「マシッソヨ、アイ・ラブ・ファンテヘジャンク」
先日韓国に行った際、釜山のナッコプセに加えて『劇映画 孤独のグルメ』に登場したファンテヘジャンクを食べに巨済島(コジェド)まで足を延ばしてきました。
その名の通り島で、釜山市街地からでもバスを乗り継いで三時間近くかかるちょっと大変な場所。でも東京国際映画祭での舞台挨拶で松重監督が「映画に登場するお店はどこも行きにくい場所だけど、聖地巡礼をする方は大変貴重な経験ができると思います(意訳)」ということを仰っていたので本当に来たよ松重さん!
でも韓国南岸エリアということで未訪だった釜山の店とまとめて巡礼できたのは結果的にちょっと助かりました。
ここが映画の劇中で井之頭五郎がダニエルの連絡船から降り立った場所。ついにここまで来ちゃいました。
五島列島に行ったときも感じたけど、劇場のスクリーンに登場したその場所に自分が立つのは普段のテレビドラマの聖地巡礼以上に感激が大きい。
しかし…釜山を早朝に発って三時間あまり、飲み物しか口にしてない。
胃袋のエマージェンシーランプ、点滅。
腹が…減った!
劇映画版のアクスタで劇中のカットを再現できて感無量です。空腹だけど胸がいっぱい。
さて、店を探そう。
ちなみにこのカットを撮影したのは巨済島の旧助羅(クジョラ)にある遊覧船ターミナルの駐車場。劇中ではほとんど車も駐まっていませんでしたが、この日は休日だったせいか一杯でした。
近隣に海水浴場もある観光地ということで、周辺には魚介系の飲食店多し。あと温浴施設も複数見かけたのですが、天然温泉でも湧いてるんでしょうか。
この駐車場の斜向かいにあるのが今回の目的地です。
かわいらしい黄色の建物。天気が良かったから青空によく映えます。松重監督はお店を選ぶにあたり釜山から海岸線をずっと店探ししながら南下してきたそうで、確かにこの店なら見た目からして惹かれるのも分かります。
劇中の井之頭五郎にしても、不法入国していると知って見知らぬ土地に一人降ろされて入国審査官を待つ…という心細い状況で腹まで減ったら、こんなめし屋に救われる思いだったに違いない。
店先に大々的に劇映画の装飾を発見。今まであちこちで散々見てきたキービジュアルだけど、表記がハングルになっているだけで新鮮に感じる。
『孤独のグルメ』が韓国でも人気っていうのは本当なんだなあ。
店内に入ってすぐのこのテーブルが、五郎と入国審査官(ユ・ジェミョン)が座った席。
残念ながら私が入店したタイミングでは埋まっていて、通されたのは劇中で『孤高のグルメ』が流れていたテレビ下のテーブルでした。が、ゴロー席が空いたところで映画にも出演された看板娘さんがすかさず「ここ!マツシゲ!」という感じで(日本語ではなかったけど)促してくれました。
さらに壁面には映画撮影時の写真がたくさん貼り出されていました。
五郎スタイルではなく白髪メガネの松重さんが写っている写真は事前のロケハン時か釜山国際映画祭のために渡韓された際のものですかね。いずれにしても、この店にとっても劇映画が大切な思い出の一つになったようでファンとしても嬉しい。
あれがメニューだよな。五郎が看板娘さんにメニューを読み上げてもらうけどなんもわからん、というやりとりが劇中の面白ポイントでした。でも確かにハングルなんもわからん!
しかし旧式の携帯電話(しかも水没故障)ユーザーの五郎とは違ってこちらにはスマホという文明の利器がある。Google レンズの翻訳機能でバッチリでした。でも今にして思えば、わざわざ劇中同様に読み上げてもらうべきだったか(笑
注文を済ませて、とりあえずビール(カス)で一息つきます。早朝に出発してきたからまだ朝の10:30だけど旅先だから朝から飲んでも良しとする。
暑い日で喉が渇いていたからスルスルッと入っていってしまう。もし劇映画に「ふらっとQUSUMI」パートがあったら久住さん何て言ったろうなあ。
そしてパンチャン。他のおかずの群れよりも先に二皿出してくれたこれは、どちらかというとビールのお通し的な意味合いっぽい。
小魚の煮干し的なものと、おでんに入ってきそうな練り物のピリ辛あえ。いい、どっちもビールが進んじゃう。
つまみ二皿を追っかけるようにパンチャン群も並べられました。
韓国はこの前菜軍団が頼もしい。しかも、どれもこれもうまいときたもんだ。
劇中に登場した「ガシリ」とか黒豆っぽいのはなかったけどこの辺は季節ものだろうしやむを得ない。でもピリ辛からやさしい味まで味付けの幅が広くて、メイン料理が出てくるまでの舌と胃を良い具合に盛り上げてくれる。
五郎が注文していた(実食シーンはなかった)鯖の塩焼き。
日本で焼き鯖っていうと切り身を想像するけど、ここの鯖は開き。すごいうまそう!
これは見た目通り、等身大の焼き鯖。韓国に来てこういう馴染みのあるものが食べられるとは。しかも開きで一尾まるまる食べられる特別感は日本じゃそうそう味わえない。
そういえば、劇中の入国審査官の再登場シーンで彼が家族に「この店の鯖は本当にうまいんだ」と言う場面がありましたが、あれって結局ゴローと一緒に鯖を食べてた、ってことですよね。そういう想像をさせる余白ある作り方、いいなあ。
そこに満を持して登場した「ファンテヘジャンク」。直訳すると「干し鱈の酔い醒ましスープ」とのことですが。
劇映画関連でいうと劇中のラーメン店「さんせりて」のモデルになった店でよく似た干し鱈のスープ「プゴク」を何度か食べたことがあります。
プゴクはミョンテ(明太=スケトウダラ)をシンプルに干物にしたものを使ったスープなのに対して、ミョンテを冬の間に何度も凍らせたり解凍したりして作った干し鱈、ファンテ(黄太)を使っています。つまりプゴクの上位にあたるスープがファンテヘジャンク、と考えて良いはず。
ファンテヘジャンク、あっさりしてるんだけど、その中に干し鱈の濃いうまみがしっかり滲み出ている。
プゴクに比べても出汁の味が強く、深い。ファンテの身を食べてみてもそのうまみが濃いことを感じる。
それくらい複雑で重層的なうまみなんだけど、それでも全体的に感じる味はとても穏やかでやさしい。
なるほど、胃腸が癒やされるってのがよく解る…これを普段食いできる韓国の人が羨ましい。
そんな様々な味を受け止めるのがこの白飯。パンチャンと一緒に食べても捗るし、日本人的には塩鯖と一緒にかっこみたくもなる。もちろんファンテヘジャンクと一緒に食べても良いしスープに投入したっていい。
この真っ白いキャンバスの上に、味という無限の可能性が広がっていく。
壁には看板娘さんが描かれたという油絵がたくさん飾ってありました。映画の中でも抜きのカットがいくつかありましたよね。
黄色い店構えに油絵、いい波動が出てる。
…と思っていたら、客足が一段落したタイミングで厨房から右の絵のモデルになったオモニたちが出てきて、隣のテーブルでまかないタイム開始。オモニは劇中には出てこず油絵だけでの登場だったので、ご本人にお会いできて嬉しい。娘さんがオモニと油絵を交互に指さして「本人です」的なことを教えてくれました。このオモニが店名にもなっている「ジニ」さんということでいいんですかね。
せっかくだから五郎が食べなかった料理も何か食べてみようと思い、カルチジョリムも注文。
Google レンズの翻訳によると「太刀魚の煮付け」ということで頼んでみたら想像とは随分違うものが出てきた!(笑
日本で太刀魚の煮付けっていうと大根なりゴボウなりと一緒に醤油ベースであっさり煮込んだものっていうイメージだけど、こっちの煮付けはナッコプセにも負けず劣らずの真っ赤な辛味鍋。そうきたか、でもこういうのこそ韓国らしい。
いや、でもこれかなりうまい。
ふっくらと柔らかく淡泊な太刀魚の身が旨辛の煮汁を吸って日本の太刀魚とは別物に生まれ変わってる。ちょっと小骨が多くて食べにくいのが玉に瑕だけど、そういうのを気にせず無心に食べてしまう魅力がある。
焼き鯖とファンテヘジャンクだけだと少しあっさりしすぎかな、と思っていたところだったから、このパンチのある太刀魚鍋がちょうどいい具合にバチンとハマってくれた。
食後にオモニと娘さんが「食後にコーヒー飲む?韓国のコーヒーだけど(意訳)」ということでコーヒーをサービスしてもらいました。インスタントのミックスコーヒー。
私はコーヒーはブラック派でちょっとでも砂糖が入ってると飲めないんですが、辛い太刀魚鍋を食べた後だとこの甘さが不思議なほど落ち着く。
娘さん、すごく気さくな方でたくさん話しかけてきてくださいました。いかにも韓ドラに出てきそうな美人だからスクリーンで見たときは完全に女優さんだと思ってた。
お互いに相手の言語は話せないからスマホの翻訳アプリ経由での会話だけど、いろいろとお話しできて嬉しかったです。これまでに日本からのお客さんは「(両手を大きく広げて)こんなにたくさん来た!」とのこと。こんなに大変な場所なのに日本からも多くの巡礼者が訪れていることに驚きました。
銀幕に映し出された風景を自分の目で見て、味を楽しみ、映画に出てきた人たちと交流する。五島列島に続いていつもより少し特別な聖地巡礼を堪能しました。
遠かったけど旧助羅まではるばる来た甲斐があった。
韓国の食材、ファンテに出合えて良かった。
腹一杯になりました。
ごちそうさまでした。
























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