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最後の決闘裁判 @TOHO シネマズ新宿

こちらの映画を観てきました。

最後の決闘裁判

最後の決闘裁判

マット・デイモンとベン・アフレックの共同脚本、主演はこの二人に加えてアダム・ドライバー、そして監督はリドリー・スコットときたら観に行かないわけにはいかないでしょう。でもなかなか予定が合わず先送りにしているうちにどんどん終映していき、上映館が限られる状況に。あまり大規模に宣伝されていなかったとはいえ封切り三週間でほぼ終わりって早すぎじゃないですかね…まあ『DUNE』『007』という大作とタイミングが被ったし今後も公開延期されていた映画が冬休みに向けて続々公開されていくので、上映スケジュールが過密状態になっているということですが。

舞台は 13 世紀、百年戦争下のフランス。貴族と騎士が統治する封建制のもと、フランスとイングランドが争っていた時代の実話に基づいた作品です。ストーリーを理解するのに世界史の知識はあまり必要ありませんが、この時代の価値観(日本の武士統治時代のそれに近い)は念頭に置いておく必要があります。
物語は、自らの妻に対して性的暴行を働いた元親友に対して決闘による裁定を求めたある騎士と、その事件にまつわる話。テーマがテーマだけに重めの作風になっています。

本作の主要登場人物は以下の 4 人。

  • 騎士ジャン・ド・カルージュ(マット・デイモン):勇猛な騎士だが向こう見ずで気性が荒い性格が災いして伯爵との折り合いが悪く、冷遇される状況にある。家柄を重視し男性優位の伝統的な価値観を持つ
  • 従騎士ジャック・ル・グリ(アダム・ドライバー):カルージュの元親友。対照的に武芸よりも文化芸術を嗜む知的な男。平民出身だが実務能力の高さでピエール伯爵に重用される
  • マルグリット(ジョディ・カマー):カルージュの若く美しい妻。かつてフランスからイングランドに寝返った貴族の娘で、カルージュは当初は半ば財産目当てでマルグリットと結婚する
  • ピエール伯爵(ベン・アフレック):時のフランス国王シャルル 6 世の従兄弟。贅沢の限りを尽くす傲慢な男だが、実は計算高い一面も持つ

映画はいきなりクライマックスの決闘シーンから始まり、一転過去に戻ってこの決闘が行われることになった経緯を振り返っていきます。三部構成になっており、第一章はカルージュの回想、第二章はル・グリの回想、そして第三章は「真実(The Truth)」と銘打たれてマルグリットの回想を経て決闘の決着までが描かれます。一つの事象を三者三様の観点で表現していて、立場や見方によって全く異なった印象を受けることが俳優陣の芝居も相まって明確に描かれています。

カルージュの立場からは「自分はこんなに実直にやっているのに報われない。伯爵とそれに取り入ったル・グリによって陥れられているのではないか。また自分は妻をとても大切にしている」という状況が描かれます。対照的にル・グリの視点では「伯爵に振り回されながらも何とか親友を助けようとしてきたのに理解してもらえない。一方でマルグリットにはカルージュよりも自分の方が相応しいのに、カルージュに抑圧されてかわいそうだ」という複雑な思いが伝わってきます。そして二人の男に振り回され、実際の被害者となったマルグリットはその状況で何を思っていたのか。
「真実」と謳われると二人の知らない新たな視点が出てくるのではないかと思っていました。あるいはマルグリットがこの状況を利用して自分の願いを叶えようという強かな女性であったのかもしれない。しかし三つの章で描かれていたのはいずれもそれぞれの立場から見えた事実の積み上げに過ぎず、二人の男の身勝手さとその結果行われた元親友同士の決闘、そしてそれさえも見世物として消費してしまう人々の残酷さが淡々と映像にまとめられていたように見えました。結局のところ「真実」なんてのはある事象に誰かの願望をまぶしたものであり、事実は淡々と、そして残酷に進行していく…というのがこの映画が真に伝えたかったことなのかもしれません。事実はどうあれ、決闘裁判の「神は正しい者に加護を与えるから、決闘の勝者の主張が全て認められる。敗者は死ぬのみならず名誉すら奪われ辱められる」というルールがまた厳しい。

監督がリドリー・スコットということでアクションシーンに期待していましたが、派手だったのは本題の決闘シーンと百年戦争の戦闘シーン(それもちょっとしかない)程度であとは淡々と緊迫した会話劇が続きました。これはちょっとリドリー・スコットの無駄遣いでは?とも思ったけど、決闘シーンはリドリー・スコットらしい重く痛いものでした。
逆に良い意味で驚いたのがアダム・ドライバーで、どうしてもスター・ウォーズ新三部作におけるカイロ・レンの情けない演技のイメージが強かったのですが、これほど演技の幅が広い役者だったとは。今や大ベテラン俳優となったマット・デイモンやベン・アフレックに負けない印象を残してくれました。

テーマ的に万人受けするものじゃないし、続々公開される大作と比べると地味な印象は否めませんが、映画として良い作品でした。エンディングがスッキリするものではないけれど、ちょっとモヤモヤする結末のほうが後を引くものです。この佳作が早くも終映間近、というのが非常にもったいない。

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