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CLAMP 展 @国立新美術館

昨日まで国立新美術館で開催されていた CLAMP 展に、会期終了ギリギリに行ってきました。

CLAMP 展

私は中高生時代に高河ゆんからの流れで CLAMP を読むようになりました。とはいえ読み込んだのは初期の『東京 BABYLON』と『X』くらいで、あとはレイアースは対象年齢外な気がしてアニメを断片的に観た程度、ちょびっツは『3×3EYES』のために読んでたヤンマガでついでに読んでいたくらい、でそれ以降は主な作品の存在を知っているだけというレベル。そんなんだから展示会に行く資格はないだろうなあと思っていたのですが、ある人に「それでも見に行く価値は十分あるから行ったほうがいい、というか是非行け」と強く勧められたので(意訳)最終日に滑り込みで見に行きました。

乃木坂駅の出口から新美までの柱に CLAMP 代表作のキャラクターパネルが並んで出迎えてくれます。これは会場に向かう間に気持ちが高まる。

客層は女性中心ながらも幅広く、年齢だけでなく国籍も多様に見えました。体感的に三割くらい外国人(主に東アジア系)な感じ?そこまで支持されているとは知らなかったので驚きました。
入場には入り口で整理券を受け取り、一定時間ごとに 50 人ずつ待機列に呼び込まれるシステムでした。私が行った時点では整理券受け取りから 30 分ほど待って待機列に並び、そこから 15 分程度で入場できました。

整理券を受け取ったら 1F のカフェでしばらく時間を潰します。コラボドリンクといってもきっと最近の作品だろうし普通にアイスコーヒーでも飲むか…と思っていたらまさかの X コラボドリンクがあるじゃないですか!「天の龍」をモチーフとしたカシスハニー&クランベリーソーダと「地の龍」モチーフのブルーベリー&シトラスクリームがあり、味の好みとしてはブルーベリーの方が良かったんですが天の龍派の私としては赤いドリンクを頼まざるを得なかった。
ドリンクには CLAMP 展のタイトルイラストを切り分けた五種類のコースターがランダムで付属。

展示は CLAMP の五文字になぞらえて Color/Love/Adventure/Magic/Phrase の五つのコーナーに区切られていました。35 年の創作活動を総括する展示会だけあって物量もすごいことになっていますが、展示の造作も凝っていてそういう視点でも見応えがあり、多くの来場者が展示風景の写真を撮影していました。

ちなみに場内の撮影は一部(Color のカラー原稿の撮影と映像コンテンツの動画撮影)のみ禁止でしたが、撮影機材はスマホのみ可。スマホカメラってデフォルトが広角(24~26mm)だから作品に近寄って撮る人が多くて却って閲覧の邪魔だと思うんですけどね。

原画のこの力強さ!
当時新書判サイズ(あすかコミックス)で読んでいたものがこの大きさで、それも原画で見れることに感涙を禁じ得ません。単行本でも圧倒される画力でしたが、この勢いのあるタッチは印刷では表現しきれていなかったように思います。

このあたりは「Love」コーナーの展示。
私はほぼ初期作しか知りませんが、少なくともその頃の CLAMP 作品はオーソドックスな恋愛ものとは少し違う愛の形を描いたものが主軸だったように思います。当時はまだ BL という言葉も一般的ではありませんでしたが、CLAMP や高河ゆんを通じてそういうジャンルがあることを知った中学生当時の私は衝撃を受けたものでした…。

初期の線太め・画面黒め・ディテール過多な画風からキャリアを重ねるごとにシンプルで構図や動き重視の絵柄になっていくという変遷は人気漫画家の多くが経る過程だと思いますが、35 年分が一カ所にまとまるとより顕著に分かりますね。CLAMP の場合はさらに女児向けから青年誌まで作品による対象年齢の幅が広く、それに合わせて新たな画風を生み出したりするから作品ごとの違いを比較するのも面白い。『xxxHOLiC』とか漫画なのに各コマがイラスト級のクオリティーだからなあ(他作品でも大ゴマはそうだけど)。

「Adventure」コーナーは実質的には作品別展示でした。聖伝や東京 BABYLON、X といった初期作品にも十分なスペースを取って多数の原画が展示されていたのが嬉しい。どの原画にもファンが張りつくように閲覧していて会場の熱気がすごいことに。

ライトアップされた東京タワーを背景に「あなたは『東京』が、きらいですか?」というコピーからはじまる本作。隣のページにある「不夜城都市」という文字に「むてきのゆうえんち」とルビが振ってあることに当時の時代背景を感じます。連載当初の日本はまさにバブル景気の真っただ中で、その浮ついた世相がよく表れています。
その都会のカッコ良さと当時の社会/時事問題、そこに絡む怪奇現象とそれを解決する陰陽師。さらに BL 要素を絡めつつ漫画としてオシャレに展開する…時流をうまくとらえた作品でした。何よりタイトルがカッコイイし、単行本のビビッドなカラーイラストも良かった。

梵字と手印、これらが出てきてバトルするだけでコロッと好きになっちゃうくらいには中二病でした。3×3EYES なんかもまさにそっち系でしたよね。

地方の少年だった私が東京にあこがれるようになったのは、テレビやドラマ以上にこの時代の漫画の影響が大きかったように思います。超能力バトルは実際にはなくても、そういうカッコ良さ・オシャレさ・ミステリアスさ・刹那さが東京には本当にあるように思えました。タイトルに「東京」と入っていることがさらに強い印象を植え付けたのでしょう。

あと、私がミスタードーナツに行くとエンゼルクリームを頼みがちなのは間違いなく本作の影響です(笑

そして東京 BABYLON の流れを汲む作品として登場したのが『X』でした。創作の世界におけるシェアード・ユニバースという概念(複数の作品で世界観を共有する作り方)は今でこそ一般化しましたが、CLAMP 作品は日本でのそのはしりだったのではないでしょうか(当時は単にスター・システムと呼ばれていた)。この頃の CLAMP は同時並行的に連載されている作品のほとんどがどこかで繋がっていましたが、東京 BABYLON と X は実質的な後継作と言えるほど強い関係にありました。

X は東京 BABYLON に比べるとグッと王道バトルもの路線に寄せられていました。魅力的な女性キャラも増えて男の子的には感情移入しやすかった記憶があります。

↑は第 1 話の主人公の登場シーンですが、黒板に書かれた「司狼神威」の文字と神威の眼力のインパクトが強かったですねー。原画だと筆跡までハッキリと見えてさらに心を鷲掴みにされます。でもこの文字、神威本人ではなく担任教師が書いたものなんですよね(笑

本作は人類の未来を守る「天の龍」と地球の自然を守る「地の龍」という二つの勢力が東京を舞台に相争う物語です。天の龍の拠点は東京タワー、そして地の龍は開庁したばかりの現東京都庁。デジタル作画が一般化した今なら写真をデジタル加工して背景にすることも多いと思いますが、手で描き起こされた両建造物の緻密さを原画で見せられると立ち尽くすしかないですね…。

ちなみに作中ではサンシャイン 60 やレインボーブリッジといったランドマークが東京を守る結界という設定もさることながら、「皇居を中心に『東京』を守るべく仏手の形に路線を敷いた『弦状結界』山手線」という話が出てきたときにはこじつけにしてもすげえええ!と興奮したのを今でも憶えています。そういえば結界の一つである中野サンプラザが現実世界では間もなく解体工事に入りますが、要石が崩れることで何か良からぬことが起こる予感がしている X ファンは少なくないのではないでしょうか。

印刷はもちろんスマホ写真でも表現しきれないのですが、緻密さとダイナミックさが共存するタッチ、ディテールの描き込み、スクリーントーンの細かさ、独特なベタ塗りなど一枚一枚をいつまでも眺めていたくなる原画です。近くにいた漫画家か同人作家とおぼしき二人連れが「スクリーントーンの使い方やばくない?」「何枚も重ね貼りしてるのかと思ったらむしろトーンを削って表現してるのエグい。ほとんど描き込むレベルで削ってる」みたいな会話をしているのが聞こえてきて、改めて見入ってしまいました。

描く技術という意味では後年のシンプルな作画の方が上だと思いますが、初期作の「描くことが好きすぎるあまり全てのディテールに力を込めすぎてしまった感」が私は好きですね。この頃の CLAMP からしか摂取できない栄養があると思います。

展示されている原画は全ページではないものの物語のポイントになる大ゴマを中心に大盤振る舞いで見せてくれ、ある程度ストーリーが追えるようになっているからつい読み込んじゃいますね。
こんなに名作なのにこれからクライマックス!というところで連載中断したまま未完なんですよね…当時震災や猟奇殺人など現実社会での事件が重なって続きが描けなくなったとのことですが、自分が生きている間に結末を見届けたい作品の一つです。

あと、私がハーゲンダッツを食べるときにクッキー&クリームを選びがちなのは間違いなく本作の(ry

展示の終盤には壁一面を使って CLAMP の全作品年表が掲示されていました。単行本は色遣いが象徴的なこともあってこう並ぶと壮観ですね。

…と思いつつ近づいてみたら、

これ壁面へのプリントじゃなくて全部コミックスの実物か!!
旧作で現在手に入る本は表紙デザインの変更された愛蔵版がほとんどなのでオリジナルのコミックの現物を見られるのはまた胸熱です。私はたぶん 25 年ぶりくらいに見た…。

CLAMP 展、めちゃくちゃ良かったです。東京 BABYLON と X はじっくり見てそれ以外は流し見、くらいでも十二分に楽しめました。というかこの二作分の展示だけでも入場料以上の価値はあったと思います。
ちなみに X は改めて読み返したくなってしまったので(でもコミックスは手放してしまった)つい漫喫に行って全巻読んでしまいました(ぉ。電子版で改めて買い直そうかなー…。

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