スポンサーリンク

グリーンブック

先日の北米出張時の機内では『ギフテッド』以外にも観たかった映画がいろいろ入っていたので、睡眠以外の時間はほぼ映画を観ていました。

グリーンブック

これはあの『ボヘミアン・ラプソディ』を抑えて今年度のアカデミー作品賞を獲得した作品です。個人的にはアカデミー賞よりも前に Aretha Franklin の “Think”(『ブルース・ブラザース』のダイナーのシーンで Aretha 本人が唄っていた楽曲)を使った TVCM が気になって、『ブルース・ブラザース』のファンとしてはどんなものか観ておかなくてはなるまい…と思っていたのでした。
日本では今月から上映が始まったばかりで AA の機内では日本語版が用意されていなかったので、英語音声+英語字幕にて鑑賞。

実在した黒人ピアニストの “ドクター”・ドン・シャーリーと、彼が雇ったイタリア系白人の運転手トニー・”リップ”・ヴァレロンガの二人がコンサートツアーの旅を通じて遭遇するさまざまな出来事を描いた作品です。タイトルにもなっている「グリーンブック」は、まだ黒人差別が根強く残っていた当時のアメリカ南部において、黒人が利用できる施設を記したガイドブックのこと。
黒人の中では裕福な家庭に生まれ、ホワイトハウスで演奏したりカーネギーホールの上階に住むなどピアニストとしても成功したドク・シャーリーに対して、用心棒や賭博などでその日暮らしの生活を営み、粗野な言動が目立つトニー。当時のアメリカの白人と黒人のおかれた環境からすると対象的な状況ですが、トニーは報酬がいいことを理由にドックの運転手の仕事を引き受け、8 週間にわたる南部のコンサートツアーに同行します。そこで衝突する二人の価値観や二人が遭遇するさまざまな人種差別、そういうものを経て二人の価値観と関係性がどう変わっていくか…に焦点を当てた物語。


これ、単に高潔な白人が差別を受ける黒人を救う話だったらこんなに面白くなかったはず。粗野な白人と高潔な黒人という逆転した組み合わせの二人がアメリカ南部を行く話だからこそ面白い。

  • ちょっとした万引きを当たり前のようにするトニーを強く咎めるドク
  • 手づかみで物を食べたことがないというドクに対して「ケンタッキー(州)でケンタッキー(・フライドチキン)を食べるなんて最高じゃねえか」と言いながら強引に食べさせるトニー
  • 黒人 NG なんてお構いなしに一人であっちこっち行ってはトラブルに巻き込まれるドク、それを助けに行くトニー
  • ボキャブラリーに乏しいトニーが妻に宛てた手紙を毎回添削してやるドク
  • 映画の冒頭では黒人を差別していたのに、終盤では不当な扱いを受けるドクの代わりに白人にキレるトニー

少しずつ変わっていく二人の関係性がすごく良い。おっさん二人が旅しているだけなのに、次第にこの二人に対してなぜか「かわいい」という感情が湧いてきます(笑。個人的にはちょいちょい挟み込まれ、最後のオチにも使われる手紙の添削のエピソードがすごく好き。
ベースにあるのは当時の(今も地域によっては残っているに違いない)アメリカ国内の人種差別なんですが、それをストレートに描くと重々しい作品になってしまうところ、問題提起はしつつもあまり重苦しくしない脚本が良い。特に爆笑ではなく「プッ」と笑わせてくるコメディのセンスが秀逸で、私は飛行機内にもかかわらず鑑賞中に三回くらい声が出てしまいました(笑

あとこの映画、特に音楽がいい。ドン・シャーリー自身が演奏するジャズやクラシックはもちろんのこと、劇中で使われる楽曲も 1960 年代のオールディーズやソウルが中心で、私のツボを突いてきます。Aretha Franklin の楽曲ももちろん出てきますが、残念ながら “Think” じゃなかった(´д`)。あの CM、日本の映画業界らしくけっこうミスリードを誘う作りじゃないですかね…。

さておき、主人公トニーを演じるのはなんと『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズでアラゴルンを演じたヴィゴ・モーテンセン(!)。あの高潔な勇者から粗野な太ったおっさんへのギャップ。この撮影のためにわざわざ 20kg くらい増量したというからすごい。言われなければ同一人物だとはまず気付きません。私は『ロード~』以外で彼の出演作を観たことがありませんが、こんなに演技の幅がある人だったんですね…。
対するドクを演じるマハーシャラ・アリの芝居もいい。最初はお堅い感じなのに、次第に打ち解けてお茶目な一面を見せ始めるジワジワとした変化が秀逸。と思ったら、何と本作でアカデミー助演男優賞を受賞していたんですね(ヴィゴ・モーテンセンのほうは主演男優賞ノミネート止まり)。

アカデミー賞抜きにしても、いい映画でした。今年ここまで観てきた中では(ってもまだあまり観てないけど)一番良かったような。『ボヘミアン・ラプソディ』のような派手さがないのであまり話題になっている印象がありませんが、個人的にはとてもおすすめです。

コメント

スポンサーリンク