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伊丹十三『タンポポ』

劇映画 孤独のグルメ』の関連作品としてこの映画を鑑賞しました。

タンポポ [Blu-ray]

タンポポ<Blu-ray>

伊丹十三監督の初期作です。寂れたラーメン屋を再生させるという大筋は『劇映画 孤独のグルメ』と共通するものがあり、松重監督自身が本作を意識し、オマージュしたカットを入れたことを明言されています。
映画が公開された今でこそあちこちのインタビューで言及されていますが、この話の初出は 12 月に松重さんをゲストに招いて放送された星野源のオールナイトニッポンだったかと思います。試写を見て「絶対そうだろうなと思った」と言った星野源、さすがですね…。私は伊丹作品は「女シリーズ」はだいたい見たことがあったけど本作は知らず、ラジオを聴きながらそのまま Blu-ray を注文しました(笑。VOD では一切配信されておらず、近所の TSUTAYA も軒並みなくなってしまった今 Blu-ray/DVD を買うしか観る術がないという。

話をこの映画に戻すと、先立たれた夫のラーメン屋を引き継いで営業するタンポポ(宮本信子)のラーメンは微妙で、今にも潰れそう。その店にたまたま訪れたトラックドライバーのゴロー(山崎努)が他の客とトラブルを起こし、その後なんやかんやで相棒のガン(渡辺謙)と共に店の建て直しを手伝うことになる。さまざまな人々との出会いや協力によりラーメンの味は見違えるほど良くなり、店舗の改装を経て人気店として復活を果たす…というのがメインストーリー。そして、その合間に本筋と関係ありそうななさそうな人々の食と欲望、人生にまつわるサブストーリーが平行して展開されていきます。
伊丹映画らしくシリアスな題材を扱っていながら描写が軽妙で、エンタテインメント作品として愉しく観られる映画です。現代の感覚で観たら退屈だったりしないだろうかという懸念は Blu-ray を再生した直後から霧消しました。あちこちに散りばめられたコメディに笑っているうちに終映したけど終わってみたらなんかじんわりと余韻が残る…という感覚は確かに『劇映画 孤独のグルメ』にも通じるところがある。

ちなみに主人公の名前が「ゴロー」なのはあまりにもよくできた偶然ですが、終盤に完成したラーメンをカウンターに並んで試食するシーンは劇映画でもほぼそのまんま「さんせりて」のカウンターでラーメンを食べるカットとしてオマージュされています。

タンポポ

松重監督はこれを「タンポポカット」と呼んでいるとか。丼に描かれたタンポポのイラスト(久住先生作)も、基本デザインはこの映画のラーメン店のシンボルマークに寄せてあります。

私が印象に残ったのはサブストーリーの取り入れ方。メインストーリーの登場人物と袖振り合うかどうかくらいの距離感の人々の食との向き合い方が、まるでコラージュのようにメインストーリーに貼り合わせられています。それぞれ無関係なようでいて、いろんな角度から人間の食欲とさまざまな欲望、あるいは生死の関係を見せられることによってメインストーリーの「食」がさらに立体的に見えてくる。この手法は直接的にではないにせよ松重さんが企画した『それぞれの孤独のグルメ』に繋がっているのではないかと思います。そういう意味では『劇映画 孤独のグルメ』と『それぞれの孤独のグルメ』は「松重豊の孤独のグルメ」として互いに欠くことのできない作品なのではないでしょうか。

『タンポポ』は 1985 年の作品ということでちょうど 40 年前。今や日本を代表する俳優となった渡辺謙や役所広司の若き日の姿を見られる映画という点でも貴重です。特にキザ男役の役所広司が要所要所でエロ担当で出てくるのが、近年の扱いを知っていると可笑しい(笑。また大滝秀治・橋爪功・津川雅彦といった名優が脇で味のある演技をしているのも見どころです。

これは折に触れて見返す価値のある映画だったなあ。『劇映画 孤独のグルメ』の Blu-ray がリリースされたら隣に並べておきたい。

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