スポンサーリンク

描くひと 谷口ジロー展

世田谷文学館で開催されている「描くひと 谷口ジロー展」を見に行ってきました。

世田谷文学館|描くひと 谷口ジロー展

描くひと 谷口ジロー展

漫画『孤独のグルメ』の作画を担当したことで有名な谷口ジロー先生。残念ながら四年前に他界されてしまいましたが、その評価はむしろ没後になって高まっていると言えます。今回は小学館および双葉社から「谷口ジローコレクション』が発売されることを記念して、集大成的なものとして企画された展示会です。

描くひと 谷口ジロー展

私は谷口ジロー先生の展示会は 9 年前に明治大学で開催された原画展以来。前回は『孤独のグルメ』の原画に特化した展示会でしたが、今回のはデビュー当時から晩年までを網羅的にカバーした内容になっています。

入口で出迎えてくれたのは『歩くひと』の表紙イラストの巨大パネル。大人の身長を超える高さのパネルですが、このサイズの印刷にも堪えるディテールというのが谷口ジロー先生らしいところ。
『歩くひと』といえば、『孤独のグルメ』と同じ共同テレビ制作で昨年春に NHK でドラマ化されていましたね。

描くひと 谷口ジロー展

展示は谷口ジロー先生の生涯を時系列で整理し、表現の変遷を追う形で並べられています。
私は先生の作品は知っていても経歴はあまり知らなかったので、今回初めて知った内容が多々ありました。デビュー前は動物漫画家のもとで修業していたんですね。

描くひと 谷口ジロー展

デビュー当初は学習まんがの執筆もされていたようです。
年代的にはこれ、私も小学校の図書室にあったやつを読んでいた可能性がありますね…(図書室の学習まんがはほぼ一通り読んだ子だった)。

描くひと 谷口ジロー展

谷口ジロー先生の画風は徹底したリアリズム。人物、動物、風景、食べ物…とにかくディテールの描き込みとリアリティがすごい。
コミックや電子書籍で読むよりも、こうやって大判のパネルに出力して見せられると改めてそれが分かります。

描くひと 谷口ジロー展

原画も多数展示されていますが…とにかくそのディテール、筆致が訴えかけてくる。繊細さと力強さが同居していて、見ているこちらが打ちのめされそうになります。
漫画の原画というと安彦良和先生の原画にも強烈な印象を受けましたが、それに勝るとも劣らない強さがある。

描くひと 谷口ジロー展

とにかく凄味がある、としか表現のしようがない絵。「身動きが取れなくなる感覚」ってこういうのを言うんですね。

これを見てしまうと商業誌や単行本サイズの印刷では本来の絵の強さの半分も受け止められていないことを実感します。写真ですら伝えきれない、これは原画そのものを肉眼で見なければ感じられない。

描くひと 谷口ジロー展

格闘技やアクションものもけっこう描かれているんですね。
『孤独のグルメ』ファンとしては、こういう作品での経験が「あのアームロック」に繋がっているのかあ…と感心してしまいました(笑

描くひと 谷口ジロー展

細かすぎて吐きそうになる(誉め言葉)森の絵。これはもはや漫画という枠組みを超えていると思います。
これも大判パネルに印刷されたものですが、もっと拡大してもさらにディテールが出てきそうな錯覚すらおぼえます。

描くひと 谷口ジロー展

名作『神々の山嶺』から。
この作品もまた自分がその場にいるかのようなリアリティを感じられる作品ですが、原画だとそれがより生々しく感じられてきます。

描くひと 谷口ジロー展

手を伸ばしたら触れられそうな岩肌。まるで自分が落下しているかのように感じる動きと勢い。
『孤独のグルメ』以上にこの作品の原画をこの目で見ることができて良かった。

描くひと 谷口ジロー展

そして『孤独のグルメ』。これはコミック 2 巻の表紙イラストですね。これの原画は初めて見ました。
2 巻の井之頭五郎はドラマの影響を受けて顔つきもキャラクターもよりコミカルになってきていますが、画風も全体的にコミックらしくなったように思います。そりゃあ連載開始から最終話まで 20 年以上にわたった作品ですからね。

描くひと 谷口ジロー展

赤羽の鰻丼回の原画。
セリフやモノローグが消えることで、この作品が食べ物や店のディテールと井之頭五郎の食べる表情にフォーカスを当てた作品であることが改めて解ります。そして、ドラマがそれを忠実に映像化していることも。

描くひと 谷口ジロー展

浅草の豆かん回
豆かんなんていう見た目的には地味この上ない食べ物を絵でこれだけ表現する画力のすごさ。そして、カウンターの木目の表現のすごさが原画だとより解ります。

ちなみに五郎が食べたり喋ったりしてるコマって背景が白抜きであることがほとんどなのですが、この空白が何とも言えない「間」を作っているんだなあ。

描くひと 谷口ジロー展

そしてこれはコンビニ飯回。他の回はともかくとして、なんら特別なものでないコンビニ飯さえもこのディテールというのが本当にすごい。
原画で見ると、おでんの具がつゆに濡れてツヤツヤしている感じとかが如実に伝わってきて、単行本で読んでいたときには感じられなかった凄味を感じます。

そういえば以前久住さんのトークショーか何かで、『孤独のグルメ』のメシ作画は実質的にアシスタントさんが担当されているという話を聞いたのですが、ジロー先生はどこまで自分で描かれていたのでしょうね。まあ他作品のディテールの細かさを見る限り、少なくともこう仕上がるようなダイレクションは先生ご自身が出されていたのでしょうが。

描くひと 谷口ジロー展

ジロー先生の食に関する表現のこだわりは他作品でも遺憾なく発揮されています。
この細かさ、コマ割り、表情、リアクションは『孤独のグルメ』そのもの。食べた瞬間に下から顔にライティングが当たる演出とか、そうは出てこないはず。

描くひと 谷口ジロー展

このステーキの立体感!味や歯応え、脂の感覚まで脳内に再現されてきます。

なんだこれ…表現力が人間離れしているとしか言いようがない。

描くひと 谷口ジロー展

谷口ジロー作品は日本のみならず世界各国で高く評価されていて、さまざまな作品の翻訳版が出版されています。写真はそのごく一部。
私も台湾版『孤独のグルメ』は持っているんですが、仏語版も読んでみたいんですよねえ。

描くひと 谷口ジロー展

展示の最後のほうに各界の著名人からの谷口ジロー先生へのメッセージが寄せられていたのですが、その中に松重さんのコメントを発見。同じ久住先生の原作に対して漫画と実写ドラマで互いに影響を与え合う関係にあったはずです。
「リアリティーの中に気品がそそり立ってい」るというのはまさにその通りで、この作品が久住先生自身や他の漫画家による作画だったとしたら現在のようなブームには辿り着いていなかっただろうと思うのです。久住昌之と谷口ジローという対極にある二人の漫画家の化学反応によって生み出された作品だからこそ、現代のグルメマンガ・グルメドラマブームに着火することになったのではないでしょうか。

描くひと 谷口ジロー展

物販コーナーには「谷口ジローコレクション」の既刊分が販売されていました(発売日前から先行販売扱いで売られていた模様)。新規スキャンからのリマスターかつカラーページ完全再現という豪華仕様。あの原画を見た後だと、大きな判型で上質紙に印刷された書籍を持っておきたい気分になるのですが…第一期だけでも全 10 冊となると保管場所に困るんですよね…。かといって電子版だと意味が半減してしまうし。買うかどうかちょっと迷っています。

描くひと 谷口ジロー展

他にもこの特別展のオリジナルグッズが多数販売されていました。私はとりあえず『孤独のグルメ』のページをそのまま使ったポストカード二種とマスキングテープを購入。

あと、ほとんど宣伝されていないようですが館内の喫茶室「どんぐり」にて展示会とのコラボメニューが提供されています。

東京都世田谷区南烏山のウィンナー・カレー

それがこのウィンナー・カレーセット。『孤独のグルメ』1 巻に登場した神宮球場回のメニューへのオマージュじゃないですか!これは食べざるを得ない。

そして、こういう写真を撮ったらこうやって遊びたくなるというもの。

東京都世田谷区南烏山のウィンナー・カレー

原作オマージュ風にしてみました(笑

カレーは昭和からあるメジャーブランドのレトルトカレーの味がしましたが(笑)、ウィンナーがしっかりおいしかった。原作だと魚肉ソーセージが入っていましたが、神宮球場のウィンナー・カレー(当該店は既に閉店済み)も私が巡礼に行った時点では魚肉ではなくポークウィンナーが使われていました。
味はそれなりだけど、オタク的には最近のアニメコラボカフェ的なメニューよりもこういう原作再現メニューこそ食べたいんですよ!そういう欲求を満たしてくれたという意味では百点満点です。

描くひと 谷口ジロー展

というわけで、圧倒的な画力で打ちひしがれる展示会でした。谷口ジロー先生の原画をこれだけ網羅的に見られる機会もそうないですし、今後あるかも分かりません。
会期は来年 2 月末までとのことなので、興味がある方は是非。私も開催中にもう一回くらい見に行くかもしれません。

コメント

スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました