先日鎌倉に行った際に、お昼はこちらのお店でいただいてきました。
かつて京都に店を構え、五年連続でミシュラン・ビブグルマンにも選出された Restaurant La table au japon が 2019 年に湘南に移転してきました。私は京都時代に一度行ったことがあり、移転以来ずっと伺いたいと思いつつも湘南って東京から微妙に遠くてなかなか機会がありませんでした。このたび鎌倉に写真撮影に行くにあたり、そういえば鎌倉からなら近いじゃん!と思い至って前日に電話してみたところ運良く予約できました。鎌倉での予定を全部組み替えてこの店に来ることを中心にスケジュールを立て直しました。
場所は江ノ電の湘南海岸駅からすぐ。ホームから看板越しにお店が見えるほどの距離にありました。
湘南海岸駅の鎌倉方面改札を出たら踏切を渡り、線路と建物の間にあるほっそい通路の先がお店の入口です。スマホで地図を見ていてもどこから入ったら良いか分からないかもしれません。予約の電話をした際にもお店への入り方について説明されるくらい難易度が高い。
屋根裏部屋みたいなところだった京都時代とは違い、天井が高く明るい店内。立派なクリスマスツリーが飾れるくらいの高さがあります。
京都時代にも伺ったことがある旨を伝えたところ、シェフの奥様が「天井高くなったでしょう!」と嬉しそうに話してくださいました。
豊富な選択肢から自由に組み合わせられるコースメニューは京都時代同様。値段がそれなりに上がってしまいましたが首都圏の地価や近年の物価高騰を考えれば致し方なし。
フレンチのコースをいただくこと自体ずいぶん久しぶりだから、このメニューを見るだけで心躍ります。
スープ+メイン+デザートの「コース C」が追加されていました。
この店、フレンチにしては料理のボリュームがあるから女性のランチ会ならこれくらいでも十分かもしれません。
飲み物はまずスパークリングワインから。
ずっと念願だったお店との十年ぶりの再会に祝杯。十年前と同じく、カウンターで独りフレンチのコースを頼む変な客です。
アントレ(前菜)は「はかた地鶏とレバーペーストとクルミ、レーズンのテリーヌ」。パテとかテリーヌとかいったものに目がない私です。
さまざまな素材が多層に組み合わされた一品だけど、それぞれに味も食感も違うのが食べていて楽しい。鶏肉の旨味と歯ごたえ、クルミとレーズンが組み合わさった香ばしさ、そしてレバーペーストの絶妙なおいしさ。スパークリングワインにこれ以上合う料理もないんじゃないでしょうか。
故郷の味に再会すると思いがけず涙がこみ上げてくることってありますが、そうじゃない料理に対しておいしさのあまり泣くことって滅多にあるもんじゃない。でもここの料理は本当に涙が出そうになります。
前菜に対してちょうど良いペースでスパークリングワインが空いたので、次の一皿に向けて白ワイン。
キリッとした酸味のあるミュスカデで魚料理を迎えたい。
本日のお魚料理は「真鯛のポワレ ブイヤベースのソース」。
皮はカリッと、身はフカフカな食感に焼き上げられた真鯛。それそのものの味はやや淡泊ながら、ブイヤベースに浸しながら食べれば真鯛が魚介の旨味をしっかり受け止めて最&高。
ブイヤベースに沈んでる細長い穀類は麦系ですかね?モチモチ、プチプチした食感が楽しい。これもまたブイヤベースの旨味を引き受けるもう一つの主役。
ふと振り返ればガラス戸の外を江ノ電が定期的に通り過ぎていきます。自分がフレンチを食べている席からほんの 5m も離れていないところを江ノ電が走っている不思議。電車好きな人にとっては特等席じゃないでしょうか。京都の屋根裏も面白かったけど、江ノ電の線路スレスレという今の立地も負けず劣らず愉しい。
さて、次はメイン料理を迎えるにあたって赤ワインに切り換えていきます。
肉料理に相対するなら当然ボルドー。この重ための味と香りがいいんですよ。
メインに選んだのは「黒毛和牛ホホ肉の赤ワイン煮込み じゃがいものピューレと」。
ブッフブルギニヨンが大好物なので、フレンチに来ると肉料理はどうしてもこういうものを中心に据えてしまいます。
牛のほっぺたに触ったことなんてないけど、ナイフを入れた瞬間に「きっと人間の赤ちゃんのほっぺみたいに柔らかいんだろうなあ…」と想像してしまうほどの柔らかさ。食べる前から既に恍惚を感じる。
噛み切る必要を感じないほど柔らかな牛ホホ肉。それに赤ワインを煮込んだソースが染みて文句なしのおいしさ。じゃがいものピューレがまた、残りの赤ワインソースを吸い込んでそれ自体がご馳走になる。
さりげなく添えられた焼き野菜の数々もそれぞれがおいしい。
そういえば京都時代のお店に行ったときにもテリーヌと牛ホホ肉の赤ワイン煮込みを食べたんだった。結局、自分が一番好きなのってこのあたりなんですよね。
奥様曰く、この赤ワインソースは京都時代から継ぎ足し、継ぎ足しで育ててきたものだそうです。「シェフはもし火事になったらこのソースを抱えて逃げると言ってます」とのこと(笑)。本当に老舗の鰻屋のタレに匹敵する、価値あるソースです。
デザートは温かいチョコレートのケーキと木苺のシャーベットを選んでみました。
純白の平皿にちょこんと二つ並んでいる様子がかわいらしい。
温かいチョコレートのケーキ、いわゆるフォンダンショコラってことだと思いますが…フォークで割ってみると、
中から想像以上にトロットロのチョコレートが溢れてくる!まるでチョコレートファウンテンを内に秘めたケーキだ。
カカオの濃厚な香りを感じながら、まったり、もったりと楽しむチョコレートケーキ。酸味が爽やかな木苺のシャーベットと組み合わせられていた理由がよく分かります。
ホットコーヒーで余韻に浸ります。あぁ、なんと満たされた食事だったなあ…。
実はフランスロケもあった『劇映画 孤独のグルメ』を観て以来ずっとフレンチが食べたかったので、その願いが他でもないこの店で叶えられたことが幸せ。
食後、シェフも厨房から出てきてくださって少しお話をさせていただきました。さすがに十年前に一度来たきりの私のことは憶えていなかったようですが(そりゃそうだ)、京都時代のこと、今のこと、そしてこの店を紹介してくれた私の友人のこと、いろいろと伺うことができて楽しかったです。シェフと奥様の人柄が、料理のおいしさと同じくらいこの店の居心地の良さを生み出しているように感じます。
久しぶりに来ることができて本当に良かった。きっとまた食べに伺います。今度は、何かの記念日にでも利用したいところです。
ごちそうさまでした。
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