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『歓喜』ホンダ F1 苦節 7 年、ファイナルラップで掴みとった栄冠

長年 F1 を現場取材し続けるモータースポーツジャーナリスト・尾張正博氏によるホンダ F1 第四期参戦を綴ったドキュメンタリーを読了。

尾張正博 / 歓喜 ホンダ F1 苦節 7 年、ファイナルラップで掴みとった栄冠

ドライバーズポイント同点で臨んだ最終戦アブダビ GP、レースをメルセデスのルイス・ハミルトンに終始支配されながらもファイナルラップで大逆転勝利を飾り、第四期ホンダ F1 として初かつ唯一のドライバーズチャンピオンを獲得したレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペン。その興奮もまだ記憶に新しいところですが、本書はその第四期を総括した一冊です。

マクラーレンとのジョイントで F1 に復帰した 2015 年から 2017 年限りでの提携解消、トロロッソと組んでの再出発、レッドブルとのコラボレーションから初優勝、そして突然の撤退発表からのチャンピオン獲得。ホンダの第四期 F1 は本当にジェットコースターに乗っているかのような振幅の大きさでした。核となったパワーユニット開発に関しては技術的にはこれまでに何回か放送された BS1 スペシャルやF1 速報の全 4 部にわたる特別編集ムックのほうが詳しい部分もありますが、本書は第四期ホンダ F1 の全体像をストーリーとして振り返るのに適切な内容になっています。特にマクラーレンとの提携解消劇に関して、一方的にマクラーレンを悪者にするのではなく客観的な視点で書かれているのは良いと思いました。それでいて、書籍全体を通してホンダに対する熱い想いが溢れているのがまた良い。

書かれている内容はホンダ F1 を長年追っかけてきた私にとって既知のものも多かったですが、本書で初めて知った主なポイントは以下の三つ。

  • 第四期初優勝を飾った 2019 年オーストリア GP ではチーム無線「Engine 11, Position 5」(PU のパフォーマンスを引き出すモードのひとつ)が有名になったが実際にはさらに上のモードがあり、ルクレールをオーバーテイクして首位に立ったときに使っていたモードは「Engine 11, Position 7」
  • 第四期 F1 活動の終了は 2020 年 10 月に発表されたが、実はホンダ内では 2020 年の延期されたシーズン開幕(7 月)よりも前に既定路線となっており、その時点で山本 MD からレッドブルのヘルムート・マルコには伝えられていた
  • 2021 年のトルコ GP で使用された RB16B の「ありがとう」特別リバリーは当初 RA272 同様のアイボリーホワイトで塗装される予定だったが、アイボリーの塗料が想定よりも重かったため軽量化と作業性重視でクルマにフィルムを貼った上でホワイト塗装された。レース後にはフィルムを剥がして通常塗装に戻されたため、現在ホンダが所有する RB16B は再塗装されたもの

第四期の終了は 2020 年の夏頃に決定したという話は聞いていましたが、開幕前には決まっていたというのは正直驚きました。まああの頃(2020 年春~初夏)はどの企業も COVID-19 の影響で当期の売り上げと利益がどうなるのかさえ読めず、とにかくキャッシュアウトを止めにかかっていたからあの時点でああいう決断に至った経緯は想像に難くないですが。

ともあれ、ホンダ F1 の七年間を振り返るのに最適な一冊でした。事実の網羅具合と熱さのバランス感がすごく良い。270 ページ超のボリュームで読み始める際には気合いを入れたのに、気がついたら一気に読み切っていました。
一日も早い「第五期」の報せ、今から待っています。

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