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「but, not today」は名作の法則

先日観た『侍タイムスリッパー』がとても良くて、週末は脳内で何度も反芻していました。基本的にはコメディながら名シーンもたくさんあって、中でも良かったのは大御所時代劇俳優・風見の「いずれ時代劇は必要とされなくなるだろう。だがそれは今日ではない」という台詞(うろ覚え)。
「『だがそれは今日ではない』という台詞がある映画は名作」とはよく言われる話で、この台詞が出てきたときにはここでそれを言わせるのか!とグッときたものでした。本作は時代劇愛に溢れていましたが、それと同じくらい映画や映像作品に対する愛を強く感じました。なんたって安田淳一監督が監督の他に脚本・撮影・照明・編集(あとたぶん機材提供も)を務め自主制作であれだけの作品を作り上げたわけですからね。もっと言えば、劇中で時代劇の助監督・優子を演じていた沙倉ゆうの氏が実際に助監督や制作も担当されていたというのにも驚きます。

ということを週末からぐるぐる考えていたら、今日になって全然違う文脈で同じ台詞に関する話題に触れる機会がありました。「but, not today(だがそれは今日ではない)」と言わせる映画は名作の法則。まあ十分条件ではありませんが、おそらくその台詞を言わせるシチュエーションや演技も相まって印象に残りやすいということだと思います。主には絶望的な状況において、半ば諦めや悟りの境地に達しながらも自分たちを鼓舞するように発する台詞であることが多いから当然ですね。

私の個人的見解では映画史における三大「but, not today」は以下の三つではないでしょうか。

■バトルシップ(2012)

バトルシップ

異星人の侵略に対して日米の合同艦隊が守るための戦いをする映画。クライマックスの場面で主人公アレックスが無謀と思える作戦を仕掛けた際、日本人将校のナガタ(浅野忠信)の「みんな死ぬぞ!」という言葉に対してアレックスが返したのが「君も死ぬ、俺も死ぬ、みんな死ぬ。だが今日じゃない」という台詞です。原語だと「Just not today」ですかね。シチュエーション的には最も王道の使われ方ではないでしょうか。
映画としては B 級 SF 的な評価をされがちな本作ですが、それ故に熱いファンが多い作品でもあります。

■トップガン・マーヴェリック(2022)

トップガン・マーヴェリック

言わずと知れた 2022 年の大ヒット作。この映画での but, not today の使われ方はバトルシップとはちょっと違っていて、自動操縦やドローンの実用化によってパイロットの必要性が薄れたことで上官から「お前は絶滅危惧種だ、必ず終わりが来る」と告げられたのに対して「そうですね、でも今日じゃない(Maybe so sir, but not today)」と反論する静かなシーンでした。全盛期を過ぎた名パイロットがかつての名機に再び乗り込む展開と相まってこの台詞の印象がさらに強まったと思います。

■ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還(2004)

ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還

個人的には洋画でのベスト「but, not today」は本作だったりします。三部作の最終盤で人間の軍勢がサウロン軍と対峙した際、人間の王アラゴルンが兵士たちを鼓舞した名演説。当該部分を引用すると以下のようになります:

ゴンドールとローハンの息子たち、わが同胞よ!
諸君の目の中に、私をも襲うだろう恐れが見える。
人間の勇気がくじけて友を見捨てる日が来るかもしれぬ。
だが今日ではない。
魔狼の時代が訪れ、盾が砕かれ、人間の時代が終わるかもしれぬ。
しかし今日ではない、今日は戦う日だ!

ここは LOTR 三部作の中でも最も感動的なシーンの一つですね。今観ても震えます。
ちなみに二回登場している「だが今日ではない」の原語は「but it is not this day」となっています。王の演説だからか言い回しが丁寧。

あと映画じゃないですが、番外編的にはこんなのも。

■リコリス・リコイル(2022)

リコリス・リコイル

人工心臓をもつ吉松が逃走して千束の延命が絶望的になったとき。うなだれるたきなに対して千束が「私だけじゃない、お別れのときはみんなに来るよ。でもそれは今日じゃない」と諭しました。これもまたいいシーンなんですが、本作は映像や演出に映画のオマージュを多数取り込んだ作品であり、千束の「B 級映画好き」という設定から考えてこの台詞は前述の『バトルシップ』からの引用と考えるのが自然でしょうね。作中最大のクライマックスで使われる台詞な点も含めて「やってんなあ」という印象です。

たぶん探せば他にもいくつもの「but, not today」は存在するはずです。映画の世界だとスター・ウォーズの「イヤな予感がする」はシリーズを通して定番的に使われる台詞ですが、作品の枠を超えて映画界に愛される名台詞は「but, not today」以外にもいろいろとあるんじゃないでしょうか。そういう台詞に気がついたときに、制作者の映画愛やジャンル愛を強く感じることができます。そんな視点で映画を観てみるのも面白いのではないでしょうか。

コメント

  1. たまによくとおりすがり より:

    ある意味使い古され背景とオチが誘導されてしまう「A good day to die」を使わないためのセリフ回しですねぇ
    上のセリフだと破滅一直線ですが「but, not today」はクライマックス直前のターニングポイントみたいにつかわれるようになってますね
    さて昼だ but, not today

    • B より:

      A good day to die、何かで聞いた覚えがあるんですが何の作品でしたっけ…当時はそのニュアンスがイマイチ理解できなかったような。
      But, not today 良いですよね。私は映画でこの台詞が出てくると条件反射的に高揚してしまいます。制作側も分かってるのかシチュエーションに加えて映像や音でも盛り上げにかかってくるし。もはや王道の演出ですよね。

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