「よーし、決まった。京都大文字炭火焼き大会、いこうじゃないか」
世の中は史上最長のゴールデンウィーク…ということで、この期間を利用して私は昨年の『孤独のグルメ 大晦日スペシャル』の聖地探訪のため京都へとやって来ました。
最近関西方面への出張がめっきり減ってしまって、京都も思い起こせば懐かしいな。三年前に来て以来か。あのときは桜が満開だった。
聖地巡礼としても同じ大晦日スペシャルの聖地である柴又のうな重以来だから、けっこう間が空いたことになります。でも遠征系の聖地巡礼は過去いずれも料理・道中ともに楽しかった思い出しかなく、今回も期待を胸に新幹線に乗ってきました。
今回の目的地たる京都の聖地は、劇中では何もない住宅街にぽつんとある店…という体でしたが、実際には銀閣寺の参道や「哲学の道」のすぐ傍にあり、立地的には悪くないんじゃないの?という場所。そこにきてこの雰囲気のある店構えに縄のれん、これは見るからにうまそうだとドラマを観た瞬間に確信していました。
開店時間に合わせて予約を取っていたところ、他にも開店待ちのお客さんあり。この日は予約だけで満席、しかも一日一巡しかお客を取っていないようで、基本的に予約必須と考えたほうが良いでしょう。
中央の焼き台を囲むコの字型のカウンター。座席は十席のみ。そしてこの何とも言えない落ち着いた、それでいてカウンターの内外の距離が近い雰囲気。俺の直感が、この店は「当たり」だと言っている。
マスターは先代からこの店を受け継いで以来、女将さんと二人でこぢんまりと営業しているそうです。
ま、何はなくともビールから。
生ビールはサッポロと琥珀エビスから選べるのがうれしい。琥珀エビスの深みのある味わいが、この店に雰囲気に似つかわしい。
そこに出てくる、お通し三種。
左から、冷奴を山椒で味付けたもの、蕪と水菜とツナ(?)を少し酸っぱめに煮たもの、それに油揚げと大根の煮物。
一つ一つが丁寧に作られていて、どれもが一品料理としてちゃんとうまい。特にこの大根…それほど煮染めたようにも見えないのに、じわあっと味がしみていて心にしみる美味しさ。これだけ大皿でおかわりしたくなる。
東京では出合わない、この小さな一手間。まさに京のおばんざいって感じ。
じゃあ、お品書きをじっくりと選ぼうじゃないの。
土鍋ご飯、素材は日替わりだろうけどお目当てだった甘鯛(ぐじ)がちゃんとあった!遠征してきてこういう巡り合わせものにちゃんと遭遇できると、日々を誠実に生きてきて良かったと思える。
さておき、まずはマスターのお勧めだった初鰹の刺身から。
切る前から見るからにうまそうだった鰹を目の前の炭火で表面を軽く炙ってからお造りにしてくれます。
炭火の香りが、鰹本来のうまみを何杯にも高めてくれるかのようなうまさ。これは素晴らしい、「舌鼓を打つ」とはこういう状態のことを言うのだろう。
続いておつまみ的にそら豆の炭火焼き。
ホクホクした食感と甘みがいい。
初鰹とそら豆、初夏の旬を京都のこの店で堪能できる幸福。満ち足りていることを実感します。
そこにちょっと変わり種、とまとの炭火焼き。
火傷しそうなほどのアツアツとまとを頬張ると、洋食とは全く種類の異なるとまとの味わい。
とまとにはこんな表情もあったのか。酸味のある香ばしさ、面白いな。
箸が止まらん、胃袋がもっと寄越せと叫んでいる。
というわけで、れんこんの炭火焼き。
これは期待通り、あっさりとしつつホクホク感もある絶妙なうまさがビールを引きつけます。
繊細さと大胆さの融合。家で焼いてもこの味には絶対にならないだろう。
さらにアスパラ。
どれもこれもシンプルな炭火焼きなのに、焼き加減がそれぞれ絶妙に素材のうまさを引き出している。
炭火焼き、奥が深い。あの、焼き台のマジックか?いや、大将の炭火遣いだろう。
焼き台の上に整然と並べられた食材が、それぞれに然るべきタイミングで場所を移されたり、火から上げられたり、蓋をして蒸し焼きにされたり。
カウンターの中央に陣取るこの焼き台は、まさに大将というマジシャンのテクニックを見せるステージのようだ。
見ているだけで楽しめる。眺めているだけで、酒が進む。
そしてついに焼き上がってきた、もち豚ロースの炭火焼き。
おおお…豚、分厚い。
ネギをまとった豚ロース。もち豚そのものの肉の甘みとうまみを炭火とネギ、それにタレが三位一体となって引き立てている。
このネギとタレ、最高。鋭いパンチがボディに食い込んでくる。
これは文句なしにうまい。
新玉ねぎの炭火焼き。
普段なら脇役や引き立て役に徹するような玉ねぎも、ここの炭火にかかるとそれだけで甘さを引き出されて、一気に主役級に躍り出る。
この玉ねぎもめちゃくちゃうまい。
京料理、おそるべし。
こんなん出されたら日本酒しかあり得ません。
メニューに立山の文字を見つけたらば、富山人としては頼まざるを得ない。そしたら竹筒に入って出てきました。
まさかこの京都でふるさとの味に、しかもこんな乙な飲み方で巡り合えるとは。
そうすると富山繋がりで白えびのかきあげが食べたくなるというもの。
でも一般的に富山界隈で食べられる白えびのかきあげって殻ごと揚げるから、おいしいんだけど殻が口の中に刺さって痛いのと表裏一体なんですよね。
それに対してこの店のかきあげは殻や髭を取ってから揚げてあるようで、ふっかふか。こんな幸福な白えびのかきあげ、富山でもそうそう食べられんぞ。
このかきあげに合わせるのは万願寺とうがらしの炭火焼き。
みずみずしさを保ったまま焼かれた万願寺の甘みがじゅわっ、と噴き出してきて、これもうまい。
そこからいきなり洋食方面に転換して、デミグラスソースのハンバーグ。これも炭火焼き。
炭火焼きなのにほわほわ食感のハンバーグに、ちゃんと炭火の香ばしさ。そこに絶妙なうまさのデミグラスソース。なんじゃこりゃ、そのへんのハンバーグ専門店が裸足で逃げ出しそうなほどうまい。近所でランチをやってたら毎日でも通うレベル。
くうう、たまらん。
いかんいかん、あまりのうまさに我を失ってしまった。
ここは竹の子の木の芽焼きをいただいて自分を取り戻そう。
そうそう、これですよ。
炭火でじっくりほっこり、たまらないな。
日本酒を続けているとどんどん我を失っていきそうだったので、ここらで焼酎にスイッチ。麦焼酎「つくし」の黒をロックで。
京都の夜を堪能してる俺。うまい料理と向き合える時間は、何事にも代えがたき幸せ。
食べ終わるのが名残惜しい。
さあ、ラストスパートで土鍋ご飯、いこうじゃないか。
まずは鶏ごぼうの土鍋ご飯。期待に違わず、鶏肉とごぼうのうまみがご飯にじっくりと染みわたっている。
ああ、優しい。うまさが心にしみてくる。
そして最後においでなすった、御大登場。
甘鯛(ぐじ)の土鍋ご飯。
蓋付きで出てくるこのもったいつけた感がなんともニクい。
いかなるや、ぐじごはん。
おおおおお、美しい。
雅な風情漂う、この紅色。
土鍋から立ち上ってくる香りの時点でもう既にうまい。
おお、おおおおお、これはまた。うまいなあ…。
土鍋炊きの銀シャリと炊かれると、もはや無敵のうまさ。
ぐじの優しいうまみがご飯に移って、しみじみとうまい。日本人で良かったという感情が自然と湧いてくる。
最初から最後まで、例外なくどれもうまかった。
これだけうまい料理と落ち着いた雰囲気、そりゃあ話と酒が弾むわけだ。
京都の味の長い歴史が、ここには温かく引き継がれている。
感謝の気持ちしかない。
ああ、いい晩飯だった。
次に京都に来る機会がいつかは分からないけれど、そのときはまたこの店に来たい。
本当にごちそうさまでした。
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