東京文化会館(上野)で上演された「ドラゴンクエスト ウインドオーケストラコンサート」を聴きに行ってきました。
三年前になくなったすぎやまこういち先生(作曲)に加え、今年は鳥山明先生(キャラクターデザイン)と個人的にはドラクエを語る上で欠くことのできないいのまたむつみ先生(ノベライズの挿絵)が相次いで鬼籍に入り、ドラゴンクエストシリーズとしては大きな節目を迎えた年となりました。そんなタイミングで HD-2D 版としてフルリメイクされたドラゴンクエスト III が発売されるのも何かの巡り合わせではないでしょうか。その発売日の直後に、ロトシリーズを網羅する形で開催されるコンサートならば聴きに行くしかありません。7 月に聴いたファミリークラシックコンサートに続いてドラクエの生演奏を堪能してきました。
演奏は東京佼成ウインドオーケストラ。定期的にドラクエの演奏会を開催し続けているプロの吹奏楽オーケストラです。弦楽器が編成されていないため交響組曲ドラゴンクエストシリーズから吹奏楽向きの楽曲や吹奏楽アレンジされた楽曲を中心に演奏している模様。I~III、IV~VI、VII~IX といった三作単位での演奏会を基本としています。今回の演奏会はこういうタイミングだから当然ドラクエ I・II・III からの選曲になるわけです。
ドラゴンクエスト I | |
1 | 序曲 |
この曲から始まらないドラクエコンサートはあり得ません。実はドラクエの序曲はタイトルごとでアレンジがけっこう違っていて、初代の序曲は小編成のシンプルな構成。だからこそ原点回帰感があります。金管主体の楽曲だから吹奏楽に合わないわけがない。 | |
2 | ラダトーム城 |
優美でどこかもの悲しげなバイオリンのメロディが印象的な楽曲ですが、吹奏楽用にアレンジされると「これはこれで最初からこうだった」かのようなしっくり感に感心してしまいました。他の楽曲も含め、原曲でストリングスが担っていたパートは吹奏楽では主にクラリネットが肩代わりすることが多いようです。 | |
3 | フィナーレ |
I のエンディング曲。シンプルながら温かみがあり、大団円を感じさせる名曲だと思います。指揮の井田勝大氏が「ドラクエシリーズで唯一主人公の台詞があるのがこの I のエンディング」と仰っていましたが、確かにそれを思い出しながら聴くとまた違った味わいがある。物語の結末の曲でありながら、同時にまた新たな旅立ちの曲でもあるわけです。 | |
ドラゴンクエスト II | |
4 | 遙かなる旅路~広野を行く~果てしなき世界 |
『遙かなる旅路』は最初の二音が I のフィールド曲を彷彿とさせます。勇壮さと一人旅の寂しさから始まって途中からサマルトリア王子合流後を思わせる厚みが生まれてくる。『広野を行く』は I のフィールド曲の再登場、II で始めてアレフガルドに降り立ったときにこの楽曲が流れてきた瞬間は感涙でした。 そして『果てしなき世界』はムーンブルク王女合流後のフィールド曲。ムーンペタの街を出た瞬間にそれまでとはガラッと雰囲気の違う BGM に切り替わり、三人旅になる心強さや楽しさが音楽から伝わってきたときにはグッときたものだったなあ。 | |
5 | 恐怖の地下洞~魔の塔 |
ダンジョンの楽曲は I・II あたりが最もおどろおどろしさが出ていて怖かった記憶があります。特に II はロンダルキアの記憶と結びついているからなおさら恐怖を感じる。『魔の塔』は音階が飛び飛びになったメロディーとドラムのチキチキ音が無機質で、洞窟とはまた違った怖さがある。 | |
6 | 聖なるほこら |
ドラクエの祠の楽曲ってどれも悲しげなんだけどメロディーが美しくて、聴けば聴くほど好きになる曲ばかりです。この II の祠曲もその例に漏れませんが、特に印象深いのはゲーム開始後すぐにローレシア城の旅のとびらから飛んだ先の「南西のほこら」。「世界の広さ」「旅のとびらが一瞬にして別の場所に連れて行ってくれること」「II には海を渡る手段があるだろうこと」を一瞬にして理解させてくれるギミックとこの楽曲が強烈に結びついています。この曲も本来はストリングス主体でしたが、吹奏楽でもあの雰囲気が出せることに素直に驚きました。 | |
7 | この道わが旅 |
II のエンディング曲。これもまたジーンと来る名曲です。ちなみに知っている人は少ないでしょうが『この道わが旅』と復活の呪文入力画面の BGM『Love Song 探して』には実は歌詞がついていてそれぞれレコードも発売されました。『この道わが旅』はそのタイトルの通り、フランク・シナトラの『My Way』をかなり意識していることが一聴して分かります。 | |
– Intermission – | |
ドラゴンクエスト III | |
8 | 世界をまわる(街~ジパング~ピラミッド~村) |
休憩後は III の楽曲から。『街』『村』は聴きに来る直前までプレイしてまさに聴いていただけに、生演奏で聴けることに感動。HD-2D 版では交響組曲同様のイントロから聴けるのがまた雰囲気あって良いんですよね。 『ジパング』『ピラミッド』は吹奏楽の楽器(特に木管楽器)を雅楽やエジプト~ペルシアあたりの楽器に見立てた編曲と演奏が、本当にそう聞こえるから不思議です。弦ありよりも吹奏楽で聴く方がその面白さがより伝わってくるように思います。 | |
9 | 冒険の旅 |
I・II よりも III のフィールド曲の方が金管楽器主体なぶん吹奏楽に合っていますね。勇壮な楽曲は I・II とはまた違った気分で冒険に駆り立ててくれます。聴くだけで胸を張って顎を引いて前に進みたくなる楽曲。 | |
10 | 海を越えて |
ホルンの少しのどかで広々とした響きが引っ張っていく海の曲。海上でもモンスターは出るけど、陸の緊張感とは違う船旅の楽しさがよく表れています。原曲はホルンからストリングスに引き継がれていきますが、吹奏楽アレンジもこれはこれでアリ。ゆったりと波に揺られる感覚は保たれています。 | |
11 | おおぞらをとぶ |
III といえばこの曲。ドラクエシリーズ全体を通してもベストかもしれません。フルートとオーボエをいかに美しく聴かせられるかがキモの曲ですが、今日のは良かったなあ。あとそれを支えるハープのアルペジオも欠かせないわけですが、ハープ奏者の方がインターミッション中もステージ上でこのメロディーで音出しをしていてくれたのは我々にとってはご褒美でした。 | |
12 | 戦闘のテーマ~アレフガルドにて~勇者の挑戦 |
ここ三日間一番耳にしている『戦闘のテーマ』。ホーンセクションの格好良さはやっぱり録音よりも生演奏に限ります。ただ、この楽曲で緊張感を担当しているはずのバイオリンを別の楽器に置き換えるとちょっと雰囲気が損なわれてしまうのが吹奏楽版の惜しいところ。 『アレフガルドにて』は I・II の『広野を行く』のアレンジですが、バックで流れているハープが流麗なアルペジオに変わっているのが「伝説を作った勇者の旅」感があって良い。 ラスボス曲『勇者の挑戦』はもう言葉もありません。指揮も演奏も「この難曲を演りきってやろう」という気迫がステージからビンビン伝わってきて没入させられました。 | |
13 | そして伝説へ |
この曲が流れ始めたら目から水が流れてくるのはもはや条件反射ですね。HD-2D 版の III をクリアしてこの楽曲を聴いたら、それほど間を置かずしてその伝説の続きである I・II の HD-2D 版がプレイできることが今からもう楽しみでなりません。 | |
– Encore – | |
14 | ドラゴンクエストによるコンサート・セレクション(序曲~遥かなる旅路~広野を行く~果てしなき世界~アレフガルドにて~勇者の挑戦~そして伝説へ) |
アンコールは I~III のダイジェスト的なメドレー曲でした。このメドレーは管弦楽版は存在せず、吹奏楽でしか聴くことができないとのこと。今日のコンサートをもう一度振り返るかのようなメドレーで満足度が倍増しました。 |
吹奏楽によるドラクエコンサート、フルオーケストラとはまた違った良さがありますね。特に私の場合は次女が最近吹奏楽を始めたところで吹奏楽への関心が高まっているところだったから尚更楽しめました。
指揮の井田勝大氏は私と近い世代の方のようですが、ご自身がドラクエシリーズの大ファンのようで演奏の合間の MC が濃い(笑)。ドラクエそのものの話だけでなく楽曲や吹奏楽アレンジの聴き所の解説もあり、演奏と同じくらい MC が楽しかったです。団員にもドラクエファンの方が多いようで、「プロ吹奏楽団のドラクエコンサートを聴きに来た」というよりも「ここはドラクエファンの集いで、かたや演奏する人、かたやそれを聴く人」という雰囲気の演奏会だったように思います。都響のドラクエコンサートとはまた違う良さがありました。
本当に楽しい演奏会でした。『III』の発売に合わせてこの週末はドラクエ関連のコンサートが多数開催されているようで、この東京佼成ウインドオーケストラも明日は長野(上田)で同じ演目を演奏するようです。また来年 3 月にはすみだトリフォニーホールでの演奏も予定しているとのこと。HD-2D 版をプレイした方はコンサートも一緒にいかがでしょうか。私も、今後のドラクエ関連のコンサートは時々聴きに行くことにしようと思っています。
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