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神々の山嶺

先日亡くなった谷口ジロー先生の追悼の意味も込めて、代表作を一つ読んでみました。

夢枕獏、谷口ジロー / 神々の山嶺

名作と呼ばれるいくつもの作品の中から、表紙に凄みを感じた『神々の山嶺(いただき)』を選びました。そういえばこれ、去年映画化されたときにちょっと気になっていたのですが、結局そのままスルーしてしまったんですよね。映画評なんかを読む限りではキャストは良いけど…という感じらしいので、観なくて正解だったかもしれません。
本作は夢枕獏氏の同名の小説を漫画化した作品で、夢枕獏氏自身からの指名で谷口ジロー先生の作画になった、と後書きに書かれていました。フィクションではありますが、実在する登山家をモチーフにした非常にリアリティと重さのある作品です。

何故山に登るのかとの問いに「そこに山があるから」と答えたという登山家ジョージ・マロリー。エベレスト山頂付近で遭難し、人類史上初のエベレスト登頂を果たしたかどうかは今でも謎に包まれています。そのときに携えていたと言われるカメラをネパールの首都カトマンドゥで偶然手に入れた日本人写真家・深町誠がその真相を追ううちに、行方不明となっていた伝説の日本人登山家・羽生丈二と出会い、彼の登山人生に引き込まれていくというストーリー。

羽生はその人生を賭けてエベレストを、それも単に登頂するわけではなく「誰も成し遂げたことのないルートと方法で」登ろうとします。作品の大半はエベレストのみならず日本や世界の険山(それも冬季)の描写に割かれます。暖房の効いた室内で読んでいても、まるで自分が冬山にいるかのような寒さや厳しさを感じてしまうほど描き込まれたコマが延々と続き、読むのにさえエネルギーを消費する感覚があります。これと比べると『孤独のグルメ』はあえて背景を白抜きにしているコマも多く、緊張感の出し方が全く異なることがよく分かります。


命を賭けるレベルの登山なので、遭難や事故による怪我や死とは常に隣り合わせ。凄惨な事故を生々しく描いたシーンも多く、読むと体力を削られる感覚。それでも物語はこちらをグイグイ引き込んでくる強さがあり、私は電子版の全巻セットを購入し、結局最後までほぼ休まずに読み切ってしまいました。そして読了後にはどっと疲れているという。

エベレストをはじめとした冬山の描写には目を見張るものがあります。『孤独のグルメ』の描き込みも半端なかったですが、その比ではない緻密さ。冬山を経験したことのない私は原作小説を読んでも情景が想像できなかったかもしれませんが、この「画の力」はやはり偉大だと思います。自然の偉大さと恐ろしさが同時に伝わってくる描写で、あまりにもちっぽけな自分を感じて涙が出そうになったほど。

ちなみに作中では、登場人物が何かに関して熱弁を振るうシーンがいくつかあり、この構図と同じようなコマがたびたび登場するわけですが、これを見るたびに

『孤独のグルメ』のゴローの仕事仲間・滝山を思い出して吹く(笑。谷口ジロー先生的には定番の構図なんだろうなあ。

それにしても凄みのある作品でした。画力にここまで震えたのは井上雄彦先生の『バガボンド』と安彦良和先生の『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』以来かもしれません。
改めて、惜しい人を亡くしたものです。

『孤独のグルメ』とはまた違った谷口ジロー先生の世界。他にも何か読んでみようと思っています。

夢枕獏、谷口ジロー / 神々の山嶺

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