2019 年を最後にレッドブル主催での開催が終了していたエアレースが、形を変えて「エアレース X」として復活しました。
AIR RACE X(エアレース エックス)|時間と空間を超えた5次元モータースポーツ
一時はプロモーターを変更して「World Championship Air Race」としての開催を予定していたにも関わらず計画が頓挫し、改めて室屋義秀らエアレースパイロットたちが主導する形でのシリーズ再立ち上げとなりました。しかしプロモーター、スポンサー、会場、ロジスティクスなどを世界規模で確保していくのは厳しかったようで、2023 年はとりあえず一回、それも AR をベースとしたバーチャルエアレースとしての開催となりました。
記念すべき第一回の開催地(といってもバーチャルだけど)は東京・渋谷。まあパイロット主導といっても主要メンバーの国籍がチェコ、オーストラリア、カナダ、スペイン、みたいな状況なので多少なりとも商業的に成立しそうなのは日本くらいですね…。
選手は各自の地元でフライトし、飛行中に計測されたデータを使ってバーチャルにレースを再現、その様子を AR でも観戦できるというのがエアレース X(デジタルラウンド)の基本コンセプト。場所が違ったら天候とか気圧といったコンディションが全然違うからアンフェアなんじゃないかと思っていましたが、その辺はちゃんと数値化してハンディキャップとしてフライトタイムに加算されるようです。
レースの様子は YouTube でも配信されましたが、せっかく都内に住んでいるんだからということで渋谷のパブリックビューイングに参加してきました。
パブリックビューイング会場はスクランブルスクエア内「渋谷キューズ」、パルコ内「ComMunE」、あと宮下パーク向かいにある「渋谷キャスト」の三箇所で開催されました。渋谷キューズのみ有料会場という位置づけで事前にクラウドファンディング(20 万円!!)にバックした人だけが入場でき、室屋選手の生インタビューや VR ヘッドセット(Pico 4)での観戦といった特典がついたようです。私はクラファンに参加しなかったのでパルコ会場で観戦しました。「パルコ 10F」と書いてあったのに実際のパルコは 9 階建てで、PV 会場は屋上にある屋根付きの会場だったという…無駄に迷いました。
パルコのパブリックビューイング会場。モニターは二台あったけど期待してたよりも画面が小さい!
会場自体がそれほど広くなかったのですが、パルコの来場者は体感で 100 人以上はいたけど 200 人はいなかった、という感じでしょうか。
エアレース機が渋谷の空を飛ぶのを AR で観られるというのがパブリックビューイングのキモ。スマホやタブレットに「STYLY」という AR アプリをインストールし、それを使って観戦します。
会場に AR 起動用のマーカーが設置されていたのですが、アプリを起動後に (1) QR コードを読み取ってアプリ内でイベントを呼び出し、(2) さらにアプリでこの AR マーカーを読み取って位置合わせ、という二段階の手順が解りにくかったです。私以外にもここで躓いているお客さんが多かったように見受けられました。
AR が起動すると画面上に仮想パイロンやスポンサーの看板が表示されます。パイロンが宙に浮いて見えるのはしょうがないとはいえちょっと残念な感じ。
アプリ内で画像や動画の記録もできるので、フライト一本分(準決勝でのマルティン・ソンカのフライト)を撮影してみました。スマホの手持ち撮影のためちょっと見にくい点はご容赦を。
うーん、思っていたよりも全然遠い…。これ録画を PC やテレビで見るとそれなりに見れますが、現地ではスマホのちっちゃい画面の中だから機体の姿勢なんてほとんど分かりません。リアルのエアレースとは違って軌跡を描いてくれるから分かりやすいのと、マニューバーの際に頭上を飛んで行ってくれるのが AR 開催の良いところなのは分かるんですが、現場で見た感想としてはなんか盛り上がらない。主催側のやりたいことは分かるけど、まだ技術や環境が追いついていない印象を受けました。表示される CG の質が各段に上がって、観客が全員カラーパススルー可能な VR ヘッドセットをつけて観てる、くらいな状況になればまた違うのでしょうが。
ちなみに YouTube の中継(↑はキャプチャ)ではリアルな渋谷の俯瞰映像に AR 映像を重畳して流していました。CG は拙いし例えば左側のパイロンが柵の手前に表示されていたりして出来の悪い AR ではあるのですが、スマホでの現地観戦よりもこっちのほうが遙かにやりたいことが伝わっていると思います。リアルだとこんな場所ではあり得ませんからね。
全体的に CG は初代プレステかな?というクオリティーでとても残念。でも今のエアレースにはここにかけられる予算はないでしょう。
逆にバーチャルならではなのが、決勝と三位決定戦では二台の飛行機が同時に飛行してリアルタイムに勝ち負けが見える点。これはリアルでは不可能だけどレースらしさが出て面白いと感じました。
ただ準決勝ではなぜか一人ずつのフライトだったんですよね。まあただでさえ競技時間が短い(1 分程度)から全員が一斉に飛んだら一瞬でイベントが終わってしまうんですよね…。リアル開催だったときはラウンドオブ 14(予選)から決勝までやっていたのに対して今回のデジタルラウンドは準決勝と決勝だけですからね。イベント自体もフライト 6 本分(準決勝 4 本+三決+決勝)で正味 30 分しかなかったし。
レースの結果は、決勝ラウンドで室屋がかねてからのライバルであるマルティン・ソンカに 4 秒以上の大差をつけて優勝!2017 年以来変わらぬ強さを示してくれました。それ自体は喜ばしいことなのですが、事前フライトゆえに競技直後の各選手の感情の爆発もなくてなんか静かな結末。幕張に数万人が集まって目の前で勝敗が決するあの興奮を体験していると、あまり盛り上がらないまま終わってしまったなあ…というのが正直なところです。
とはいえ今のエアレースに数万人規模のイベントを開催する体力はないし、デジタルの力を使ってやりたいこと自体は理解できるし、少しずつ改善して安定運営できるまで見守っていきたいところ。数年後に AR/VR がもっと使い物になる技術になったときに、今のデジタル開催のエアレースが「ちょっと時代が早すぎたね…」と言われないことを願っています。
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