観ました。
私の小学生時代は『ドラゴンボール』と『聖闘士星矢』がバイブルでした(アニメは放送している局がない地方だった…)。黄道十二星座の並び順やラテン語読みとか光や音の速さは聖闘士星矢で学んだと言って良い。この映画は観る前から微妙な出来であることが確信できましたが、指ぬきグローブをすると小宇宙(コスモ)が燃え上がってくるど真ん中世代としては自分の中の小学生男子にこれを見せる責任がありました。
主人公・星矢役は新田真剣佑。しかし制作はハリウッドで、星矢以外のキャラクターは設定を変更した上で海外の俳優が出演しています。近年マンガ原作のアニメ化や実写化は作品愛のあるスタッフや出演者によって良い出来に仕上がる例が多いので、本作はそういう意味で初手から厳しい印象を持っていました。ちなみに私は日本語の方が原作の雰囲気を感じられるだろうと思って吹替版を鑑賞。
聖闘士星矢といってもとても長いストーリーのどこを切り取るのか?銀河戦争編なのか暗黒聖闘士編なのか、それとも一番人気の黄道十二宮編をやるのか…と思っていたら、基本的には原作の設定やプロットを利用しながらも脚本は大幅に書き換えられていました。まあ、城戸光政が産ませた百人の私生児を聖闘士に鍛えるという初期設定からしてハリウッドでの映画化には向いてない話だし、改変はあるだろうと思っていましたが…。
冒頭に出てきた射手座(サジタリウス)のアイオロスと山羊座(カプリコーン)のシュラの戦いが思いのほか良かったから「おっ」と思いましたが(特に説明がなくても何のシーンか解る古参ファン)、そこからどんどんテンションが下がっていく感じでした。
■キャラクター
オリジナルに忠実だったのは星矢とその師である魔鈴くらい。それ以外はほぼ設定が変えられていました。それでもストーリーのために意味のある改変であれば否定しないのですが、城戸光政の役どころを「シエナ(アテナ)の養父母」という形で分割した挙げ句、実際にやっていることは夫婦喧嘩に星矢たちを巻き込んでいる話だからなあ。
でもそれよりもキド家の執事マイロックですよ。坊主頭にサングラスという出で立ちで VTOL の操縦から射撃、格闘までこなすつよつよ執事。脚本の都合以上に優遇されていて、ちょっとあざとさを感じるほど。でもこれオリキャラだっけ?とよーく思い出してみたら、城戸家の執事といえば辰巳徳丸じゃん!いくらなんでもカッコ良く改変しすぎでは。間違いなく人気出るだろうけど、このキャラを立たせるよりも他にやるべきことがあったんじゃないの?
ちなみにアテナの養父アルマン・キド役が『ロード・オブ・ザ・リング』でボロミアを演じていたショーン・ビーンで驚いたのですが、正直言ってショーン・ビーンの無駄遣いではないかと思います(ショーン・ビーン自体の演技は良かったです)。
■アクション
スピード感はあるし殺陣も悪くはない。ペガサス流星拳の演出は実写ベースだとまあこんな感じだよね…というシックリ感はあります。
でも、格闘戦のアクションがカンフーをベースにしていて聖闘士星矢のバトルとはちょっと別物に見える。ワイヤーアクションを多用することもあり、マトリックスの劣化コピーを今さら見せられているような感覚。せめてあのカンフー的な前フリがなかったら少しはマシだったかもしれないのになあ。
■聖衣(クロス)
賛否両論ある聖衣のデザインですが、個人的にはオリジナルのデザインをリスペクトしつつ実写へ落とし込んだ結果としてはアリ。古代ギリシャの甲冑のモチーフを取り込むのも理に適っていると思ったし、聖衣が普段は箱ではなくペンダント状というのも映像的には良い解釈。ペガサスの聖衣が初出時にはシンプルな胸当て形状なのが後半で逆三角形のアーマー状になるのも原作オマージュで良い。でも本当は初期状態は星座を象ったオブジェになっていて、それが分解して全身に装着されるというギミックはやってほしかった。
ネガティブな点を挙げるとすれば聖衣の色が全体的に暗くて地味なんですよね。だからどうしても聖衣というより単なる甲冑に見えるし、生身のときにキレキレだったアクションが聖衣を着ると逆に重ったるく見えて、作中の重要アイテムである聖衣を活かし切れていないと感じました。そもそも聖衣自体がなかなか出てこないし…。
■脚本
基本的に 35 年前の漫画が原作だから最初から「アテナとは」「聖闘士とは」「聖衣とは」「小宇宙とは」といちいち説明していかなくてはならない事情はあります。その辺のケアが手厚い印象もあるけど、なんか全体としてのバランスが悪いというか…魔鈴との修行シーンが長すぎて「これ二時間でどこまで進むの?」と不安になるくらいでした。神々の戦いが…とかスケール大きめで始まる割に実際に起きていることは夫婦喧嘩だし、悪役が悪役になりきれていないから結末も消化不良気味だし…ううむ。聖闘士星矢に限らずこの時代のジャンプマンガは絶体絶命な状況からでもなんか想いの強さで大逆転!みたいな熱さと勢いが良さだと思っていたので、そういう要素がないとテンションが下がってしまうんですよね。東映アニメーションが手がけるならばハリウッドで実写化よりも『ダイの大冒険』のチームでアニメをリブートしたほうがうまくいったのでは、と思います。
というわけで、最初から期待値を下げて観に行った結果、予想通りに微妙なものを観て帰ってきた、という話でした。失敗してもいいようにファーストデー(¥1,200 で観られる)に行って正解でした(ぉ
東映的には『The Beginning』ということで続編を作る意志はありそうなのですが、これの続きはちょっとないだろうなあ。
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