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「みんぽす」のイベントで、日本を代表する撮影機器メーカーのひとつであるシグマさんのセミナー兼撮影会に参加してきました。
今回はシグマの山木和人社長から直接お話を伺えるまたとない機会、ということで、楽しみにしていました。
山木社長はときどきカメラ誌などのインタビュー(最近だと東洋経済誌の特集など)に登場されていますが、そういった媒体でお見かけするスーツ姿とは違い、今回はカジュアルウェアでのご登場。第一印象は「若い!」一般的なカメラメーカーの社長さんより随分お若いことは知っていましたが(現在 42 歳とのこと)、服装のせいもあってか本当に若々しく、かつ柔和な方でした。
シグマの創業者は山木社長のお父さんにあたる山木道広・現会長とのことで世襲制にあたります。世襲制には賛否両論ありますが、山木社長から私が受けた印象は「幼少の頃からカメラやシグマという会社に触れ、カメラ文化への理解と創業者精神をしっかりと受け継いでいる人」というもの。言葉の端々からそれが感じられ、会社の規模があまり大きくないからというのもあるでしょうが、サラリーマン社長じゃこうはいかないだろうな、というシグマの製品展開にとても納得できた気がしました。
シグマの創業は 1961 年。一般的な企業の年齢で言えば十分歴史ある会社ですが、国内のレンズメーカーとしては最後発。最大のライバルであるタムロンが今年 60 周年なので、それに比べると 10 年くらい若いことになります。
日本のカメラ/レンズメーカーは戦後、雨後の竹の子のように立ち上がり、それぞれが主にドイツのカメラメーカーを追いかけて(場合によっては模倣して)たくさんのカメラやレンズを発売してきました。オールドレンズを趣味にしていると今では名前も聞かないようなメーカーのレンズに、星の数ほど出会います。ペトリ、トプコン、コーワ、ヤシカ・・・ヤシカは CONTAX のおかげで今でも知っている人が多いですが(一応現在はエグゼモードがヤシカブランドのカメラを発売していますね)、コーワなんて今では「キューピーコーワゴールド」を作っているあの会社が昔はカメラ作っていたんですよ・・・。
そんな感じで大量に生まれたカメラ・レンズメーカーも次第に淘汰され、現在ではカメラメーカーはキヤノン、ニコン、ペンタックス、オリンパスの 4 社(に最近ソニーとパナソニックが加わりましたが)、レンズ(ほぼ)専業メーカーとしてはシグマ、タムロン、ケンコー/トキナー、コシナが生き残っているという状況です。でも、淘汰されたとはいえオリジナルだったはずのドイツを完全に追い抜いて、日本のカメラとレンズが世界中の市場で圧倒的なシェアを持っている、という状況に、日本人はもっと誇りを持って良いと思います。
ちょっと話が逸れたので元に戻して(笑)シグマの事業戦略がこちら。
「自社ブランド中心(=OEM ビジネスに頼らない)の事業展開」「他社との差別化」「内製化の徹底」。つまり、完全なる垂直統合モデルであり、国内生産にとにかくこだわっているということです。事業のコアとなる部分を自社で創り上げ、それを社会貢献と利益の源泉とする。企業にとって最も重要でありながら、特に昨今では最も難しいこと。オーナー経営だからこそ、ブレずにそれを追求できるのかもしれません。
そんなシグマの歴史はこの製品から始まりました。
いわゆるテレコンバーターです。当時はテレコンというとレンズ前玉の前に装着する「テレコンバージョンレンズ」が一般的だったらしく、それだとレンズのフィルタ径に依存してしまうので、もっと汎用性のある後玉とマウント間に装着するタイプのテレコンバーター(同じマウントであれば、原理的にはどのレンズにも使用できる)ができないか・・・という発想でした。
このテレコンはかなり売れたらしいですが、どうやら特許を取っていなかったらしく、今やどのメーカーからもテレコンバーターが発売されるという状況に(笑。
中古カメラ屋巡りが趣味だと、シグマのかなり古いレンズも目にする機会はあるのですが、歴史の始まりがテレコンバーターだとはさすがに知りませんでした・・・。
もうひとつ、変わり種はこちら。「Filtermatic シリーズ」という、レンズ内にカラーフィルタを内蔵して、フィルタ外付けを不要にしてしまったレンズ。今でこそカラーフィルタはデジタル処理してしまうので、レンズフィルタはプロテクタや円偏光フィルタ以外には特殊フィルタくらいしか使う機会がありませんが、当時はカラーフィルタの使用が今よりもポピュラーだったようです。3 種類のカラーフィルタが内蔵されていて、内部でターレット式に切り替えるギミックが内蔵されているらしいので、一つ買って分解してみたい(笑。
他にもいくつか代表的な過去のレンズの紹介がありましたが、徹底的な「他社との差別化」が、シグマという企業の血に流れているのだろうと感じました。
そんなシグマのレンズ製造拠点は、福島県の会津工場。最近ではほとんどのカメラ/レンズメーカーが海外工場での生産を行っていますが(例えばキヤノンは台湾やマレーシアでも生産。もちろん L レンズなどを中心に日本製もある)、シグマは完全に国内での生産で一貫しています。
確かコシナは長野に工場がありますが、やっぱりレンズの生産には水と空気がきれいじゃないと・・・というのがあるんですかね?
多くのメーカーが生産拠点の海外移転を進めているとは言っても、レンズは加工精度が命。いくらカメラがデジタルになり、設計がコンピュータシミュレーション中心になっても、製造プロセスはアナログ技術の塊です。おそらく、図面上で設計はできても生産技術がなければ狙った性能が出ないとか、そもそも作れないとか、そういうハードルがあるのだろうと想像します。
特に、削り出しで製造する試作品は職人芸の世界だそうで、普段は滅多に OEM を手がけない同社がまれに OEM の仕事を請けたときに削り出しの試作を持って行ったところ、「これ金型品ですよね?」と訊かれたことが一度ならずあるとのこと。それだけシグマの製造技術者は高い技術を持っているようです。
単に製造技術を国内に持っているというだけではなく、企画設計者と製造設計者が近くにいるということも重要で、OEM や海外生産だと設計者は「設計図を投げて終わり」なので多少性能に妥協しても作りやすい設計でないといけないところ(だから他メーカーでも海外生産は普及品クラスがほとんどで、高級レンズは国内で生産している)、設計と製造が近くにあるということは、そこで設計者と製造者が一緒に試行錯誤しながら性能と生産性を両立できる、ということです。
シグマという会社の転機は 1995 年、急激な円高が進んだ時期に訪れたそうです。現在のように世界中のカメラの大半が日本メーカー製という状況では、レンズメーカーのシグマもビジネスの大半は日本以外の国における販売によるもの。それが全て国内生産のまま円高になれば、製造原価は変わらずに利益だけが相場変動の分少なくなるということ。
この頃にほとんどの他メーカーが生産拠点の海外移転を推し進めましたが、シグマ(とコシナ)だけは国内にこだわる決断を下しました。
それはもちろん品質へのこだわりや総内製による利益率の確保、という側面もあるのでしょうが、おそらくはオーナー企業ならではの、創業者一族を中心とした「社員は家族のようなもの」という意識が働いたんじゃないか・・・と推測します。製造コストが即利益に直結する製造業では、こういう状況下では非常に困難な判断なだけに、ある意味うらやましい。
その「国内にとどまる」という決断を下すにあたり、改めて確認された内容がこちら。
やっぱり国内で製造する以上は「品質」しかないんですよ。1995 年に続き、ここ数年の日本企業が改めて直面しているのもこの問題です。海外の工場やメーカーではどうやっても実現できない品質で差異化を図り、それを付加価値として値下げ競争に巻き込まれないようにする。そんなことは誰もが分かっていることで、口で言うのは簡単ですが、実行するのはそう容易じゃない。そもそも、元から品質に絶対的な自信を持っていなければ採れない戦略です。
これをきっかけにレンズ設計・製造の評価基準を自ら上げ、品質改善系の取り組みにも力を入れることで、従来以上に高い品質のレンズを作るという方針を採ったそうです。具体的には「同時期に世に出ている他社製レンズと同等以上であること」を条件にしているとか。競合他社だって適当に作っているわけではないので、これは相当な覚悟だと思います。
そういえば、昔は「レンズメーカー製のレンズ=安物」というイメージだったのが、最近、特にシグマのレンズは「レンズメーカーにはない機能やスペックを持った、積極的に検討に値するレンズ」になっているような気がします。現に、私が EOS 30D のボディと一緒に買ったのもシグマの 17-70mm DC MACRO(OS・HSM なし)で、当時選択肢に挙げていたキヤノンの標準ズーム群と比較して「ズーム域が広い」「明るい」「簡易マクロとして使える」「質感も悪くない」「それでいて比較的安い」という、ほぼこれしかないというくらいに光っていたレンズでした。今では OS・HSM つきの後継機種が出ていますが、私は今でもこのレンズを EOS 7D の標準レンズとして愛用しています。
私はレンズメーカーではコシナとシグマが好きなのですが、コシナはツァイスレンズを出しているというだけではなく「カメラ文化というものが分かっている」というのがよく伝わってくるメーカーだから、というのがありました。シグマに対しては今まではどちらかというとレンズのスペックやシャープな描写に惹かれて、だと思っていたのですが、それにはちゃんと裏打ちされたものがあったのだなあ、と初めて知り、改めてこのメーカーが好きになりました。
ちなみにシグマといえば 200-500mm F2.8 という超弩級レンズや、150-500mm などのように超望遠ズームのリリースが相次いでいることもあって望遠系にこだわりのあるメーカーなのかな、と思っていたら、実際そうでもないんですね。
もともとシグマのレンズは 1970 年代後半に、当時としてはかなり珍しかったワイドズームレンズを手がけてから、広角レンズにかなりこだわりがあるとのこと。「他社と同等以上」をターゲットに、広角レンズではワイド端を業界最広でありつづけるよう開発を行っているとか。
シグマが今年発売したこの 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM は、6 年前のカメラグランプリを受賞した 12-24mm F4.5-5.6 EX DG ASPHERICAL HSM と同じ技術者が設計しているとのことで、画質には折り紙付き。レンズ設計者、ってあまり名前が世に出ることはありませんが、「設計者の名前を信頼して買う」みたいな買い方もありかもしれないなあ、と思いました。
そして超定番、どのメーカーも威信をかけて開発してくるために性能競争が激しい 70-200mm も今年リニューアルされました。このレンズ、実際には「当時発売されていた他社の 70-200mm F2.8 級レンズ」をベンチマークに、それらよりも 1 ランク高い性能をターゲットに開発され、一度設計が完了していたにも関わらず、去年登場した他社の 70-200mm F2.8 があまりにも高性能だったために、一度設計をやり直したとか(!)。設計をやり直す、ということは即ちそれが発売されるまでに 2 台分の開発コストがかかり、なおかつ新製品の発売が遅れる(=売り上げが立つのがそれだけ遅れる)ということなので、経営判断的にはかなり苦しかっただろうと想像しますが、それができてしまうのも、コンパクトなオーナー企業ならではですかね。
確かに去年発売されたニコンの AF-S NIKKOR 70-200mm F2.8G ED VR II も、今年発売されたキヤノンの EF70-200mm F2.8L IS II USM も旧型を超える非常に高い評価を得ているレンズですが、「それらと同等以上」を目標に開発されたというのであれば、これもかなり期待ができそうなレンズです。70-200mm は(F4 ですが)私もかなり使用頻度が高いレンズなので、これよりも明らかに良い描写だったりしたら、やばいなあ・・・。
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