今さらながら、年末年始は Netflix で『深夜食堂』を観ていました。
このドラマ自体は以前にも断片的に観たことはありました。基本的に JAL の国際線機内エンタメには必ずと言って良いほどこれと『孤独のグルメ』が含まれていて、映像が暗めで物語の抑揚が少ない本作は入眠時の BGV にちょうど良いという失礼な理由で観ていました(笑。
新宿ゴールデン街にある架空の深夜食堂を舞台に、そこに出入りする客たちが繰り広げる人間ドラマ。食を楽しむことそのものを目的とした『孤独のグルメ』とは対極にある作品で、今までは Not for me だと思っていました。が、何故か(昨年末に『くちべた食堂』を読んだり BAR IGETA に行ったりしたせいかも)飲食店で起きるドラマにちょっと触れてみたくなり、Netflix に全話あるのを思い出して改めて観てみました。
本作はテレビドラマとして 3 シーズン、Netflix オリジナルドラマとして 2 シーズン、さらに劇場版 2 作が制作されています。合計 50 話+映画 2 本。主演は言わずと知れた小林薫ですが、主人公というよりは狂言回しが彼の役どころ。
第 1 話はいきなりヤクザ役の松重豊が赤いタコさんウインナーを頬張る話。タイミング的にはこちらの方が『孤独のグルメ』のドラマ化よりも前なので、もしかしたら本作でものを食べる姿があったからこそ現在まで十年続く「松重五郎」が生まれたのかもしれません。
登場人物には店の常連客たるレギュラーキャラクターとその回のメインを務めるゲストキャラクターが存在しますが、松重豊演じる「竜」はレギュラー。登場するたびに無言で赤いウインナーを口に放り込んでいます。
歌舞伎町からそう遠くない立地の深夜食堂だけにアウトローな登場人物も少なくなく、下世話な話や下品な話も多い。多くが男女や家族にまつわる浪花節で自分には響かない回も時々ありますが、本作の見所は脚本よりもむしろ芝居なんじゃないかと思います。舞台俳優やバイプレイヤーとして名の知られた役者陣が、渋いながらもいい芝居を展開するドラマ。
いわゆるグルメドラマとはちょっと方向性が違って料理はあくまで物語のきっかけであり、最後に登場する「水戸黄門の印籠」的なアイテムにすぎません。でも「食」って人間の本能と五感に直結するものだから、そこから秘めていた感情が溢れてくるというのはとても解る。心が弱っているときに思いがけず故郷の味に触れ、不意に涙が流れ出してしまう…という経験は私にもあります。
しばらく観ているうちにこの店とそれぞれの登場人物に次第に愛着が湧いてきて、いつの間にか自分も同じカウンターの隅っこに座って常連客たちの他愛ない会話を聞いているような気分になります。常連の中では長老的立ち位置の忠さん(不破万作)と蘊蓄キャラの金本(金子清文)がお気に入り。
エピソードで言えば、各シーズンでの個人的イチ押しはこのあたりですかね。
- シーズン 1:バターライス(岩松了、あがた森魚)
- シーズン 2:煮こごり(伊藤歩)
- シーズン 3:紅しょうがの天ぷら(谷村美月)
- シーズン 4:ハムカツ(志賀廣太郎、平田満)
- シーズン 5:甘い卵焼き(ジョセフ・チャン)
バターライス回はてっきり料理に難癖つけてくる料理評論家(岩松了)をギャフンと言わせる話かと思ったら全然違うオチで、これが本シリーズを面白いと感じるきっかけになりました。
ちなみに深夜食堂というと個人的には大井町に以前あった「春菜」という小料理屋を思い出します。深夜 0 時から明け方までやっているまさに「深夜食堂」で、老夫婦が経営していました。二十年以上前に大井町でバイトしていた頃、仕事で遅くなったりそのまま飲みに行った帰りにバイト先の社長と時々寄っていたなあ。時間帯的に客層は何やってるか分からない人たちが多く(自分もその一人に見えたに違いない)、このドラマほどではないけど他のお客さんとの絡みもたまにあったような。そして何よりカレーが絶品だったんだよなあ…あのカレーを食べたいがために終電を逃すまで飲んでいたこともありました。マスターとおかみさんの高齢化に伴い十年ほど前(?)に閉店してしまったようですが、このドラマを見ながらずっとあの店を思い出していました。ああ懐かしい。
外食する機会が減っている今、行きつけの店を作ること自体がなかなか難しい状況ですが、そういう自分のホームと言える店が作りたいと思えるドラマでした。
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