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シグマ山木社長が語る、新コンセプトレンズ群に込めた想い

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昨日に続いて、シグマの新コンセプトレンズのイベントレポートをお届けします。

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山木社長は「製品には明確なコンセプトを設定することが重要」と言います。実際、「今ある技術の組み合わせでこういうのができた」というよりは、「こう使ってほしい」「こういうモノがつくりたい」という作り手の意志がなければ、モノの良さは伝わらない時代。まあモノだけ良くてもちゃんと伝え方を練らないと伝わらないものですが、まずは商品企画、コンセプトが明確でないことには話になりません。
そこでそれぞれのレンズのコンセプトを明確にするために「Contemporary」「Art」「Sports」という 3 ラインに製品を分類したのが今回の新しいアプローチなわけですが、別に大口径望遠レンズで芸術写真が撮れないわけじゃないし、Art ラインの単焦点レンズを日常使いにするのが悪いわけじゃない。山木社長も「別にコンセプト外の用途に使えないという意味じゃない」とは何度も仰っていましたが、まあある程度カメラを知っている人であればスペックから自分の用途に合ったレンズは選べるでしょうし、この区分はどちらかというと開発・商品化途上でのコンセプトのブレを抑えることと、ラインアップを分かりやすくすることでエントリーユーザーへの間口を広げよう、という意図で作られているように思います。

■Contemporary | 17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSM

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まずは「Contemporary」シリーズの 17-70mm から。「現代的な」という意味を与えられたレンズの第 1 弾は、現在のシグマを代表する(性能的に、というよりは、ポピュラーな、という意味で)標準ズームレンズのリニューアルとなりました。17-70mm(28-105mm 相当)という広いズーム域に F2.8-4 という明るめのスペック、それに手ブレ補正と簡易マクロ機能までついた欲張りなレンズで、個人的にはカメラメーカー純正の APS-C 標準ズームよりもこっちを選んだ方が幸せになれるのではないかと思っています。実際、私も初めての 1 本はこれの初代モデルを買いましたし。

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「Contemporary」が意味するところは「光学性能」+「利便性」。絶対的な光学性能ではなく必要十分な性能と利便性を兼ね備えた製品バランスを追求していて、普段使いやスナップ、旅行など幅広く使ってほしいとのこと。機能的に欲張りなのも利便性の追求ゆえんでしょう。利便性としては「できるだけコンパクトで軽い」という意味合いも含まれていて、この新 17-70mm は旧モデル比で 30% の小型化を実現しています。このシリーズは年々機能が増えていくトレードオフで少しずつ大型化していましたが、ここで一回り以上コンパクトになった意味は大きい。私はもう APS-C 機をメインでは使っていないので買うことはないでしょうが、まだ 7D がメイン機だったら初代 17-70mm からそろそろ買い換えを考えただろうな、と思います。

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鏡筒のデザインもずいぶん垢抜けましたね。今回の新コンセプトレンズ群のデザインには社外のデザイナーを起用しているとのことでしたが、このデザインを手がけているのは日本を代表する工業デザイナーの一人、岩崎一郎氏だそうです。最近では au の携帯電話「G11」などが記憶に新しいところですが、シグマ製品への採用のきっかけはかつて山木社長ご本人がインテリアショップを訪れた際、韓国の MUTECH 製電話機のデザインに一目惚れし、お店でデザイナーの名前を聞いて直接電話でアプローチした、とのこと。MUTECH の電話機は 10 年くらい前ですかね?私もインテリアショップで一目惚れし、ほとんど買いそうなところまで行った記憶があります。そして調べてみたらこの岩崎一郎氏が元ソニーのデザイナーだったことを知り、そりゃあ私の琴線に触れるわ、と妙に納得したという(笑。
ともあれ、一見穏やかな山木社長のこんなに熱いエピソードが聞けるとは、意外でしたね(^^;;。

さておき、当初「社外のデザイナーを採用」と聞いたときにはちょっと不安にもなりましたが、単なるアーティスト志向のデザイナーではなく、ちゃんと経験のある工業デザイナーを採用した、というのを聞いてとても安心しました。工業デザイナーというのは単に「カタチがカッコイイから」ではなく、設計的な都合とか合理性とか製造面での必要性まで考慮して、設計者と一緒に落としどころを見つける能力が求められるものなので。だって “design” ってもともと「設計」って意味なんですよ。

あと、細かいところではレンズ前面の円周に刻まれているスペックの文字が従来は白い印字だったところが、今回から黒いエンボスに変更されています。これは簡易マクロ機能が強力(フードをつけると被写体がフードに触れてしまいそうなくらい寄れる)なレンズ故に、被写体に刻印が映り込まないための配慮だとか。それほど単価が高いわけではないレンズなのに、こだわってますね…。


■Art | 35mm F1.4 DG HSM

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そして今回の新レンズの大本命がこれ、「Art」シリーズに属する 35mm F1.4 DG HSM。シグマとして(私が知る限り)初めての 35mm F1.4 で、30mm F1.4 DC にはじまるシグマの単焦点 F1.4 レンズシリーズのトリをつとめるレンズでしょう。もうね、見た目からしてソソります。

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「Art」シリーズが標榜するのは「最高の光学性能」+「アーティスティックな表現」。MTF(だけじゃないですが)などのスペック的な光学性能を極限まで追求した上で、単なるスペックではない芸術的な表現に生かせるレンズの味も兼ね備える、ということを目指しています。用途としては風景、ポートレート、静物、接写など、主に芸術として撮られる写真のためのレンズ。だからこそデジタル設計でソツのない写りをするだけでなく、そのレンズでしか出せない表現というのも狙っているのでしょう。

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鏡筒デザインは、今回の新レンズ群で基本的には共通のイメージながら、Contemporary ラインとは微妙に異なる意匠が施されていたり、素材も部分的に変えてあったり(17-70mm はマウント部以外はプラスチック)、この鏡筒を見ているだけで欲しくなってしまいます。でも、今回のデザインコンセプトは「極力デザインしないデザイン」。確かに、余計なものをゴテゴテ付けて華美にしたわけではなく、ボディラインの繋ぎかたや素材の使い方、マットと半光沢のコンビネーション、そしてできるだけシンプルな線や円でまとめることで、長く使っても飽きの来ないデザインに仕上がっていると思います。そしてこれを見ると、今まで良いとも悪いとも思わなかった従来のシグマレンズのデザインが、急に野暮ったく見えてくるという(^^;;。デザインは好き好きなので賛否両論はあるでしょうが、私はこのデザイン、好きです。

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F1.4 の大きな前玉の、このえも言われないような曲面と紫色がかったコーティング。これだけでご飯三杯はイケル(ぉ

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レンズマウント付近の底面には「012」の刻印が。これは実物を見るまで全く知らなかった部分ですが、レンズの発売年を表しているのだとか。どのレンズもカメラの性能やレンズの製造技術の進歩に合わせて数年おきにリニューアルするものですが、その際に「何年に発売されたレンズか」で区別ができるように、とのこと。レンズの性能は基本的に新しい設計のものほどいいものですが、描写の味という点であえて古いレンズを使う、というオールドレンズ的な楽しみ方がいずれできるように、という想いが込められています。

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レンズフードも、スペックが刻まれている部分だけゴムが使われていたり、こういうところにまで凝っています。

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フードを付けるとただでさえ大きなレンズがさらに存在感を増してきます(汗。これ振り回すのはなかなか大変だわ…。

まあ大口径レンズというのは画質が良くてナンボ、外観や大きさ重さなんて二の次ですよ!というのが本音。じゃあ肝心の画質のほうはどうなのかというと、今回は軸上色収差の低減にこだわったそう。近年はカメラ内収差補正技術が進歩したこともあり、倍率色収差(画面の周辺部での色ズレ)はソフトウェア的に補正する技術が確立されていますが、軸上色収差(絞りを開いたときに、コントラストの高い部分で発生する色ズレ)は光学的に解決するしかないそう。それを極限まで抑えたのが今回の 35mm F1.4 だとか。

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比較対象としてまず見せられたのは、他社(どこのメーカーかは不明)の 35mm F1.4 レンズで撮影された解像力チャート。確かに絞り開放では軸上色収差が発生し、白のエッジにマゼンタやグリーンが乗ってしまっているのが見えます。F2.8 まで絞ればほぼ解消されるとはいえ、これでは F1.4 を使う場合には、保険としてちょっと絞って 1、2 枚…という撮り方になるでしょう。
これは他社比較だけでなく、同社の現行 F1.4 レンズ(50mm や 85mm)でも発生しており、特に他社のレンズの性能が悪いというわけではありません。逆に言えば、MTF 曲線などの性能で比較しても、キヤノンやニコンの 35mm F1.4 と極端な差はなく、差異化するために軸上色収差の補正にこだわった、とのこと。

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で、これがその 35mm F1.4 DG HSM で撮影された同じチャート。先ほどの画像と比べると、F1.4 でも大幅に収差が抑えられているのが分かります。これなら積極的に絞り開放から使っていけそうですね。

とはいっても、我々は別にチャートを撮影するのが趣味じゃないので、実際の被写体を撮るとどうなるのか、が重要です。そのあたりについては、また追って(という引き延ばし

■Sports | 120-300mm F2.8 DG OS HSM

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「Sports」シリーズを代表するのは 120-300mm F2.8。スポーツ撮りレンズの代名詞と言えば「サンニッパ」、つまり 300mm F2.8 ですが、このレンズはそれを 120mm スタートのズームレンズにして撮影領域を広げようという超意欲的なレンズです。しかもズーム全域で F2.8、それでいて他社のサンニッパの半額近い価格なので、驚くしかありません(それでも一般人に買える価格ではありませんが)。

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このシリーズのポイントは「光学性能」+「高い運動性能」。近年発売されている同社の望遠ズームレンズ群は光学性能が高いものが多いですが、それに加えて高い運動性能(光学手ブレ補正やフォーカスリミッター機能など)でスポーツ撮影の厳しい要求に応えることを目指しています。さらに、このシリーズのレンズには基本的に防塵防滴機能と後述するカスタムファンクションを持たせるとか。スポーツや飛行機、野鳥などが被写体となる望遠ズームレンズの用途では、天候に左右される屋外での使用が多いため、防塵防滴機能を求める向きが多いです。今年のオリンピックではプロカメラマン内のカメラシェアでキャノンとニコンのどちらが勝っているかが話題になりましたが、このプロ仕様のレンズで、プロのスポーツ撮影にシグマレンズがどの程度食い込めるでしょうか。このあたりは、単なるレンズスペックだけでなく、カメラ側の AF 機構とのマッチングも重要になるだけに、そう簡単ではないと思いますが、期待はしたいです。

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サンニッパでさらにズームなんだから前玉だってモンスター級にデカいですよ。105mm 径のフィルタなんて滅多に売ってるものじゃないし、MC プロテクタ 1 枚買うだけでも 1 万円コースですよ(;´Д`)ヾ。

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なお、カスタムファンクションですが、このレンズではフォーカスリミッターのカスタム設定機能が用意されるとのこと。今回の展示品は試作機だったのでスイッチがありませんでしたが、フォーカスリミッタースイッチに「CUSTOM 1」「CUSTOM 2」の 2 つの設定が用意され、ユーザーが PC 経由で設定した 2 種類のフォーカスレンジを覚えさせることができるとか。まあメーカー側が用意しているフォーカスリミッター機能なんて、あくまで「一般的によく使うであろうフォーカスレンジ」として設定されているだけなので、被写体や撮影場所によって変わって当然。それを 2 種類覚えさせておけば、デフォルト値と合わせてあらかじめ 3 パターン準備しておけるので、これなら多くのシチュエーションでより的確な撮影ができるでしょう。

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まあ、これだけ長くて重い(レンズだけで約 3kg!)ので、いくら長玉を振り回し慣れている私でも、これはちょっと腰が引けてしまいますが(´д`)、より撮影領域の広がったサンニッパ、と考えれば、とても魅力的ではあるんですよね。

ちなみにこのレンズの現行品はまだ 1 年半前に発売されたばかりなので、今回のリニューアルにあたって光学仕様は変更されていないそうです。作り直しても現時点ではこれ以上の性能になる見込みが薄いため、今回は防塵防滴やカスタムファンクションの付与にとどめた、とのこと。でも同様の考え方で他の望遠レンズ群もリニューアルされてくるとしたら、これはまた魅力的なものになりそうです。

■USB Dock

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今回の新レンズ群のカスタムファンクション機能などを使うために必要なのがこの USB Dock です。これを介してレンズを PC に USB 接続することでいくつかの操作が行えるとのことですが、ほぼレンズに直接 USB ケーブルが刺さっているように見える外観は、ちょっと異常(笑。

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この USB Dock を介してできることは、(レンズによって異なる可能性はありますが)AF の微調整、上述のフォーカスリミッターの設定、AF の動作モードを合焦速度優先/スタンダード/精度優先の切り替え、それからレンズファームウェアのアップデート、が現時点では想定されています。AF 微調整に関しては、中級機以上であればカメラ側に機能が用意されていることも多いですが、カメラ側の設定では「レンズの全焦点域に対して AF 位置を前後にずらす」ことしかできないのに対して、このツールを使えば焦点域ごとに細かく AF 位置の調整ができること。まあそこまで自分でいじれる人は稀でしょうから、通常であればメーカーのサービスセンターが使っているツールをユーザーに開放するようなものでしょうか。
この USB Dock に対応する調整ツールは「SIGMA Optimization Pro」という名称のソフトウェアとして、年明けには無償ダウンロード提供されるとのことです。まあ USB Dock がないと使えないとは思いますが…って、そういえばレンズは各社マウント用が発売されていますが、USB Dock もマウント別に発売されるということですかね?質問してくるのを忘れていました…。

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さておき。これらの新レンズ群のうち、真っ先に発売日が決定した(SA マウント用が 11/23、EF マウント用が 11/30)「Art」シリーズの 35mm F1.4 DG HSM を、このイベントの中で試用することができました。おそらく国内において一般ユーザーがこのレンズを試写するのは初めてになるんじゃないかと思いますが…写りのほどは、待て次回(ぉ。

■関連エントリー
シグマ山木社長が語る、同社のものづくりのフィロソフィー

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コメント

  1. b's mono-log より:

    SIGMA 35mm F1.4 DG HSM:これはちょっとすごいレンズかもしれない

    17184-2969-291403 [ Canon EOS 5D Mark III / SIGMA 35mm F1.4 DG HSM ] F2、1/80 …

  2. b's mono-log より:

    You can (not) advance.

    13920-2969-291454 [ Sony α99 / SIGMA APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM ] 70mm、F2…

  3. b's mono-log より:

    SIGMA 35mm F1.4 DG HSM:買わずにはいられなかったレンズ

    買いました。 シグマ / 35mm F1.4 DG HSM (キヤノン用) 昨日発売されたシグマ 35mm F1.4 DG HSM のキヤノンマウント用。…

  4. b's mono-log より:

    SIGMA 35mm F1.4 DG HSM で撮るポートレート

    17184-2969-291571 [ Canon EOS 5D Mark III / SIGMA 35mm F1.4 DG HSM ] F2、1/50 …

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