「こんなとこにイタリア料理店ができてるぜ…いつの間にできたんだァ?」
以前から行きたいと思っていたイタリア料理店に行ってきました。二年ほど前にオープンした当初から気になっていたものの、少し遠かったり COVID-19 で外食が憚られる状況だったりでなかなか行けませんでしたが、この GW を利用して予約訪店。お店は京王線府中駅南口を出てすぐのところにありました。
一風変わった店名ですが、これは荒木飛呂彦先生の漫画『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』に登場するエピソードのサブタイトルをそのまま冠したもの。あのジョジョ第 4 部に登場するイタリア人シェフのスタンド使い「トニオ・トラサルディー」の店にインスパイアされたお店なのです。
今回は、友人の中で最も「黄金の精神」を持つ人と二人で行ってきました。
ランチタイムの開店に合わせて入店。トニオの店は一人で営んでいる関係でテーブルは二つしかありませんでしたが、こちらのお店はスタッフが複数人いて座席もたくさん。それでもランチタイムにはほとんどの席が埋まるほどの人気店のようです。それも、見た感じジョジョファンで来ているお客は我々だけ。つまりジョジョとは関係なく純粋にお店の評判が高いということなのでしょう。
雰囲気イーイーじゃんかよぉ~、おれイタリア野郎のセンスとかデザインて すげー好きなんだよなあ~。
黒板のメニュー、どれもそそる。
でも今回は“あの”コースをあらかじめ予約してあるのです。
コルソ・トラサルディー…つまり「トラサルディーのコース」。劇中で虹村億泰が食べた料理を忠実に再現したコースが予約限定で用意されています。
何を隠そう、私はジョジョ 4 部ではこのエピソードが一番好き。ダークなサスペンス調で進む第 4 部において、唯一誰も傷つかないホッとするストーリー。トニオのスタンド「パール・ジャム」はジョジョシリーズの中でも最も平和的なスタンドではないでしょうか。トニオの料理を食べて億泰の身体にさまざまな異常が発生するものの、最終的にはそれは身体を癒やす作用だった…というコメディ的展開が大好きだったのもさることながら、当時(ジャンプ掲載時にはまだ高校生だった)私はまだ本格イタリアンを食べた経験がなく、これに登場した料理を食べてみたい!!と強く思ったのでした。
ちなみにこのエピソード自体は荒木先生の完全オリジナルではなく、筒井康隆のショート・ショート『薬菜飯店』にインスピレーションを得たストーリーらしいですね。
注文するとまずサービスされるのがこのミネラルウォーター。店員さん曰く「本日はあいにくアフリカ・キリマンジャロの 5 万年前の雪どけ水の入荷がなく、代わりにイタリアの代表的なミネラル・ウォーターをご用意しました」とのこと(笑
ヨーロッパのミネラルウォーターというと硬水のイメージが強いけど、これはとても飲みやすい軟水。なんつーか気品に満ちた水っつーか、たとえるとアルプスのハープを弾くお姫様が飲む水っつーかスゲーさわやかなんだよ…。
このさわやかさは、10 時間熟睡して目醒めたみてェーなバッチしの気分だぜェーッ!
料理が出てくる前に、店員さんから“あの”コースに関する説明がなされます。料理を再現するといっても、漫画の中には「絵」はあるけど「味」は読んでも分からない。ではどういう味付けか、を絵や登場人物のセリフ、設定、果てはサイドストーリーまで深掘って、さらに料理人としての知識と経験をふまえて「推測」し、「料理」に結実させる。そんな経緯にまつわる蘊蓄を十分ほどの講釈で聞かせていただけました。これは完全に「考察勢」の所業ッ!作品への愛のなせる業だ…。
まずは前菜「モッツァレッラチーズとトマトのサラダ」から。いわゆるカプレーゼですね。
モツァレラチーズ、今でこそスーパーでも手に入って自宅でも簡単に作れるようになりましたが、当時はこれめちゃくちゃ食べてみたかったなあ…。
この一皿、盛り付けから付け合わせまで完璧に「再現」されているッ!
そしてイタリア人であるトニオがなぜドレッシングにワカメを入れるに至ったのか…その考察と、それを見事に再現してみせる技術に感服。
カプレーゼといえばトマトとモツァレラを一緒に食べるのがセオリーですが、ここは億泰のようにモツァレラ単体で食べてみるところからやらなくては。
まっ、なかなかウマインじゃあねーの~っ?でも、なんかよくわかんねーけどよ…味があんまりしねーよ…このチーズ!
…という寸劇までひととおりやったところで(笑、
ゥンまああ~いっ!
チーズがトマトを、トマトがチーズを引き立てるッ!これは例えるならサイモンに対するガーファンクル、ウッチャンに対するナンチャン。
でもカプレーゼ自体は今や食べ慣れているはずなのに、トマトの甘みとモツァレラのモチモチ感、それに…このドレッシングが絶妙。単なるオリーブオイルに塩胡椒しただけとは違う、アンチョビフィレとワカメのうま味が重畳して味に奥行きを与えている。そういえば、うま味って違う種類のを掛け合わせることで爆発的にうまさが増す、って誰かが言ってたっけ。
これは…『甲状腺』が特別に活発になって身体の新陳代謝が盛んになりそうな味だ。
次はプリモ・ピアット、パスタ料理。「娼婦風スパゲティー」です。
純白のプレートに真っ赤なスパゲティーが映える。この赤さは単にトマトの赤さじゃなく、見た目からして辛そう。
でも…うまそうだ。
辛味のパスタは好きな私でも「これは辛い」と感じてしまうほどのしっかり辛口。口の中がヒリヒリする。
でも…クセになるっつーか、いったん味わうとひきずり込まれるカラさっつーか…これは億泰のリアクション抜きにして、後を引くうまさがある。辛味系のパスタでこういうジワジワくるうまみって珍しい。なんだこれ、食えば食うほどもっと食いたくなるぞッ!
どれくらいうまいかというと…奥歯の虫歯が一瞬にしてはえ替わりかねないうまさ。
セコンド・ピアットは「小羊背肉のリンゴソースかけ」。作中に登場した料理の中でこのメインディッシュだけが特に情報量が少ない。「母カラ娘ニ受ケ継グヨーナ料理」を信条とするトニオが、なぜ出身地の港町ナポリでは一般的ではない羊をメインディッシュに選んだのか。店員さんによるこの「考察」が、今回伺ったお話の中では最も興味深かったです。
それに羊肉好きとしては、このメインディッシュがどういう味なのか?は本当に長年気になっていたところ。
羊肉といえば食べたときにまず出てくる感想は「臭みがない」か「柔らかい」と相場は決まっているもの。しかし億泰はまず「肉汁がのどを通るタビに幸せを感じるッ!」と言った。羊肉でまず肉汁を感じるとはどういう調理法なのか?そしてそれに至った背景は…という蘊蓄を聞いた後に食べると、実際臭みはないしすごく柔らかいんだけど、これは確かに肉汁!それが甘ズッパいリンゴソースと渾然一体となってのどを抜けていく。ああ…これはうまい。最初は上品にナイフとフォークで食べていたけど、途中からたまらず手づかみで食べてしまいました(お店側としても手づかみ推奨)。
ンまあーーーイッ!幸せだ、幸せの繰り返しだよぉ…。
デザートは「プリン」。
店員さん曰く「白状するとこれはさすがになんの情報もなかったので、ウチでいつも出してるプリンです」。
ちょっと素朴な感じで、でも卵とカラメルソースたっぷりで、これも濃厚でンまぁーい。
食後はコーヒー。エスプレッソではない普通のコーヒーはイタリア語だと「アメリカーノ」なんですね。
添えられている砂糖の小袋がちゃんとイタリア製。Zucchero…ズッケェロといえば、第 5 部『黄金の風』は舞台がイタリアで、ブチャラティのチームはよくレストランで食事をするシーンがあったし、そもそも登場人物の大半は料理や食材のイタリア語名由来。このお店にはどうせなら 5 部絡みのメニューも用意してほしい気もします。4 部以上に情報が少なくて難しいと思うけど(笑
ああ、どれもおいしかったし、何より楽しかった。ディ・モールトベネ(非常に良し)ッ!!
それぞれの料理を注文できるイタリア料理店は他にもあるだろうけど、全てをコースで出してくれる店はまずないし、ここまでの愛と情熱を注いで料理を「再現」する店もないでしょう。愛とこだわりにプロとしての知識と技術を加えたもの、それこそが真の「仕事」という気がする。
調布はちょっと遠いから億泰のように「何回でもかようもんねーっ」とは行かないのが残念なところですが、通常メニューもどれもおいしそうだからきっとまた食べに来たいと思います。またこの GW を前に姉妹店「イタリア料理と吉祥寺」がオープンしたということなので、まずはそっちに行ってみようかな。
本当にごちそうさまでした。
←TO BE CONTINUED
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