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神々の山嶺 @ヒューマントラストシネマ有楽町

ゆるキャン△の翌週にガチ登山の映画を観てきました。

神々の山嶺

神々の山嶺

夢枕獏原作・谷口ジロー作画によるコミックのアニメーション映画化です。しかもこれ国内ではなくフランスで制作されたものの逆輸入。谷口ジロー先生の作品がフランスで高く評価されていることは知っていましたが、映画の原作として採用されるレベルなんですね。もともと谷口ジロー先生の作画はフランスの漫画家ジャン・ジローの影響を色濃く受けているので(両者ともに「ジロー」なのはできすぎた偶然)、フランスに親和性が高いのも解ります。
しかしそういう出自だから上映されるのも単館/小規模系映画館が多く、しかも一日の上映回数も限定的。今回は初めて有楽町のヒューマントラストシネマを利用しました。有楽町イトシア、何十回も前を通っているのに初めて入った…。

「そこに山があるから」で有名なイギリスの登山家ジョージ・マロリー。エベレスト登頂中に遭難した彼は果たして世界初の登頂を成し遂げていたのか?「マロリーのカメラ」とされるものに出合った山岳写真家の深町がその謎を求め、カメラの発見に関わった伝説的な登山家・羽生の行方を追うところからストーリーは始まります。しかし最終的にはマロリーの謎よりも羽生の登山との向き合い方に主眼が置かれているようで(漫画の方も最終的にはそうでしたが)、脚本は大胆に再構成されています。深町は狂言回しに徹し、羽生を軸にしたストーリーになっている。でも全 5 巻のコミックを 90 分あまりの映画に収めるには必要な割り切りだと思うし、筋の通った物語として成立していると感じました。

映像はまさに谷口ジロー先生の絵をそのままアニメーションに落とし込んだかのような美しさ。緻密さでいったらジロー先生の絵の方が上だけど、映像になることで広大さや奥行きが出て山の美しさと怖さの両面性が見事に表現されていると感じました。山以外のシーンでも、特に深町が日本にいる場面なんかでも日本の雰囲気が山とは対照的に表されていてとても良い。日本人の目で見るとところどころ日本語の文字表現がおかしい(縦書きだと音引き「ー」が縦表記になるべきところが横表記のままとか)箇所もあるけど全体として不自然なところはほぼなかったし。唯一、深町と編集長がラーメンを食べるシーンでラーメンにスープがなくほぼ油そば状態だったのと、にも関わらず「丼から直接汁をすする」描写があるのだけは気になりました。でもそれを除けばフランス映画で日本のジメッとした空気感までもが表現されているのは素晴らしいと思った。
あと微妙に違和感があったのはキャラクターの表情の動かし方がところどころアメリカのカートゥーンっぽかったところですかね。まあこれも全体の良さからみれば些末な点です。

改めて漫画版と比較すると、漫画の方は絵の描き込みもすごいけどキャラクターの心理は文字で描写されている部分も多くて、相互補完しながら表現されています。対して映画は心情をモノローグで表すようなことはせず、状況、表情、息づかいを含む映像で多くを語っている。なのにそこから自然の厳しさや絶望感がありありと伝わってきます。表現手法が全然違いながらも、総じて「コミックが忠実にアニメ映画化されている」と感じてしまうところがすごい。日本語吹替でメインの二人を務める堀内賢雄・大塚明夫という二人の大御所の声も作品の重厚感を増しています。

もう真夏なのに、自分も一緒に冬山に登ったかのような寒さを感じられる作品でした。日本アニメとは違った手触りなのも作品とマッチしていて良かった。山好き、あるいは谷口ジロー好きならば劇場に足を運ぶ価値がある映画だと思います。私は漫画版をもう一度最初から読み返したくなりました。

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