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くちべた食堂

こんな漫画を購入しました。

梵辛 / くちべた食堂

くちべた食堂

元々は同人のオリジナル漫画だったようで、私はしばらく前から Twitter 上に公開されている作品を拝読していました。

それがこのたび再筆のうえ KADOKAWA から商業版として発売されたようですね。同人版は Twitter 上で全話読め、商業版もコミックウォーカーで一部無料で読めてしまいますが、私の琴線に触れる作品で今後も続いてほしいという気持ちを込めて購入。
書籍は基本電子でしか買わなくなっている私にしてはかなり珍しく物理書籍版を購入しました。Kindle 版だと Twitter 上で読んでいるときと読書体験が変わらなくなってしまうのと、装丁の質感を感じたかったので。

くちべた食堂

物語の主要な登場人物はたった二人で、とある食堂の隣に住みながら五年間その店をスルーし続けた高校教師と(気になっていても客の入りが悪いとスルーしてしまう気持ちは私もわかる)、

くちべた食堂

スルーされ続けた店主がようやく出会うところから始まります。

二人ともコミュ障で店を気に入っていること/店に来てくれて嬉しいことを素直に伝えられないことによるコミュニケーションのもどかしさが作劇の核になっています。
グルメマンガやグルメドラマ全盛の今にあって、メシ作画のうまそうさに軸を置いていない(たまに出てくる料理の画はちゃんとおいしそうなのに)のはある意味異色。でも特別な料理ではなく毎日食べたい近所のごはんを気に入っている常連客の気持ちと店員側の気持ちが主役なので、そこはメインじゃないということでしょう。

くちべた食堂

松重豊にも匹敵するこの表情!

グルメマンガだからといって丼から光が放たれなくたって別にいいんです。こういうしみじみと幸せを感じるメシこそが毎日の喜び。独りで静かで豊かで…誰にも邪魔されず自由で、なんというか救われる感覚。そういう食事が一番だいじなんですよ。

お客側の反応に共感するポイントは他にもたくさんあって、

くちべた食堂

よほど口に合わないか食べきれなかったときを除いて米粒一つ残さず完食するのは基本として、特においしいと感じたときは食器やテーブルを片付けやすいようにしておいたり、退店時に「ごちそうさまでした」に加えて「おいしかったです」と一言添えるとか、一介の客だからお店側の時間を取らせたくないけど感想と感謝は伝えたい…という気持ち、これなんですよ!この客(ヤナギさん)はまるで自分じゃないかと思ってしまうほど、このあたりの描写はめっちゃわかりみが深い。

くちべた食堂

ちなみに Twitter 掲載時には「店員」「客」としてしか描写のなかった二人の主人公の名前が単行本の幕間で初登場(たぶん)しているのが地味に貴重。確かにこの店員さんは「日代乃」って感じだわ。

あとは単行本オリジナルとして第 1 話の前日譚が掲載されています。Twitter 漫画を読んで気に入ったらこの 0.9 話を読むためだけに単行本に課金する価値があるのではないでしょうか。

くちべた食堂

飲食店なんかは近年特にそうだし、漫画や音楽でももちろんそうだけど「推し」に存続してほしかったらその価値に対して継続的に対価を払う、これが大事なんですよね…。

あちこちの飲食店を食べ歩くグルメマンガは多々あれど、こうやって一つの店に通い続ける作品は他にないのではないでしょうか。
毎週でも、毎日でも通いたくなる店を持つことって日々の幸せに直結しているんですよね。自分にとっては、以前の五反田勤務時代なら「スワチカ」がそんな店でした。その後移ったいくつかの職場はいずれも飲食店不毛の地(立地的に選択肢が少ない上に個店がほぼない)で、ランチタイムの楽しみがなかった。今はほぼリモートワーク状態ですが、自宅周辺も飲食店が少ないエリアだから昼に外に出ることもほぼないし。気に入った飲食店には通い詰めて店員さんに覚えられがちな私としては、この作品のような日々がなくなって久しいのが寂しい限りです。

飲食店にとって厳しい時代だからこそ、お店とのこういうやりとりが愛おしく思える。そんな漫画だと思います。私も今度五反田方面に行く機会があったら、久しぶりにあの店のおやじさんの顔を見に行こうと思いました。

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