もよく解るというものです。
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