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フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン @TOHO シネマズ日比谷

全くノーチェックの映画だったのですが、サイカ先生のエントリーを読んで観に行くしかないと思い急遽映画館へ。

フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン

FLY ME to the MOON

私はアポロ計画世代ではないのですが幼少期にスペースシャトルに夢を見ていたせいか、宇宙開発史ものの映画には目がありません。そこにアポロ 11 号をテーマとし、タイトルにジャズの名曲を冠したスカーレット・ヨハンソン製作/主演の映画ときたら気にならないわけがないじゃないですか。ちなみに Apple Studios 制作・ソニーピクチャーズ(コロンビア)配給という座組もなかなか興味深い。

アポロ 11 号は言わずと知れた人類初の月面着陸を成し遂げたロケット。ニール・アームストロング船長が月面に降り立った際の言葉「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」は当時を生きていなかった世代にも認知されています。
アポロ計画を描いた映画は枚挙に暇がありませんが、本作はそのどれとも違う。主題として描かれるのは宇宙飛行士でも研究者でもなく、アポロ計画にまつわるある陰謀論について。当時まことしやかに囁かれていたという「NASA の月面映像は実は捏造されたものだったのでは?」という噂について、本当にそういう陰謀があったなら…という仮定のもとに描かれたフィクションです。

アポロ 1 号の演習中の事故を悔いながらも 11 号での月面着陸の計画を進める NASA の打ち上げ責任者コール・デイビス(チャニング・テイタム)のもとに、新たに PR 担当として広告宣伝業界出身のケリー・ジョーンズ(スカーレット・ヨハンソン)が着任。アポロ計画に対する米国民の支持を高めて予算を集めるため、ケリーは誇張や捏造を含め手段を選ばずイメージ戦略を仕掛けていく。軍人出身で実直なコールは嘘をよしとせずケリーと衝突を繰り返すもののケリーの PR の多くが成功し、二人は次第に信頼し合うようになっていく。そこに政府筋からケリーに対して「アポロ 11 号の成否に関わらず月面着陸の映像を捏造し、それをテレビ放送せよ」という密命が下り…というストーリー。こう説明するとなんだか重そうな脚本に見えますが、基本的には物語をコミカルなタッチで描きつつ、最後には感動の(かつ、誰もが知っている)結末に至ります。

広告宣伝やマーケティングプロモーションには常に「分かりやすさのために正確さをどこまで犠牲にするか」がついて回るものです。全てを正確に語ろうとすると却って分かりにくくなったり、話が長くなって聞いて/読んで/見てもらえなくなったりする。分かりやすく伝えるために多少の演出や脚色は是とされることが多いですが、「これ以上はダメでしょ」というラインが人や組織によって異なるから問題が起きるわけです。私の経験から見るとケリーの手法は多くが「それはダメでしょ側」なのですが(笑)、それが実際にスポンサーや世間の評価という結果に繋がればビジネス的には正義とされることも少なくない。このケリー・ジョーンズという人は映画のために作られた架空の人物だとは思いますが、そのような NASA の活動の結果としてオメガ、ハッセルブラッド、ゼロハリバートンといった企業がアポロ計画に協賛し、「人類史上初めて月に行った腕時計/カメラ/トランク」として伝説を作ったのは事実。それから 55 年経った今でも私はそれらのブランドに対しては特別な感情を抱いています。
ケリーは広告業界から NASA の PR になったから広告的なアプローチが前面に出ていますが、史実で NASA が米国民や企業の支持を得、予算を集めてアポロ計画を成功させたことはまさに PR の成果。PR=広報って一般的には広告宣伝と混同して理解されがちですが、本来は「Public Relations」の略だからその組織と社会との関係を構築していくのが主な仕事なんですね(だから広報は CM を作ったり打ったりしない。企業によっては広報と宣伝が一緒くたになってるところもあるかもしれませんが)。その意味で、NASA の PR は良い仕事をしていたのだろうと思います。

宇宙開発というスケールが大きな題材のわりに、映画自体は主な登場人物の会話劇のようなスタイルで進んでいきます。個人的には会話劇は好きなので、テンポ良い掛け合いが聞いていて気持ちが良かった。個人的には、捏造映像の監督に指名されるジムのコミカルな芝居がツボでした。
でもクライマックスはアポロ 11 号の発射シーンや月面着陸シーンが当然あり、そこは映画館らしい映像と音響の迫力が感じられてこれもまた満足。11 号のクルーが地球帰還時に着水した瞬間、フロリダのコントロールセンターがスタッフの歓声に包まれるシーンではまるで自分が管制室にいるような気分になって思わず涙が出ました。

いやーいい映画だったなー。ハリウッド映画も近年はずいぶんワンパターンでつまんなくなっちゃったなあ、と思っていたのですが、これは久しぶりに古き良きハリウッドが戻ってきた感覚。
あまり宣伝に力が入っておらず公開二週間で早くも終映する映画館も多いようですが、これは観る価値あります。もう早朝かレイトショーくらいしかやっていない中で私が行った日比谷は数少ない昼間の上映があったためか、狭いハコながらほぼ満席。もしかしてジワジワとクチコミで人気が出ているんですかね。映画好きならば観に行って損はないと思います。

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