Amazon Prime Videoにて本日配信開始された松重豊監督作第2弾をさっそく視聴しました。
企画プロデュース・監督・共同脚本を松重豊、制作全般を共同テレビ『孤独のグルメ』チームが担った配信ドラマです。この体制での制作は『劇映画 孤独のグルメ』以来になります。
今回のドラマは『孤独のグルメ』ではないため井之頭五郎は登場しません。孤独のグルメのように食そのものが主役ではなく、食(外食産業)にまつわるヒューマンドラマが主軸。松重さんが『劇映画 孤独のグルメ』『それぞれの孤独のグルメ』でやろうとしたことの延長線上にあり、閉店の危機にある飲食店の復活劇にフォーカスしたものになっています。
福島県にある老舗洋食レストラン。かつては賑わっていたがショッピングセンターの台頭等により客足が減っていたところに店主が急逝。その妻でありレストランのママでもあった智子(演:加賀まりこ)は家族によって老人ホームに入れられる。施設で元気のない生活をしていた智子だったが、施設の調理師が交代して食事がおいしくなったことをきっかけに少しずつ元気を取り戻していく中、ある日の食事として提供されたポークソテーの味が亡き夫のものとそっくりであることに気づく。かつてあのレストランを愛し、今はレシピ動画サイトで働く孫の加奈(演:のん)の協力を得て、その調理師・水橋(演:北村有起哉)が夫が昔修行した有名レストランで働いていた経歴に辿り着く。水橋をシェフに迎えることでレストランを復活させることを思いつく智子だったが、水橋はある事件をきっかけに職を失ったことで心を閉ざしており…。
閉店の危機にあえぐ飲食店と傷ついた料理人、店の再建に賭ける熱意ある人々…という構造は『劇映画 孤独のグルメ』後半のプロットとよく似ています。というか、あの映画で描ききれなかった部分を改めて描き直そうとしたのがこのドラマなのかもしれません。劇映画はかなり欲張った構成でやや詰め込みすぎ感があったので、飲食店の復活というテーマに絞ってシンプルに深掘りしたかったのではないでしょうか。劇映画ではコロナの影響による経営難、本作は店主の高齢化と後継者問題、という松重さんが『孤独のグルメ』を通じて直面してきた飲食業界の課題にそれぞれ向き合ったものと言えます。
個人的には、智子がおいしいと思えない食事が続いていた日々にどんどん元気がなくなっていったのに、おいしいと感じる食事に切り替わった途端に目の輝きが変わり、みるみる元気になっていく様子にはものすごく共感しました。食への価値観って人によって大きく異なるけど、私はおいしいものを食べられるかどうかで日々を生きる気力や物事へのモチベーションが全然変わってくるし、どんな人にとっても食と人生の充実感って多かれ少なかれ連動すると思うのです。
なお、松重さんは今回も制作サイドに加えて俳優として出演もしています。が、今回は井之頭五郎ではなく老人ホームの所長役。一応食べるシーンもありますが、モノローグがあったら面白かっただろうけどさすがになかった(笑

本作の撮影は老人ホームパートに関しては千葉県内で行われたようですが、レストラン関連のシーンは福島県内にて実施されました。福島の名物や風景をたくさん取り入れた映像はどことなく「福島豊」の延長線上にあるように思えたし、ちょっとしたシーンにクリームボックスやエキソンパイといった松重さん自身が好きだという福島名物が登場するのもポイントです。松重さんが制作に関わる作品って松重さん自身が好きだと思う人や音楽、食べ物が登場することがとても多いことに、ドラマだけでなく著書やラジオに触れていると気づきます。
やや気になった点としては、最初はレストランを引き継ぐことを固持していた水橋がいつの間にかあっさりそれを受諾してしまったことに物足りなさを感じました。私は人の態度変容には相応の理由やきっかけをちゃんと描いてほしいタチで、その点はもう少し掘り下げようがあったんじゃないかなあ。
ちなみに劇中に登場する「キッチンオオサワ」は福島県内に実在するレストランを利用して撮影されていますが、「キッチンオオサワ」自体は架空のレストランです。劇中で亡くなったマスターを演じていた中原丈雄氏は『孤独のグルメ』ではSeason7の東向島回でイタリアンレストランのマスターを演じていましたね。
『孤独のグルメ』とは大きく毛色が違うドラマですが、松重さんの飲食店に対する暖かな眼差しがそのまま伝わってくるような作品です。調理や食事のシーンは『孤独のグルメ』チームが撮ってるから間違いなくうまそう。劇映画が気に入った人であれば観てみる価値があるのではないでしょうか。
本作には井之頭五郎は登場しませんが、終盤にサプライズで『劇映画 孤独のグルメ』の中川(演:磯村勇斗)がゲスト出演していたことに驚きました。つまりこのドラマはあの劇映画と同じ世界線の物語、ということですね。もし本作に井之頭五郎が出ていたら逆にノイズになっていた(意識や話題性がそっちに持って行かれた)でしょうが、ファンサービスとして想像を膨らませる余地を作る絶妙な起用でした。
約75分の1話完結のドラマです。でもどうやらシリーズものの第1話という位置付けでの公開のようなので、反響次第で2話目以降も制作されるのではないでしょうか。このキッチンオオサワが復活した後にお店で起きる事件を描くのか(それやったら王様のレストランになりそう)、それともキャストも一新してまた別の飲食店にまつわる話になるのか。私はあるとしても後者だと予想しています。



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