『TENET テネット』がとても面白かったので、クリストファー・ノーラン作品の中で未見のものをこの際に観てみようと思い、『インセプション』を Netflix で鑑賞しました。
劇場公開時にはタイミングが合わなくて観ていなかったけど、これもう 10 年経っているんですね。
『TENET』や『インターステラー』が時間の概念をギミックとして活用した作品だったのに対して、本作は人間の「夢」(眠っているときに見るほう)が題材。人間の潜在意識にあるアイデアを「夢に入り込むことで」盗み出す産業スパイ、コブ(レオナルド・ディカプリオ)が主人公です。日本人企業家のサイトー(渡辺謙)の依頼に従い、サイトーの商売敵であるロバートの夢に潜入し、アイデアを盗むのではなく逆に会社を潰すというアイデアを「植え付ける(インセプション)」するミッションを負う、というスパイ物。
スパイものだけど SF 的な設定が加わることでストーリー的にも映像的にもギミック満載…という映画の作りはまさに『TENET』と同系統。しかしその題材が時間ではなく夢や深層心理ということで、『TENET』とはまた異なる複雑さをもった物語になっています。特に夢に関するルールは下記の通り非常に複雑。
- 装置を使うことで夢の中で誰かと繋がる(誰かの夢の中に入り込む)ことができる
- 夢の中では時間経過は現実の 20 倍になる
- 夢の中で外部から三半規管に強い刺激を与えることで夢から覚める
- 夢の中で死ぬことによっても目が覚める
- 覚醒するほどではない三半規管への刺激は、夢の中が無重力状態になるなどの影響を及ぼす
- 夢の中ではさらに夢を見ることができる。それも何層にも
- 夢は階層を下りるほど不安定になっていく。最下層は「虚無(Limbo)」と呼ばれる
- 意識せず虚無に落ちたものはそこが夢であることを認識できず、現実に帰還できない
- 強力な鎮静剤を使用して夢を見ていた場合、その夢の中で死ぬと虚無に陥り覚醒できない
よくもまあこんな変態的な設定を考えついたものですね(誉め言葉)。これだけ複雑なので、映画の序盤は基本的なルールを説明するためのチュートリアルを兼ねた構成になっています。
ストーリーやコブに課せられたミッション自体は映画全体を通してみると割とどうでも良くて(笑)、夢の多層構造を活用した映像とシナリオ構成上のギミックを楽しむことと、コブが彼自身の深層心理と向き合った結果がどうなるのか?を見届けるための映画だと言えます。中盤以降は夢の多層構造の中で誰がどの階層でどんな状態にあるのかが矢継ぎ早に切り替わっていき、初見ではついていくのがやっと。でも「頭で理解しようとせずに、感じる」だけでも十分にアドレナリンが出るし、CG を極力使わずほぼ実写だけで実現されたという映像のパワーに打ちのめされます。
ノーラン作品を立て続けに二作観て感じたのは「よく解らないんだけどちょっとだけ解る」のバランスが絶妙なこと。難解なんだけどある程度はちゃんと解る程度に説明されていることで、よく解らない部分の面白さが増幅される作りになっているんですよね。リピートすることで理解が深まり、さらに面白くなる。映像や音響も派手だから映画館で観るのが最適だけど、ディスクや配信で繰り返し観るのにも適している。実によくできています。
こうなるとノーランの過去作ももっと掘り返したくなってきました。アメコミ原作の実写映画はあまり好みではない(というかたくさん作られすぎていて追いきれないから『スパイダーマン』以外は手を出してない)んですが、特に評価の高い『ダークナイト』シリーズはやっぱり観ておくべきなんでしょうか。
コメント
ノーラン作品は「ダークナイト」シリーズと、「インターステラー」しか見ていないんですが、
ダークナイトは観るならジョーカーが出てるやつでしょう。あとのはボンクラ金持ち小僧の煮え切らない正義感がうっとおしいので疲れます。
そうそう、なんかそんな予感がして食指が伸びないのよね…。