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国立科学博物館 特別展「植物 地球を支える仲間たち」

上野の国立科学博物館で開催されている特別展「植物 地球を支える仲間たち」を見に行ってきました。

特別展「植物 地球を支える仲間たち」

科学的興味を深めるという意味では非常に夏休みらしい展示会。キービジュアルにもラフレシアや食虫植物といった少しグロいけどインパクトのある植物をもってきていて、気になります。チケットは入場日時指定方式の完全予約制。こういうご時世だから敬遠する人が多いのか、休日にも関わらず余裕でチケットが取れる状況だったので行ってきました。

展示物の概要。インパクト強めなポスターと比べると、かなりマジメに植物について解説した展示会であることが分かります。客層は小学生の家族連れが中心のようですが、ここまでしっかりした展示会であれば大人でも楽しめそう。まあ他でもない科博の特別展ですからね。

有料の音声ガイドは俳優の滝藤賢一さんと声優の鬼頭明里さん(『鬼滅の刃』の禰豆子役)が担当。滝藤賢一さんは NHK「趣味の園芸」にコーナーを持つほどの植物好きで、このキャスティングには納得です。
借りてみたところとても面白く・解りやすく説明してくれていて、これがあるだけで面白さが倍になる感じ。これは利用しないと損です。

展示内容について撮影可能だったものからごく一部をかいつまんで紹介します。

まずは植物の生存戦略について。植物の中には他の生き物に姿や匂いを擬態するものも少なくなく、昆虫をおびき寄せて生殖や種子の拡散に利用するそうです。私はこういうのってごく稀に発生する突然変異が自然の選択(淘汰)で生き残った結果なのだろうと思っていましたが、こうやって多数の実例を見せられると植物にも感覚器官や意思のようなものがあって戦略的に生き残ってきたのかもしれないなあ…と思えてきます。展示会に入ってすぐの「つかみ」としては強力に引き込んでくる話。

続いて世界最大と最小の植物たちの紹介。写真はこの展示会の目玉のひとつでもあるラフレシアですが、残念ながら実物ではなく模型です。そもそもラフレシア自体が数日間しか咲かない花ですし、植物園ではなく博物館内で二ヶ月あまりの期間展示されるわけですから実物展示はさほど多くありません。でもこのラフレシアは実物と見まごうばかりのリアルな模型ですね。

個人的にはゲームとかの影響でラフレシアってもっと巨大なイメージがありましたが、実際には最大でも直径 100cm 程度だそうですね。しかし自身では光合成を行わず、他の植物に寄生して花だけ咲かせるというのは今回初めて知りました。見た目のとおり生き方もエグい。

植物の生長について。この模型は植物の種類ごとの種子からの発生~生長の仕組みの違いを示したものですが、この隣には人間の発生から胎児に至るまでの模型が対比的に展示されていたのが興味深い。植物は種子から上下(茎と根)方向に積層するように細胞分裂して生長していくのが動物との違い、というのが目から鱗でした。動物と違って細胞の入れ替わりがあるわけではないんですよね。

こちらは巨大なモミジの根の実物展示。主根から複雑に枝分かれした根が、時には複数の根が融合することも含めて幹を支えるために生長していく。植物の、特に樹木の地中での様子を見る機会なんて滅多にないので、この入り組んだ根の実物の存在感は圧倒的でした。

そういうのもふまえて、ここからは植物の進化の話。いきなり DNA の二重らせんの模型まで出てきて驚きました。この展示会、植物について本当にあらゆる切り口で広く深く掘り下げていて、面白い。
この DNA の構造自体はそれほど目新しい話ではありませんが、

では、実際のアサガオでそれぞれの役割を持つ遺伝子に変異を起こしたらどうなるか?の実験サンプルがこちら。変異を起こす遺伝子次第で花がつかずにガクとメシベだけになったり、逆にオシベもメシベもない八重の花が咲いたり、花であるはずの部分が全て葉になったり。この展示はかなり強烈。

その流れで遺伝子組み換えによる青いバラや青いキクの展示もありました。キクに至っては他の青い花の遺伝子を導入して…というのがすごい。品種改良って選別と交配による根気のいる作業だと思っていましたが、今や遺伝子組み換えでこういうこともできるんですね。さっきのアサガオの展示も含め、何か禁忌に触れている感があって空恐ろしくなります。

一方、こちらはもっと伝統的な品種改良の話。我々が普段食べている米のもとになっているイネは、本来は種子が落ちやすい植物だったとのこと。種の繁殖のためにはそちらのほうが合理的ですよね。それを人間が品種改良して、種が落ちない(=収穫しやすい)性質に変化させていったのだとか。このイネの野生種は穂についているヒゲが長くて、イネというよりもムギっぽい。これを見ても稲作とコメの品種改良にまつわる長い歴史を感じます。

もともとはシンプルな単細胞生物だったバクテリアが進化し、細胞内に葉緑体やミトコンドリアといった別のバクテリアを取り込んで共生するようになり…億万年の時間をかけて現在の地球上の多様な生物に分化・進化していきました。その膨大な時間は個体に与えられた寿命で体感できるものではありませんが、ここに並んでいるたくさんの展示物を介してその一部だけでも理解できたような気がします。植物を題した展示会でありながら、地球と生物というもっと大きなテーマに触れる展示会だと言って良いのかもしれません。

展示はこれで終わりではありません。むしろここからが本番、という勢いで食虫植物コーナーへと続いていきます。
植物といっても全てが光合成で生長するわけではなく、ここまでも他の植物に寄生する植物の展示はありましたが、ここは他の動物を捕食する植物だけを集めたコーナー。こちらはハエトリソウの巨大模型ですが、もう見た目からして禍々しい。私は世代的にパックンフラワーを連想してしまいます。

ウツボカズラやハエトリソウといった主要な食虫植物の実物がまとめて展示してありました。ここに本展示会の最大の人だかりができていたと言って良いでしょう。まあ食虫植物なんて普段の生活で実物を目にする機会なんてありませんからね…。
私は食虫植物って見た目がグロいのであまり好きではなかったのですが、こればかりは思わず見入ってしまいました。

続いて外来種の話。日本国内でもセイヨウタンポポやキバナコスモス、ナガミヒナゲシといった生態系に影響を与える外来植物は多数知られていますが、逆に日本からは葛(クズ)が海外に出て行っているというのは初めて知りました。葛と言えば葛餅や葛切りを食べることもあるし、風邪の引き始めには葛根湯として服用することもある馴染みの深い植物。それが外来種として他国の生態系に悪影響を及ぼしているとは。

生態系の話から SDGs のテーマを経て、植物工場の設備サンプルも展示されていました。こちらはレタスのプラントですが、白色 LED ではなく青赤の LED だけでも普通に育つというのは驚き。でもよく考えると植物が緑色に見えるのは葉緑素が緑色の光を吸収しない(反射している)からであって、RGB のうち吸収される青赤だけを使うというのは確かに合理的。最後まで何でも勉強になります。

めちゃくちゃ面白い展示会でした。音声ガイドを聴きながら各展示をじっくり見回ったら軽く 2~3 時間はかかるボリューム。大人でも面白いと思ったら、↑のメッセージにあるとおり各分野の専門家がそれぞれの推しの推しポイントをストレートに表現しているというから、面白くないわけがない。

夏休みはもう終わってしまいますが、この展示会の会期は 9 月 20 日まで続きます。興味のある方はお早めにどうぞ。

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