スポンサーリンク

庵野秀明展 @国立シン・美術館

六本木の国立シン・美術館(国立新美術館)で先月より開催されている「庵野秀明展」に行ってきました。

庵野秀明展

開催当初はなかなかチケットが取れず、その後もうまい具合に予定が合わずで一ヶ月あまりお預けを食らい、ようやく行けました。最近は休日でも当日券が買える状況のようですが、それでもけっこう混雑しています。

『エヴァンゲリオン』シリーズが完結し、これから『シン・ウルトラマン』『シン・仮面ライダー』が公開されようというタイミングで庵野秀明というクリエイターの半生をまとめる展示会です。これまでもエヴァシリーズやスタジオカラーに関連する展示会は多数ありましたが、本イベントは庵野秀明という個人にフォーカスしたもの。

展示はいきなり「庵野秀明の実家にあったミシン」から始まります。どういう生い立ちを経てこういう人となりのクリエイターが育ったのか、を起源から描こうという意気込みが感じられます…ちょっとやり過ぎという気もしますが。もしかしてここからトヨタ産業技術記念館のような展示でも始まるのかという雰囲気。

小中学生時代の創作に関する展示まであります。存命中の人物についてこういう展示をやることってあまりないような気が(笑

ノートに模写や漫画を描いたり、オリジナルの漫画雑誌を作ってみたりするのは自分にも覚えがあるなあ…。

そして少年期の庵野秀明に多大なる影響を与えた作品群に関する資料展示。軒並み 1960~70 年代の特撮やロボットアニメで私は世代が違うため詳しくありませんが、エヴァをはじめとする庵野作品にもこれらのモチーフやオマージュが数多く見られるのはよく知られるところ。

当然ウルトラマンも。

というかこの展示会、庵野監督が直接関わったものでない作品まで含め、版権がバラバラな資料をよくぞここまで集めてきたなあ…ということに感心します。それ故に展示箇所ごとに撮影 OK/NG が分かれていて、気づかずに撮影しそうになって係員さんに制止されることが何度かありました。係員さんの対応はとても丁寧でしたが、撮影 NG の表示はもう少し大きくても良いんじゃないでしょうか。

庵野監督に影響を与えた作品の一つとしてガンダムも展示されていました。庵野氏といえば特撮以外にもジブリ作品やファーストマクロスとの繋がりが取り沙汰されることが多い一方で、ガンダムとの関わりについては言及されることが多くないので、こういう形で安彦良和先生の原画が展示されていたことにはちょっと驚き。

青年期にはサークルの自主制作という形で特撮作品を多数撮っています。その多くが仮面ライダーやウルトラマンをモチーフにした同人的作品で、庵野監督のルーツはアニメよりもむしろ特撮にあることが改めて感じられます。

ガイナックスの母体となった同人サークル「DAICON FILM」が制作した同人版『帰ってきたウルトラマン』。自分も 5 歳くらいの頃、同じように特撮ヒーローのオモチャを並べてスペシウム光線のポーズを取っている写真が残っているんですが(笑)、庵野監督の場合はその 5 歳児の心のまま 23 歳に、そして現在の 61 歳になってしまったんだろうなあ…というのがよく感じられる写真。

その DAICON FILM が制作したアニメーション作品。動画は撮影不可だったのでありませんが、ディテールの描き方や動き、エフェクトのかけ方がそのまんま 1980 年代後半~90 年代の(主に SF・ロボット系)日本アニメのそれで驚きます。ガイナックスとその世代のクリエイター達が間違いなく日本アニメの一時代を作ったことが分かります。

そして今でも語り草となっている、庵野氏が原画を担当した『風の谷のナウシカ』の巨神兵のシーン。この原画を生で見たのはこれが初めてでしたが、これは圧倒されますね。原画は動画で見るのとはまた違った凄味がある。しばらくこの原画の前で身動きが取れませんでした。

展示の物量が半端なくて完全にダイジェスト的にしか写真を掲載できていませんが(汗)、ここからはガイナックス時代以降の展示。『ナディア』『トップをねらえ!』等で気鋭のアニメーションクリエイターとしての地位を確固たるものにしていきます。私はエヴァとナディアくらいしか観たことがないのですが、Prime Video の見放題にある『トップをねらえ!』くらいはこの機会に観ておこうかなあ…。

そして、全てを変えた『新世紀エヴァンゲリオン』。私はリアルタイムではなかったので(なんせ富山では放送されていなかった)このポスターに見覚えはありませんが、それでもテレ東の旧ロゴとか懐かしいなあ。

エヴァ関連の展示はさすがの物量。初期検討案から丁寧に展示されていました。人造人間エヴァンゲリオンのデザインはごく初期から従来のロボットヒーローものとは一線を画した悪役的ともとれるデザインを志向していたんですね。実際、物語の最初から最後まで人類の見方なのかどうか分からない不気味な存在であり続けたわけで(暴走とかするし)、鬼や悪魔を連想させるデザインを求めていたのでしょう。

基本的なキャラクター設定は最終版とほぼ同一ながら、キャラクターデザインがまだ固まっていない頃と思われる資料。綾波もアスカもミサトもアニメの印象とは少しずつ違っています。

使徒関連の設定資料。上は第 14 使徒ゼルエルの原型でしょうが、下は新劇場版「Q」の冒頭に登場したコード 4B じゃないですか!これは最初のテレビシリーズのときに描かれた資料だと思われるので、新劇場版を作るにあたって引っ張り出してきたんでしょうね。シン・エヴァの公開前後にメカニックデザインの山下いくと氏がツイートしていた内容によると新劇場版では過去のアイデアの再利用やボツ案の発展型も多数採用されているようなので、かつては設定の整合性や映像表現の難しさなどの理由で採用されなかった案が復活当選しているものが相当数ありそうです。

「第 3 村」のミニチュア。先日スモールワールズ TOKYO で展示されていたものですね。当時は緊急事態宣言等の関係で現地に足を運ぶのが難しかった人でもここに来れば改めて実物を見ることができます。

これまであまり公開されてこなかった『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』関連の設定資料も多数展示されていました。こちらはアスカとマリの深々度ダイブ用耐圧プラグスーツのデザイン案(これでも展示されていたバリエーションの半分程度)。衣装デザインひとつにこれだけの労力をかけていることに改めて驚きますが、様々なドキュメンタリー等でエヴァの制作過程を見た今としては逆に驚かない、というほどエヴァ制作チームの偏執的なまでのこだわりを知ってしまいました。
死を覚悟した作戦に赴くための白装束、というのが基本コンセプトにあるようですが(黒ベースのも中にはあった)、個人的には太腿に赤線が入ったシンプルなデザインもけっこう好き。

『シン・エヴァ』関連の展示物は本邦初公開になるものも多いのではないでしょうか。エヴァファンならこれを見るためだけに六本木に足を運ぶ価値があると思います。

そしてエヴァのその先にある「シン」シリーズ三部作。これはそのうち既に公開済みの『シン・ゴジラ』から、ゴジラ第 5 形態のプロップです(もちろん第 1~4 も展示あり)。『シン・ゴジラ』もエヴァシリーズと同等以上にディテールと考察の余地がある物語でしたが、今後公開される『シン・ウルトラマン』『シン・仮面ライダー』はどうなるでしょうか。

人生の集大成と言えるエヴァンゲリオン完結を経て、自分のルーツとも言える特撮の世界に帰って行く庵野監督。人間は原体験に縛られ、13~14 歳の頃に好きだったものに影響され続ける…というのは最近歳を取ってきた自分でも実感するところなのですが、庵野監督もきっとその道をただ純粋な気持ちで歩んでいるのでしょう。個人的にはごく幼年期を除いて特撮にハマる人生ではなかったのですが、庵野監督が今の技術と経験をもって描く日本特撮の源流二作(シン・ウルトラマンは脚本での参加ですが)がどのような作品になるのか、今から楽しみです。

展示内容の一部はかつてのエヴァ関連の展示会で見たものも多数ありましたが、エヴァ以外も含めこれだけの物量で庵野秀明というクリエイターを表現した展示会はこれが初めてではないでしょうか。私は庵野作品をそれほどたくさん観てきた方ではありませんが、それでもあまりの物量とディテールに圧倒されました。少なくとも 2~3 時間は溶ける覚悟をもって見に行く価値のある展示会だと思います。

コメント

  1. 丁稚 より:

    レポートするのもひと苦労のボリュームって感じですね。シン・ゴジラの尻尾だけで30分ぐらい見入ってしまいそう。

    • B より:

      いやー本当にここに掲載した写真は全展示物の 1% にも満たないと思います。それくらい、物量の暴力と言いたくなる濃さ。
      ゴジラの尻尾は大げさでなく目を奪われましたね…。

      あと一ヶ月あまり開催されているので、是非!!

スポンサーリンク