夏休み前最後のレースであるハンガリー GP。比較的初優勝を生みやすい、荒れやすいサーキットであり、低速でマシン性能の差が出にくいサーキットでもあるので、何か波乱があるんじゃないかと期待していました。
波乱の予兆は予選 Q1。フリー走行全セッションでトップタイムを記録していたハミルトンが、Q1 の序盤にマシンから発火してノータイム。ダメージが大きかったためほぼ「全取っ替え」での決勝を余儀なくされ、ピットレーンからのスタートとなりました。今季ここまで、マシントラブルはハミルトンの側に集中していて、ツキに見放されている印象を受けます。とはいえ、前戦も 20 番手スタートからの 3 位、今回もピットレーンスタートからの 3 位なので、最も悪運が強いという見方もできますが…。
逆に PP から圧勝かのように思われたロズベルグ。序盤はまさに独走の様相を呈していましたが、セーフティカー導入による混乱でトップを明け渡し、その後もしばらくはペースに伸び悩んでアロンソに抜かれるなど、苦しいレースになりました。ヴェルニュをなかなか抜けず、早めのピットインでアンダーカットには成功したものの、その後はタイヤ交換を引っ張っていたハミルトンに数周にわたって抑え込まれ、リカルドとアロンソを追撃するチャンスを奪われます。ハミルトンとしてはロズベルグに 1pt でも多く与えたくなかったためにチームの指示を無視して僚友を抑え続けたのでしょうが、結果的にはここでハミルトンが譲っていたら、最後にはロズベルグに先行されていた可能性が高いので、ハミルトン個人にとっては正しい選択をしたと言えます。まあ、これでロズベルグやチームとの溝がさらに深くなったことも間違いないでしょうが。
2 位のアロンソは、最後フレッシュタイヤで勢いのあるオーバーテイクを仕掛けてきたリカルドには勝てなかったものの、ハミルトンがアロンソへの攻撃よりもロズベルグへの防御を優先したこともあり、今季最高位をゲット。アロンソは常にマシン性能以上のリザルトを持ち帰ってきますが、今回もその能力を遺憾なく発揮したと言えます。マシン性能に劣り、タイヤライフも尽きた状況でリカルドにしか抜かれなかった走りは現代 F1 随一のテクニック。ピット戦略も、フェラーリにしては珍しくギャンブルに出ましたが、それが功を奏した形になりました。現在の戦力では逆立ちしたって勝てないんだから、いつもの杓子定規な戦い方じゃなくて、こういう奇策こそ今のフェラーリには必要なんですよ。そして、アロンソにはその奇策を実行できるだけの能力があります。
ライコネンも、その杜撰なストラテジーのせいでまたしても Q1 落ちの憂き目に遭いましたが、久しぶりにライコネンらしい走りを披露して 6 位入賞。マシンのセットアップもようやくまとまり始め、ライコネン自身が今季のブレーキシステムにも馴染んできたのか、フェラーリチーム自体にようやく上昇傾向が見えてきました。
そして素晴らしかったのはやはりリカルドですよ。初優勝のカナダといい、このハンガリーといい、オーバーテイクが難しく SC が導入されやすいサーキット。言い換えれば「何かが起きたときにいいポジションにいないと勝てないサーキット」でもあります。こことモナコで勝てるドライバーは底力があり、かつ「持ってる」ドライバーだと思うわけで、そういう意味ではリカルドは間違いなく「持ってる」。終盤にハミルトンとアロンソを立て続けに料理したオーバーテイクは、じつに創造性に溢れていました。
今季ここまで、完全にチャンピオン・ヴェッテルを食ってしまっていますが、この流れを維持すればチームからもエースドライバーと見なしてもらえる可能性も高いのでは。今季のチャンピオンシップはもうほぼ目がない状況ですが、来季は十分にチャンピオンシップに絡める資質を持っています。そうなったときに、僚友ヴェッテルとの関係がどうなるか、というのも興味深いところ。
F1 はこれから 3 週間あまりの夏休みに入ります。とはいえこの間にもマシン開発は続くわけで、明けたベルギーでどう勢力図が書き換わっていることでしょうか。そして、この間にメルセデスは二人のドライバーの関係をどう修復するのか、あるいは何もしないのか。同門対決となったときにドライバーの人間関係が泥沼化するのはもう避けようもないことは歴史が証明していますが、一時のマクラーレンやレッドブルのような後味の悪い状況にだけはならないでほしいものです。
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