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シド・ミード展に行ってきました

秋葉原(末広町)で開催中のシド・ミード展を見に行ってきました。

シド・ミード展 PROGRESSIONS TYO 2019

私自身はシド・ミードが関わった作品をさほど多く観ているわけではないんですが、『ブレードランナー』と『∀ ガンダム』の二作品にはけっこうな影響を受けていて、それだけでも美術展を見に行く理由になり得るのがシド・ミードのデザインの強いところ。

なお、本美術展は基本的に撮影可(ただし一眼カメラやコンパクトデジカメ等は NG でスマホレベルまでが許可)でした。

シド・ミードが作品を通じて提示してきたのは、一貫して未来なんですよね。
それ故に多くの SF 映画でアートワークやメカデザインを任され、直接関わらないまでもその影響を受けた作品群の存在まで考えると、ミードは間違いなく現代の SF 映画の世界観の礎を築いたデザイナーであると言えます。

展示内容はミードのかなり初期のデザインから最新作まで網羅されています。
シド・ミードは当初フォードに入社してカーデザインを担当していたとのことで、当時のデザインはクルマ関係多め。そのどれもが「当時イメージされていた未来」であり、我々はもしかすると当時からそれと知らずにシド・ミードが描いた未来予想図を目にしていたのかもしれません。


その後、ミードのデザインは次第にクルマ単体からそれらが存在する世界観を表現するものに変化していきます。
例えば『ブレードランナー』では、当初ミードはリドリー・スコット(監督)に作品のビークルデザイナーとして起用されたものの、クルマ(スピナー)の背景に描かれた世界観が作品のイメージをあまりに膨らませるものだったため、あの印象的な都市デザインなど世界観そのものの構築を任せられたとのこと。
それから三十数年が経って、現代の香港や台北がまるで『ブレードランナー』を具現化したような街になっている事実は、ミードの先見性の高さを証明していると言えます。

これなんて完全にスペースコロニーですよね…。
これが 1979 年の作品ということは、果たしてそれがミードの先見性によるものなのか、それとも人類は誰かが描いた未来図を具現化しているだけなのか、実際はどっちなんだ?とぐるぐる考えてしまいます。

この展示会にはちょっとした仕掛けも用意されています。
専用の AR アプリをインストールしたスマホ(iOS/Android)をイラストに掲げると、

マーカーレス AR でそのイラストのラフ画が見えるという。
最終の絵も素晴らしいけど、このラフは「どういう試行錯誤の結果クリンナップされていったのか」「どんな図形の組み合わせで描かれているのか」「どこにパースの消失点があるのか」といった視点で分析的に見ることもできて、これも面白い。

展示の前半は工業デザイナー/イラストレーターとしての作品群でしたが、後半は SF 映画のアートディレクターとしての展示になっていきます。さすがに映画関係となると権利処理が難しいためか後半の展示はほぼ撮影不可。『∀ ガンダム』関連の展示のうちいくつかだけが撮影可という状況でした。やはり映画に関わり始めてからがシド・ミードの真骨頂ともいえ、それが撮影できないのはちょっと残念でしたが、実際にコーナーに入ってみると写真のことなど忘れて展示に見入ってしまいました。

ターンエーガンダム。放送前にシド・ミードがデザインした本機の設定画が発表されたときの世の中の反応は今でも憶えています。私も設定画だけを見たときにはちょっと変に感じたものでしたが、実際にこれが動き、戦争のためではなく平和のために活用されていく姿は格好良く思えたなあ。今にして思えばホワイトドールの超未来におけるロスト・テクノロジー感や戦争のための道具でない雰囲気は従来のガンダムの文法の中からではなく、シド・ミードの世界観から生まれたからこそ持ち得たものではないかと思います。
円弧状の曲線が調和的に繋がっていく肩、腕、脚のラインが本当に美しい。正面ではなくこの横から見た歩く姿がターンエーのデザインの本領ではないでしょうか。

そしてターン X。放送時点ではいくら映像を見てもこの構造を理解することができず、MG を自分で組み立てたことでようやく腹に落ちました。これもターンエー以上に、従来のモビルスーツのお作法の中にないデザイン。ミードは何を考えてこれをデザインしたのか…。

ちなみに上記のターンエーとこのターン X は原画(撮影不可)のほかに写真のとおり天井まで届く高さの大判プリントで展示されていました。これがまた圧巻でしたね。

シド・ミードって他の誰にも思いつかなさそうな独創性があるせいで例えクライアントであっても口が出せないようなイメージがありましたが、ここで展示されていた『ブレードランナー』や『∀ ガンダム』に関するデザインストーリーを見る限りでは、実際にはクライアントの要望をふまえた上で熟考と試行錯誤の結果としてデザインを追い込んでいくアプローチを採ることが多いようですね。しかしそれはアートではなく工業デザイナーとして始まった彼のキャリアを考慮すれば、とても自然なことのように思えます。

さておき、伝説のデザイナーであるシド・ミードの原画に圧倒される美術展でした。「とことん未来のことしか考えていないデザイン」に曝されると、人は元気が出てくるものなんですね。

シド・ミード展(東京開催)は当初今週末までの予定でしたが、二週間ほど延長されて 6 月最初の土日まで続くことになったようです。興味のある方はお早めにどうぞ。

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