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映画『フェラーリ』 @TOHO シネマズ川崎

レース好きとして見逃すわけにはいかない映画を観に行ってきました。

映画『フェラーリ』

自動車レース界に燦然と輝く「赤い跳ね馬」ことフェラーリ。その創始者であるエンツォ・フェラーリの伝記的映画です。
主演はアダム・ドライバー。『スター・ウォーズ』シークエル三部作でカイロ・レンを演じたアダム・ドライバーが、本作では銀髪にサングラスがトレードマークのエンツォを演じています。この人、年齢による変化もあるかもしれませんが悪役としては小物だったカイロ・レンよりも肩幅のあるスーツを着て威圧感を出す芝居の方がよっぽど向いてますね…。

エンツォ・フェラーリの映画というからにはフェラーリ社の設立からエンツォの晩年くらいまでを見せてくれるのかと思ったら、エンツォの生涯の中でも最も苦しかったであろう 1957 年だけを切り取った作品でした。前年に最愛の息子アルフレード・“ディーノ”・フェラーリを筋ジストロフィーで亡くし、一方で会社は経営難に陥りフィアットかフォードどちらかの傘下に入らざるを得ない状況。少なくとも倒産を免れるには当時のイタリア伝統の長距離レース「ミッレミリア」でマセラティに勝ち、ブランド価値を高めるしかない…というくだりが描かれます。ちなみに時系列的には『フォード vs フェラーリ』の数年前の話ですね。
ちなみにミッレミリアとはイタリア半島を半周して Mille Miglia=1,000 マイル≒1,600km を走破する公道レースで、日本に当てはめるとほぼ青森から下関まで、つまり本州を縦断する距離を 3~4 日かけて走るレースです。本作の舞台となった 1957 年のレース中の事故を理由に中止されているから私は見たことがありません(1977 年にクラシックカーレースとして復活)。

映画はそんな 1957 年のエンツォにフォーカスしています。ディーノの死をきっかけに妻であり共同経営者でもあるラウラとの関係は冷え切っており、一方で愛人リナ・ラルディとの間に婚外子をもうけ、二重生活を送っている(ちなみにその婚外子はピエロ・ラルディ・フェラーリとして現在はフェラーリ社の副会長を務め、F1 の国際映像にも時折抜かれています)。会社経営が苦しい中でもレースで勝つことにこだわったエンツォの厳格さと、妻と愛人そして二人の息子(ディーノとピエロ)の間で見せる人間的な弱さの両面が描かれていました。

エンツォ・フェラーリは私が F1 を観るようになる少し前(1988 年)に亡くなっているので私はリアルタイムでは知りません。が、伝説的なエピソードが多数残っている偉人であり、レースを追いかけていれば断片的には耳に入ってくるものです。とはいえ、あまりに神格化されすぎていて知る機会がなかった「人となりがどうだったか」を見せてくれる映画でした。劇中で再現された「他の会社はクルマを売るためにレースをしているが、我々はレースをするためにクルマを売るのだ」のシーンには痺れましたね…。

エンツォの人間性を軸にした映画だからレースシーンは控えめ。でもクライマックスのミッレミリアではたっぷり尺を取って見せてくれます。イタリアのさまざまな風景をバックに疾走するフェラーリが美しい。と同時に、現代のレースカーにあるような安全装備がほとんどない状況がいかに危険だったかも克明に記しています。事故でドライバーがクルマから投げ出されたり、酷いときには身体が引きちぎられたり…現代のレースでも死亡事故がないわけではありませんが、この映像を見ると当時と今ではレースにおける「死と隣り合わせ」感は全く別次元にあることを実感します。
またファンジオやスターリング・モス、ピーター・コリンズといった記録上でしか知らない過去の名ドライバーたちが(チョイ役とはいえ)登場するのもレースファン的にはアツい。ああいう時代に活躍した人たちだったんですね。

そういえば、ちょうどブラッド・ピット主演の映画『F1』も来夏に公開されますね。『フォード vs フェラーリ』といい『グランツーリスモ』といい、レースを題材にした映画が近年続いていることはレースファンとしては嬉しい限り。『F1』の公開も楽しみにしています。

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