スポンサーリンク

スオミの話をしよう @チネチッタ

昨日封切りになったばかりの映画を観に行ってきました。

スオミの話をしよう

三谷幸喜監督・脚本最新作です。三谷作品といっても近年は面白さが少し衰えたような気がして直近二作はスルーしていたのですが、本作は私が好きなキャストばかりで彼らが三谷脚本で会話劇を繰り広げてくれるのであれば是非観たいと思いました。

本作のヒロインの名前「スオミ(Suomi)」とはフィンランド語でフィンランドの国そのもの、あるいはフィンランド人やフィンランド語を指す言葉です。三谷幸喜はこの言葉の響きが気に入って命名したそうですが、脚本にもフィンランドはキーワードとして登場します。余談ですが、フィンランドの人名には「ミカ」「キミ」「アキ」「ヨウコ」「ユリ」など日本の女性名としても違和感ないものが数多くあります。日本と違うのは、フィンランド語ではそれらは男性名であるという点(笑。

話を映画に戻すと、物語は大富豪の詩人・寒川(坂東彌十郎)の家から妻のスオミ(長澤まさみ)がある日失踪するところから事件が始まります。寒川は表沙汰にはしたくないと警察ではなく面識のある刑事・草野(西島秀俊)を呼び個人的に捜査することを依頼するが、実は草野はスオミの前夫。そこに寒川家の庭師・魚山(遠藤憲一)や草野の上司・宇賀神(小林隆)、胡散臭い YouTuber・十勝(松坂桃李)が現れるが、彼らもそれぞれにスオミの元夫だという。彼らの語るスオミの人物像はそれぞれ全く異なり、果たしてスオミの本性はどのような人物なのか次第に分からなくなっていく。スオミはなぜ失踪したのか、今どこでどうしているのか。そしてスオミとは「誰」なのかを解き明かしていくミステリー…の形をした、三谷幸喜らしいコメディ作品です。

面白いのは四人の元夫が皆スオミに未練を持っており、我こそがスオミに最も愛された男だというプライドを持っている点。一方で現夫はスオミをあくまでトロフィーワイフとして扱っています。そんな五人が競うように言い争いながらもスオミの救出に向けて次第に仲間意識を抱くようになっていくのが見所の一つ。舞台は大半が寒川邸の応接で展開され、シチュエーションを限定した上で会話劇の面白さで見せる三谷節が全開。台詞回しや演出は映画というよりも舞台演劇に近く、まるで舞台を見ているような感覚で楽しめました。
スオミは中盤までは回想にしか登場せず、それぞれの回想でキャラクターが全く異なるのが面白いわけですが、終盤でスオミの居場所が判明してからはもう完全にスオミの…というより長澤まさみの独壇場でした。個人的には五人の名優の芝居を観るつもりで映画館に行ったら全部長澤まさみに持って行かれた、という強烈な演技で、これは「怪演」と評したくなるレベル。五人の元/現夫の出番は最初からスオミのための前座で、三谷幸喜は長澤まさみにこの芝居をさせたくて脚本を書いたのではないでしょうか。
あとはスオミの人生の要所要所で登場する謎の女・アザミ(宮澤エマ)がまたイイ味を出しています。アレはおいしい役だなあ(笑。

本作はミステリーとして見るとシナリオに意外性がなく、人によってはつまらないと感じるかもしれません。どちらかというと演劇のように芝居と演出を見るつもりで観れば楽しい。もしかすると映画よりも舞台で演ったほうが活きる脚本のように思います。私としては、いかにも三谷幸喜らしい脚本でこのキャストが真剣にコメディを演っている姿を見られただけで満足です。

コメント

スポンサーリンク